2 Split Game ①
「要するに、
男の声。
混乱は不自然に
「まずは脱出することだよ。ここがどこだかは、それから考えよう」
声を出した者は、先ほど
部屋を確認する。学校の教室よりも
部屋にいる人数は十一人だった。福原は人数を何度も確認していた。何回数えても、もっと人がいる気がしたのだ。そして何度も背後を振りかえった。背中に誰かがいる気がしてならなかった。
ジャラジャラと部屋に音が響いている。鎖はとてもではないが切ることはできなかった。必死になって外そうとしたのだが、
そもそも、扉にはドアノブの
自分の姿を確認した。ジーンズと英字がプリントされた黒いTシャツ。自分の私服だった。いつもはめている腕時計などはなくなっている。
「大丈夫?」
小さな声が聞こえた。ロングヘアーの若い女性が、小学生ほどの女の子を抱きしめていた。彼女はもうひとりの女性のように取り乱したりはしなかったが、ずっと体を
部屋にはトランク状の箱が積み上げられている。まだ誰もそれには
またキューブ状の部屋の壁に丸いアナログ時計が一つかかっていた。しかし、それは十二時を指したまま動いていない。見ているうちにおかしな事にも気づいた。その時計は、針が一本しかなかった。
部屋は不自然なバランスで
「とにかく、なんとかしないと」
「
「なんとかしてよお」
頭を抱えた女性の声は震えていた。
「落ちつこう。この鎖だって外せるはず。大丈夫だから」
田中が作った声を出した。やっとパニックの
「ずっと考えていても、どうしてこうなったかわからない」
小学生の女の子を抱きながら女性が言った。
この膠着状態を動かすには何かが必要だった。状況打開の
「そのトランク」
「なんか嫌な感じだけど、見てみようか」
田中がうなずいた。確かに嫌な予感がするが、これ以上状況が悪くなることはないはずだ。
「……
田中のポジションからトランクまでは距離が足りない。田中は一番距離が近そうな男を見た。
福原たちの視線に
「もう少し……少し右」
ぎりぎりまで両手を伸ばしている男に、田中が指示を出す。男の指先が積みあがっているトランクの持ち手のひとつに引っかかる。
「よし」
男がトランクを引っ張った。
「きゃっ」
少女が小さく悲鳴を上げた。ガラガラっと激しい音が部屋に反響した。
福原は細く息を吐いてから、トランクを引き寄せた。
スチール製のトランクは真っ黒にペイントされている。ビジネスマンが持ち歩くものより少し大きい程度だ。
「開かない」
同じくトランクを調べた
「なんだ? このアルファベット」
「こっちにもアルファベット……Bだ」
田中が言った。
数人でさらに調べると、トランクそれぞれに別のアルファベットが割り振られていることがわかった。
「
福原はトランクとしばらく
そんな時、ふと気づいた。左手首の
「なあ、手錠にもマークついてないか?」
福原が聞くと、他の手錠にも同様に割り振られていることがわかった。Cの手錠をしている福原は、Cのトランクを受け取れということかもしれない。しかし、トランクも手錠も開きはしない。
「何か使えるものは……」
田中がポケットを探っている。福原もズボンを調べる。部屋の鍵には、小さなナイフのキーホルダーがついていたのだが、財布や部屋の鍵などの小物は
「ん……?」
福原は
持ち物を調べていた周囲の数人も声を上げた。同じく鍵を見つけたようだ。
「この鍵だ」
福原の鍵にはCとマジックで表記されていた。
Cのトランク。しかし、手元にCのトランクはなかったので、迷うことなく手錠に差しこんでみる。手が
「……開いた」
鍵が回り、左手の手錠がガチャリと
「ポケットを調べてみな、手錠が外れる」
同じくロックを解除した田中が、まだ行動していない数人に声をかけた。
そんな間に
その音に周囲が視線を向けた。ごくりと
部屋は静まり
「うお……!」
周囲の男性が声を上げた。福原はただ、トランクの中の物を
トランクの中には様々な物があった。ビスケットの袋。ペットボトル。カードのような物。そして十個ほどの分厚い札束と……
*
トランクの中の物は、
全ての人間は鍵を持っており、十一個全てのトランクが開いた。それぞれ中の物は同じだった。真っ赤なパッケージのウエットタイプのビスケットの袋。五百ミリリットルのミネラルウオーターのペットボトル。カードのような物。札束は百万円の束が十個、合計一千万円。そして拳銃。本物を触ったことはなかったが、その重さと冷たさにはリアリティーがあった。



