モテない俺はマチアプで異世界彼女を召喚する

1章2話

「いやあああああああ!?」


 パシーン!!


「なっ、なななななんなのよ……!? なんでいきなりそんなことするのよ!?」


 マーリィは俺がさわってしまった胸を両腕で思いっきり隠しながら、部屋の端っこまで後ずさった。


 狭い部屋なのであまり距離は離れていないわけだが。


「ま、まさか……あなた、マッチングアプリを利用した詐欺師……? 悩みとかなんとか言いながら、実は相手を油断させるのが目的だったの……?」


 涙目で怯えている。


「わ、私……これから襲われちゃうの……?」


 もうお嫁にいけないと言って泣き出す勢いで怯えている。


 俺のゲーム知識では、エルフは身持ちが堅い。森のお姫さまといったイメージだ。


 ……というか、そんなのは関係なしに、俺が取るべき行動はひとつしかない。


「すみませんでした!!」


 床に額を押しつけて土下座した。


「え、ええ……? そ、その情けない体勢はなにを意味してるの?」


 異世界に土下座の文化はないらしく、よけい怯えさせてしまっていた。


「最大級の謝罪を意味してる。もう二度としません。本当にごめんなさい!」


 誠心誠意を込めて言うと、マーリィは唖然としたあと、肩をプルプル震わせた。


「謝るくらいなら最初からしないで! それとも、その場しのぎのウソをついてるだけ? 詐欺師として捕まえてやるんだから!」


「い、いや、むしろ俺が詐欺を疑ってた側だから!」


「なんでそうなるのよ!」


「だってさ……キミは本当に異世界からやって来たエルフなのか?」


「当たり前じゃない! あなたもわかっててマッチングしたんでしょ!」


「……正直、詐欺の可能性も考慮してた。現実にエルフが存在するなんて、そんな簡単に信じることはできないから」


 これまでずっと、エルフなんてゲームの産物としか思っていなかった。


 現実に存在すればいいと何度も想像していたが、所詮は空想でしかなかったんだ。


「……アラタが住むこの世界は、人間しかいないのよね。だったら他種族に出会うのも初めてだろうし、不思議に思うのも無理はないのかしら」


 マーリィは恨めし気に俺を見る。


「だとしても、私たちがこうして出会ったのはあなたの希望でもあるのよ。マッチングは双方の合意があってこそだもの」


 たしかにそうだ。


 俺がマーリィに会いたいと願ったのは本当だし、マーリィも俺に会いたいと願ってくれたのだって本当なんだろう。


「なあマーリィ。キミが異世界から来たエルフであることを信じたいのは、やまやまなんだけど……できれば、もう少しだけそれに足る証拠が欲しい」


「……あなた、疑り深い性格なのね」


 アプリのナビゲーターにもそう言われたな。なぜか今は、なんの反応もないけど。これってナビゲーターとしてどうなんだ。


「アラタ。あなた、私のどこを疑っているっていうの?」


「キミ、異世界から来たくせに日本語をしゃべってるからさ」


「にほんご? 言語の種類かしら。それなら、翻訳魔法が補ってくれているわ」


「……魔法を使ってるから言葉が通じるってことか?」


「そうよ。私の世界では魔法が文化や経済、技術の中心だから。ていうかあなた、疑り深いくせにこういうところは理解が早いのね」


 これでも魔法が使えるファンタジーの世界観には造詣が深いんでな。


「魔法について、もっと聞きたい。マーリィが住んでた魔法の世界がどんなところなのか、俺に教えてくれないか?」


「あなたが詐欺師じゃなければ教えてもいいけど」


「誓って詐欺師じゃない! なんならまた土下座したっていい!」


「ひ、必要ないわよ……。あなたがまた、そのどげざっていうのをしたら、後ろ頭を踏んづけてやるんだからね」


 ツンデレのエルフなら、その踏み付けはさぞ優しい感触なのだろう。べつにして欲しいわけじゃないけど。俺はマゾじゃないので。


 部屋の隅っこにいたマーリィはやっと警戒を解いてくれたのか、俺のほうに寄ってくる。なんだかんだでガードがゆるいのもツンデレっぽい。


「とりあえず、アラタ。あなたが住んでいるこの人間界に対して、私が住んでいる世界はわかりやすいよう異世界と一括りに呼ぶことにするわ。本当は多くの国に分かれていて、それぞれ国名もあるんだけど、長くなるから割愛するわね」


 マーリィが人間界と呼ぶこの世界にだって、200近くの国があるわけだしな。


「それじゃあ、異世界のことをサルでもわかるように教えてあげるわ」


 サルって異世界にもいるのかよ。


 マーリィは言った通り、わかりやすく簡潔に説明してくれた。


 聞く限り、そこはRPG風のファンタジー世界であり、科学技術は中世ヨーロッパレベルだが、代わりに魔法技術が発達しているらしい。


 エルフやドワーフといった種族は多様のようだが、人間は存在していないとのこと。


 とはいえ、人間界というものが存在することは周知されているそうだ。


「人間は魔法を使えないと聞くわ。戦闘においては底辺よね。もしあなたが本気で襲ってこようものなら、私の魔法で半殺しになっていたでしょうね」


 翻訳のような補助魔法だけじゃなく、攻撃魔法も所持してるわけですね。


「魔法が使えるぶん、人間よりもずっと強いわけだな……。そのわりに、さっきはやけに怯えてたけど」


「し、仕方ないじゃない。マッチングアプリの規約で、この世界でみだりに魔法を使うことは禁止されてるもの」


 規約とかあったのか……知らなかった。


 こういうのもナビゲーターが事前に教えるべきじゃね? なんでうちのナビちゃんはチュートリアルをサボってお昼寝してるの?


