第二章 特別モニター ②

「いや、なんか戦えって聞こえたような気がしたんだけど」

「ええ、戦っていただきます」


 鈴雄はずかしいベルトをしたまま立ち尽くした。


「よく状況が飲み込めないんだけどさ」

「最初にお送りした手紙にホログラフィーデーターをてんしておきましたが拝見なさってませんか」


 鈴雄はコクコクとうなずいた。


「先程言いませんでしたか?」

「いや、僕はこの玩具のモニターをしろとしか聞いてない」

「玩具なんかじゃありませんよ」


 タンポポはふんがいしたかのようにほおふくらませた。


「それはドッコイダー変身ベルトです」


 玩具オモチヤとしか思えないネーミングだった。

 ほうのように口を半開きにするすずにタンポポは息をき出した。


「それじゃあご説明致します」


 タンポポはからとなった鈴雄のちやわんに茶を注ぎ込んだ。


「どうぞ」


 鈴雄はとりあえず腰を下ろすと茶をいつぱい

 タンポポは鈴雄ののどがゴクリと音を立てるのを待ってから口を開いた。


「今から二百三十八年前、星系ごとにバラバラだった警察組織が統一されました。こうして設立された銀河連邦警察機構は宇宙のちつじよを守るため、数々の犯罪にたいしよしてきました。しかし多発するきようあく宇宙犯罪に対してどうしても強力な武装警察隊、APが必要となったのです。そのため銀河に散らばる数多の企業にパワードスーツの開発をようせいしたのです。もちろん公式採用されればその会社は巨万の富を得るでしょう。何千何万という企業が研究、開発し、そして発表しました。そして最終しんに二つの会社が残ったのです」

「なんかいきなり関係のない話になったような気がするんだけど」

「ですから、その最終審査に残ったのが私の会社なのです」

「君の会社はがん会社じゃないのかい?」

「初の試みでした」

「ふ~~~~~~ん」


 鈴雄はひとしきりうなずいてから言った。


「で、最終審査はどうなったの?」

「審査委員長から言い渡された最終審査の方法はこくなものでした」


 タンポポは遠い目をして言った。


「はるか彼方かなたにある未開の星。二つの会社はそれぞれその星に住む知的生命体を一匹選びその生物にパワードスーツを与えます。そして審査委員会が用意した宇宙犯罪者をいくめいたいできるか。それをきそわせるのです」

「へえ」

「審査委員会は特別ろうごくわくせい、アバシリーから投獄中の超A級犯罪人を三名、その星へ送り込むそうです。二匹のモニターには彼らを逮捕すべくとうを繰り広げていただき、最終的に逮捕者が多かった方のパワードスーツが採用となるのです」

「そいつは大変だ」

「ええ。事前の訓練も何もが禁じられてました。より公平を期すためこのような未開の星を選んだのでしょう」

「どこの世界でも生き残り競争ってのは大変なんだなぁ」


 鈴雄はかんがい深く腕を組んた。


「で、その話と僕にいつたいどんな関係があるんだい」


 驚くほどさつしが悪い男である。

 タンポポは頭におもりが乗っかるような感覚を覚えた。

 なんとかなまりのように重い頭を持ち上げたタンポポは、子供にそうたいせい理論でも説明するかのごとく一言一言区切るようにして言った。


「ですから、あなたが今そうちやくなさっているのが、私の会社が開発したパワードスーツなのです!」


 すずは腰のベルトに目を落とした。

 間違ってもパワードスーツなどには見えない。


「またまたまた。じようだんでしょ」


 へらへらと笑ってみせるがタンポポはしんけんな表情だった。


「冗談じゃありませんよ。しん委員会は太陽系第三わくせい、地球。小さな島国、日本。がわ県のなかそらまち。そこを審査会場に選びました。株式会社オタンコナスでは肉体的に健康な二十歳前後の中空町住人をピックアップし、げんせいな審査、ちゆうせんうらない、くじびき、あみだくじの結果あなたに決定したのです」

「つまり、君の言ってることを総合的に判断するとだな」


 鈴雄はくちびるのはしっこをヒクヒクさせつつ、


「僕はその宇宙犯罪人とかいう連中と戦わなくちゃいけないってゆ~~ことかい?」

「やっと分かっていただけましたか」


 タンポポはあんの息をき出した。

 鈴雄は引きつった笑顔のまま目の前の可愛かわいらしい少女の顔を見続けた。

 タンポポもニコニコ。

 鈴雄もニコニコ。

 なんともなごやかな空気が流れた。


「いやじゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」


 鈴雄はのどの奥からほとばしるぜつきようを発した。


「絶対いやじゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

「いやと言われましても」

退たいじゃ辞退。僕は止めるからな」


 金はしいが命はもっと惜しい。

 金と命のてんびんは当然命の方に傾く。

 鈴雄はきっぱりと辞退の意志を示すとすぐにそのベルトに手をかける。

 必死にそれをはずそうと試みるのだが…………。

 外れなかった。

 すずがいくら引いてもそのベルトははずれるはいを見せない。

 なんとも強情なベルトだった。

 それでもあきらめずにベルトをうんうんと引っ張る鈴雄にタンポポはどくそうに言った。


「残念ですけど。そのベルトはそう簡単には外れません」

「あんだって」

「すでに契約が成立している今、勝負がつくまでは外れないようになっています。あ、心配しなくても防水加工はしてますから」

「んな」

あきらめて戦ってくださいよ」

「僕はいやだからな!」

「お願いしますよ鈴雄さん」

「いやなもんはいやなんだ!」

「こんな体験できるのはあなたとそしてもう一人しかいないんですよ。ちような体験ですよ。あなた英雄になれますよ」


 タンポポはおだてるように鈴雄を持ち上げた。


「地位とか名声とかお金とかそういったものは命に比べると紙切れのようなものなんだよ!」


 さすがに鹿の鈴雄もそう簡単には持ち上がらなかった。


「鈴雄さん!」


 タンポポがそう叫んだ時だった。

 タンポポの赤いランドセルからピーピーという電子音が響いたのは。


「わ! わ! わ!」


 タンポポはあわててランドセルに手をつっこむと中から小さな白いかたまりを取り出した。

 卵形をしたそれはいまさら説明するまでもないだろう。

 少々、ブームの時期は過ぎているが間違いなくタマゴッチだった。

 タンポポはばやい手つきで三つのボタンを押す。

 まるで法則があるかのように親指を器用に動かし続けている。

 鈴雄とて現代に生きる馬鹿。

 タマゴッチくらい知っている。

 一年くらい前、旅行に行く姉のタマゴッチを預かってしばらく子守りをしたことだってあるのだ。

 しかし………。

 エサを与えるにしても、ウンコを掃除するにしてもあのような素早い指さばきが必要なのだろうか?

 鈴雄の目の前でピコピコタマゴッチをそうするタンポポ。

 たん、タマゴッチのディスプレイ画面から薄い光がれた。

 そしてそこに浮かび上がるはくの老人。

 見事なまでのはくはつが風になびいていた。浮かび上がったホログラフィーの老人はりの深い笑みを浮かべた。


『ふふふふ』


 音声は下のたまごっちから出ているのだが驚くほどかんはない。

刊行シリーズ

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住めば都のコスモス荘(4) 最後のドッコイの書影
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