1 日常a ①
真っ赤な鉛筆、ミントの香りの消しゴム、指定の
窓際に並んでいる沢山の観葉植物の緑色が風にそよいでいる。そんな風は、心の中のもやもやとした感情を流し去ってくれそうな気がした。
窓の外の朝の空。雲ひとつない空は真っ青すぎた。目に映っているのは空なのかガラスなのかわからなかった。
いつもと変わらない朝の教室の風景。女子生徒たちの
「……今日の
「ナンバーワン運勢か。だと思った」
「おはよう、毎日
登校してきた女子生徒が鞄を机に置きながら声をかけた。
「植物係だからな」
福原は
「ふふっ、福原君の
席に着いた女子生徒が、にやっと笑って教室の入り口を指差した。
廊下から黄色い笑い声が聞こえ、スポーツバッグを持った女子生徒が教室の後ろのドアを開けたところだった。彼女は廊下の
「あれって
「じゃあ、
「
彼女は後ろの
「窓から見えたぞ。非常階段使っただろ。ちゃんと玄関から来ないと
「そっか、非常階段使ったらいけなくって、玄関から来ないと風紀指導の教師に怒られるんだよね。なるほどね」
「ああ、疲れちゃった」
由紀は机の上に腰をのせ、「うーん」と
「汗
「シャワー浴びたよ。
由紀は周囲の女子生徒に笑顔を振りまいている。由紀が教室に入ってくると、妙に教室の空気の流れがよくなる気がする。笑顔が伝染するようなそんな感じだった。
「それにしても、陸上部の女子はストイックだよな」
「楽しいからね。大会とかで勝てると。だからみんなで練習を
「……まあな。可愛い由紀ちゃんの走る姿を見たかったんだよ」
福原は視線を
「エヘヘ、うれしいな」
「それより、あと十分でチャイム鳴るぞ」
登校した生徒たちが集まりだした朝の教室にはグロリアの曲が流れている。
「あ、早くしないとね。私のフェーズからだったよね」
由紀が
「そのゲームずっとやってるね」
由紀の後ろの席の女子生徒が
「オリジナルゲームのテストプレイみたいなの手伝ってあげてるんだよね。なかなか決着がつかなくて、あと一週間ぐらいかかりそうだよ」
「何か
「勝った方が、なんでも言うことを聞くんだよね」
「
「……えっ、そ、そうなの?」
「そのスカートの下に
「だ、ダメだよ、そんな……」
「パンツをもらう」
「……絶対に負けない」
由紀はキッと
「でも、由紀が福原君に勝てるとは思えないけどなあ」
女子生徒が笑いをこらえながら由紀を見た。
「どういう意味よお」
「だってさ由紀は頭を使うのは
「そのくらいの方が女の子は
由紀がむくれているので、福原はフォローしつつ机の上に座った。
「
「でも、この総合チェス、由紀みたいに考えない人間を相手にする方がやりづらいんだよ。たまに意外な行動を起こされたりして」
福原はチェス
「じゃあ始めよっか。あ、食べながらでいい? ねえ見て見て」
すでに由紀の機嫌は直っている。感情豊かな由紀は切り替えが早い。
「見てるよ。意外に小さいんだよな」
「今日のチャームポイントは、赤と緑と黄色のカラフルな感じです。ねえ、可愛い? エヘヘ、小さくて可愛いでしょ。リボンもついてるし」
「ああ、可愛いよ。でも、小さくても三つあるだろ」
「朝とお昼と放課後のぶんだからね。ちょっとずつのほうがいいんだよね。
「放課後はいらないんじゃないか?」
「放課後のぶんは、部活終わった後に、部室でみんなでつまんだりするの。フルーツとかチョコとか入ってる」
由紀は弁当を食べながら言った。
「自分で作ってんの?」
「うーん、今日もたまたま妹に作ってもらってるんだよね。お父さんのぶんも作るから労力は
「おっと」
「ほら。気をつけろ」
「……ありがと、すごい反射神経だね」
「ゆっくり食べな。せっかく
「中学生なのに
女子生徒がクスクス笑っている。
「
「うんうん、パーフェクトだよね。美少女で性格も良いし、声もアナウンサーみたいに
「可愛いだけじゃなくて、頭も切れるんだよな。きっと由紀の良いところを全部持っていった」
この学校の中等部に所属している由紀の妹は、高等部でも有名なのだ。表向き
「うるさいなあ、君の番だよ」
由紀がチェス
「ビショップを四マス前進」
「そうきましたか。ちょっと待ってね……」
由紀が考え込みつつ、ふと顔を上げた。