「……要するに、翻訳のような補助魔法を使うのは許可されてるけど、誰かに危害を加えるような魔法は、正当防衛といった場合じゃないと使えないわけか」


「あなた、本当に理解が早いわね……魔法を見たことがないはずなのに。それとも、私よりも先に誰かとマッチングしてた? まあこれまでの態度を見る限り、そうは思えないけど」


「ああ、魔法を見たことがないのは本当だ。正真正銘、キミが初めての相手だよ」


「そう。私もあなたが初めてよ」


 マーリィは表情をゆるませる。おたがい初めてという事実がデレ度を上げたようだ。


「魔法、せっかくだし見せてくれないか? 翻訳のような地味なやつじゃなくて、もっと派手なやつを。頼みを聞いてくれたら、キミのことはもう二度と疑わない」


「……人間に魔法を見せると大騒ぎになる恐れがあるって、マッチングアプリの注意事項に載っていたわ。社会に混乱を招くことも規約違反になるのよ」


「大騒ぎなんかしない。俺の胸の中だけに留めておく。土下座すれば見せてくれるか?」


「い、いらないってば。しょうがないわね……見せるのはちょっとだけよ? あなたにしか見せないんだからね……?」


 やっぱりチョロい。そして会話が聞きようによってはいかがわしい。


 マーリィは右腕をすっと前に伸ばすと、手首を上に反らせ、手のひらを広げた。


「Gaoth seideadh!」


 呪文めいた言葉を唱えると、マーリィの手のひらが白にも緑にも見える色で輝き出し、次の瞬間にはどこからともなく風が生まれた。


 マーリィの髪や服が、巻き上がるその風でなびき始める。


「くっ……人間界では、魔法の制御が難しいわね。マナの構成が違うせいかしら」


 マナというのは、魔法のエネルギー源──ゲームでいうMP(マジックポイント)やSP(スキルポイント)みたいなものだろう。


 自身の魔力に加え、地形効果でバフやデバフがかかるのはよくある設定だ。


「ふう……こんなものかしら」


 制御に成功したのか、マーリィが生んだ風は落ち着きを取り戻し、爽やかなそよ風となって俺の鼻腔をくすぐった。


「風魔法よ。今回はアロマ代わりに使ってみたけど、どう?」


「緑の良い匂いがする……」


「私の故郷である森の香りよ」


「すごいな……俺も魔法を使ってみてえ!」


 ゲームをしながら何度妄想したことか!


「……なにその驚き方。人間は魔法を使えない種族でしょう? 異世界の種族はみな使えるから、むしろ魔力ゼロの人間のほうが希少よ。ないものねだりなんかせずに誇りなさい、たとえ戦闘において底辺だとしても」


 下に見られてる気しかしないんだが。


「まあ、そんなに気に入ったのならもう一回使ってあげるわ。私に感謝しなさいね!」


 嬉々として魔法を再行使した。おだてられるとすぐ調子に乗るんだなあ。


 先ほどよりも強い風が発生する。髪や服がばさばさと波打つくらいだ。


 おかげでマーリィのスカートまでまくられた。


 その奥が、一瞬だけ見え……。


(……!?)


「どう、アラタ。これでいいかげん、私が異世界のエルフであることを信じたかしら?」


 ……パンツは見えなかった。


 一瞬だったから見逃したわけじゃない。むしろそれ以上のものが見えてしまった。


 間違いない……。


 はいてなかった……。


 マーリィは、ノーパンだ……!


「ぐはっ」


「……え? なぜ鼻を押さえるのかしら?」


 吐血する勢いで鼻血が出たんだよ!


 初めて見てしまった……ほんのちょっとだったけど、女の子の最も大切なトコロをこの目で拝んでしまった!


 ドーテーなのにごめんなさい……!


「……えっと。なぜあなたは頭を抱えているのかしら?」


「マーリィ……つかぬことをお聞きしますが」


「なによ。ていうか、なんで敬語なのよ」


 敬語もちゃんと翻訳してくれるのか。


「あのさ、マーリィ。下着はどうしたんだ……?」


「したぎ? なにそれ」


「服の下に身に着けるもののことで……」


「重ね着のことかしら? 寒ければ厚着をするけど、そうじゃないなら必要ないでしょう? おかしなことを聞くのね」


 エルフって下着をつけないのかよ! そういう文化なのかよ!


 エロフばんざい!!


「って、アラタ……ちょっと待って。そんなことを聞くということは、まさか」


 想像がついたらしく、マーリィの顔がみるみる上気していった。


「アラタ……あなた、見たのね」


「……異世界は、実は見られても平気な文化とかじゃなくて?」


「普通に恥ずかしくなる文化よ!」


 ドガッ!!


 平手打ちの次は、蹴られることになった。暴力系のツンデレですね、わかります。


 暴力系は、昨今の時流として敬遠するユーザーもいるけど、俺は大好きだ。


 ツンの痛みとは精神的なものだけにあらず。物理的な痛みもまたウェルカムだ。べつにマゾじゃないけどね。


 ちなみにマーリィが蹴りを繰り出した時もまた、一瞬だけスカートの奥が見えた。


 ……ケガとは違う意味で血を止めるのに苦労した。