スパイラルダイブ ④
その参号カタパルトの射出レーン上に、「
ハーネスで全身を固定されてうずくまる、羽をむしり取られた
坊主がつぶやく。
『あれが
『そうでもないさ。螺旋階段はどうせ無重力だしな、ダイバーの中にゃ相棒の足をぜんぶ外しちまう奴だっているぜ』
焰はそう答える。が、その目はカタパルトの上の不動を見てはいない。
鈴を鳴らして踊る坊主たちの
焰がそうしていたように、目隠しをして闇に身体を浮かべている。
焰は、その猫だけを見ている。
あれが、
そのはずだ。
『──拍子抜けじゃな。何が口から火を吐くか。またずいぶんと
斑の姿に気づいた坊主が
『けっ、見よあのザマを。どこの生臭だ。ずいぶんとまあ適当な葬式もあったものよ。けち臭い札の
『まあそう言うな。あんまり真剣にやったら
途端、坊主は
『──まさか、ぬしも同じ考えなのか?』
焰の表情は変わらない。
『いや。おれは斑にケンカを売った張本人だしな。どこの坊主もみんなブルっちまってさ。
坊主は押し黙った。
焰もそれ以上は何も言わない。
坊主の言う通り、確かに適当だった。二人が見守る中、敵方の葬式はものの数分で片付いてしまった。
突然、視界を揺るがすような鐘の音が鳴り響いた。鐘の音は
螺旋階段の真ん中にある空気時計が、最後の二分を数え始めていた。
『秒読み開始だ。ごっそさん、これまでで一番
焰が言う。
坊主は焰をじっと見つめ、
『──ぬしよ、』
『何だよ』
『──必ず勝たれよ。わしの葬式を無駄にせよ。あのみっともない
歯車の音を十聞いてから、焰は答えた。
『守れるかどうかわからない約束はしないよ』
『な、なんじゃぬしは。なぜ今になってそんな情けないことを言う。いいか、言葉というものにはすごい力があるんじゃぞ。言葉には
すぐ足元にあった鎖を
にたりと笑った。
『できるかどうかわからないことを必ずやるって言うのは
再び鐘の音が
あと一分。
『ほら、危ないからもう行けっての。その様子じゃ坊さんも老い先短かいだろうしさ、またじきに
投げつけるように言う。
歯車の音は続く。
『のう』
『何だってんだよ、いいかげんに──』
が、そのときの坊主の顔にはもう、ふざけた感じの笑みがあるだけだった。
『本当に、わしの弟子になる気はないのか?』
坊さんを追い払い、尻尾で鎖にぶら下がっていた
言った言葉に噓はない。
螺旋階段の底の、かすかなシャンデリアの明かりを見つめた。
そんな怪物と、自分はこれから戦うのだ。
焰はひとつ身を反らし、背後の闇へと大きく
焰の背後、螺旋階段の天井をなす直径20メートルの円形の壁には、鋼鉄製の大きなカタパルトが四基ある。
そして、そのカタパルトの
どちらも
四号カタパルトの巨人の銘は、「
『いや、いつもと同じだよ。おれと日光が先行して、お前が一秒後にその後に続く』
今度は日光が長い息を吐く。それにも焰は答えて、
『ああ。あの茶色のチビとお伴のひょろひょろしたロボットだろ?』
日光が短く唸る。
『なんだそりゃ。そんなもんいるわけねえだろ』
日光はなおも言い張る。
『勘弁しろよお前、ついにイカれたんじゃねえのか?』
日光はそれでも納得しない。
『あのな、お前だってあの坊さんの話聞いてたろ?
ならばあれを見てみろとばかりに、日光は
焰はその先を目で追った。
そこは、螺旋階段の中腹あたりにある大きな洞だった。闇を
『なんにもいねえぞ』
さっきまでそこにいたのに──どうやら日光はそう思っているらしい。指差したその先に
『気味悪い話はもう終わりだ。
仕方なしに日光はうなずく。焰は日光の肩越しに、螺旋階段の奥底の暗がりをにらみつける。
秒を刻む歯車の音が続く。
転がらない
だから、ただひたすらに、
その通り──負けるなら、二度と起き上がれないくらいに負ける必要があった。
負けて、生き残ってしまうことだけが恐ろしかった。
負けて死んだ後に自分がどうなるかはわかっている。が、負けてなお死にぞこなったら、その後、自分はどうなってしまうかわからない。わからないものは恐ろしい。恐ろしいものに対処する方法は二つある。腹を見せて友達になるか、襲いかかって
そうして気がつけば、見知らぬ相手との最初の一回目を十二回も積み重ねていた。
それでも、休むことはまだできなかった。



