モテない俺はマチアプで異世界彼女を召喚する

1章1話

「あなたね、私を呼んだのは。今後ともよろしく」


「…………」


「あいさつしたんだから、あなたもあいさつを返しなさいよ」


「……え、えっと。よろしくお願いします」


 目の前の彼女に見惚れていて、反応が遅くなった。しかも敬語になった。


 異世界からやって来たエルフだけあって、耳は少しとがっているし、服装もファンタジックな感じに見える。


 ファンタジックな靴も履いているが、まさか土足? いやまあ、べつにいいけど。汚れるようなら掃除すればいいだけだし。


 それよりもなによりも、最も異彩を放っているのはその美貌。なんて綺麗な子なのだろう。


 アプリのプロフィールで写真は見ていたが、実物はそれ以上だ……。


「私はマーリィ。種族はエルフ。マッチングアプリのプロフィールに載せていたから今さらかもしれないけど、いちおう名乗っておくわ」


 マーリィという名のエルフの美少女は、気取ったように肩にかかった髪を払ったあと、呆れた目つきをした。


「あのね。名乗ったのだから、あなたも礼儀として名乗りなさいよ」


「……あ、ああ。俺は、新太。えっと……種族は人間だ」


「じゃあアラタと呼ばせてもらうわ」


 初対面なのにいきなり呼び捨てか。これは礼儀としてどうなんだ。


「アラタ。あなた、髪がぼさぼさだけど。まさか寝起き?」


「……そういえば」


「もうちょっと準備してからマッチングしなさいよ。どういう神経してるのかしら、信じられないわ。バカじゃないの」


 ……さっきから言葉がきつくない? 彼女のほうが礼儀がなってなくない?


「そうか……つまりツンデレか」


 エルフと言えばそれが定番だ。俺のゲーム知識では。


「つんでれ? どういう意味かしら?」


「あ……えっと」


 異世界ではツンデレの概念がないのかも。じゃあどう説明したらいいだろう?


 ……いや、わざわざ俺の口から説明することもないか。


 まだ出会って間もないが、表情や口調から見て彼女の性格が勝気で、プライドが高いだろうことがよくわかる。ツンデレの意味を教えたって怒らせるだけだろう。


 だが、そんな彼女なのに、マッチングアプリを使用している──恋愛を望んでいるのだ。


 表向きはツンツンしていても、内心ではデレたがっているわけだ。その属性はやはりツンデレに違いない。


 ツンのターンでフラストレーションを溜めに溜めて、いずれ訪れることになるだろうデレのターンで一気に解放できるのだ。


 なかなか点が入らないサッカーのようなもので、だからこそゴールを決めた達成感は筆舌に尽くしがたい。ゲーマーの俺なので、サッカーゲームの体験談だけど。


 まあ言い換えれば、彼女はデレることが確定しているくらいチョロいってこと。エルフがエロフと言われるのも、そういうところだ。


「アラタ? なんで黙ってるのよ。私が尋ねたのだから、すぐに答えなさい。つんでれってどういう意味?」


「……あえて意味は知らないほうが、幸せっていうか」


 正直に言ったらデレのターンが遠ざかりそうだし。


「なによそれ。よけい知りたくなるんだけど?」


 誤魔化したかったのだが、むしろ逆効果になってしまった。


 ……ていうか、ちょっと待て。


 異世界のエルフであるマーリィが、ツンデレの意味を知らないのはいいとして、なんで俺が話してる日本語の意味は理解できてるんだ?


 そもそもマーリィは、なんで日本語を普通に話してるんだ……?


「人間にはモンハン語を理解できないはずなのに……」


「……またよくわからないこと言って。もんはんごってなに?」


 やはり普通にコミュニケーションを取れている。なんだこれ……胡散臭い匂いがしてきたぞ。


 俺はハッとし、周囲を確認する。


 マーリィがやって来たはずの、ネザーゲートみたいだったあの扉が、いつの間にか消えている。


 ……まさか、ゲートが現れる前にスマホから光があふれたのは、映写機のようなものだった? 実はARだったとか?


 データでしかないデジタルコンテンツを現実に存在するかのように視界に映すのが、ARという技術だ。


 『異世界カノジョ』というアプリがそれを用い、目の前の彼女をあたかも実在するエルフであるかのように、現在進行形で俺に見せている可能性があるってことだ。


 つまりマーリィは、本当はここにはいない、ただの夢……?


(おいナビゲーター! そこのところどうなんだよ!)


 マーリィに悟られないよう、スマホに口を寄せて小声で尋ねた。


(…………)


 反応なし。


 さっきまでウザいくらい話しかけてきてたのに、なんでだよ。バレそうになったから逃げたのか? 詐欺アプリそのものじゃねえか!


「くうっ……信じた俺がバカだった!」


「……私とまともに会話しないあなたがバカなのは当然だけど、さっきからなにをそんなに困ってるのよ。悩み事でもあるの?」


 マーリィはツンツンしながらも、気遣わしげに聞いてくる。


 ツンデレで確定!


 チョロいエルフなら、俺のゲーム知識と掛け合わせて攻略できそうなものなのに! 詐欺じゃなければすぐにも仲良くなりたいのに……!


(いや……まだ詐欺と決まったわけじゃない!)


 無理やりにでもそう信じ込む。少なくともまだ判断するには早いはずだ。


「えっと……マーリィ。俺の悩みを聞いてくれるか?」


「あなたが私とマッチングしたのって、そういう理由だったの? 悩みを相談できる相手が欲しかったからなのね」


 マーリィはため息をついたあと、ふっと表情をゆるませた。


「しょうがないわね……。面倒だけど、悩みを聞いてあげるわ。私に感謝しなさい」


 素っ気ないふうを装いながらも、隠し切れない優しさを見せるマーリィ。ツンデレとして満点の言動だ。


 俺は、一思いに悩みを告げることにした。


「悩みというのはな、キミが本当に実在してるかどうかなんだ。お言葉に甘えて、試させてもらうぞ」


「……は?」


 俺は、彼女に手を伸ばす。


 手っ取り早い証明方法だ。マーリィがARでしかないならば、見ることはできても、触れることはできないのだから。


 だが、ちゃんとそこにいるならば、そう──


 ──ふにゅん。


「っ!?」


 そう、仮想ではなく現実であるならば、こんなふうにさわることができる……!


「どっ、どどどどどこさわって……!?」


 ふくよかで、やわらかな感触。


 俺は今、間違いなく。


 女の子の胸を、生まれて初めてさわっている……!


 そうか……そうなのか……こんなにもやわらかいものなのか……!


「いやあああああああ!?」


 パシーン!!


 悲鳴と共にマーリィが繰り出したその平手打ちは、痛かった。


 そのはずなのだが、俺は気にならなかった。


 彼女がちゃんと存在している事実を知れた喜びのほうが、ずっと勝っていた。