モテない俺はマチアプで異世界彼女を召喚する
1章3話
俺が鼻血を止めようとしている間、マーリィは再び部屋の端っこまで後ずさっていた。
「な、なんなのよ……やっぱりあなたは私を襲いたいってこと!? 私にいかがわしいことをするためにマッチングしたってことなの!?」
「違う! 男としての生理現象が暴走しただけだ!」
「制御できないなら正当防衛としてその生理現象を魔法でちょん切ってやるわ!」
「お願いやめて!?」
ちょん切られた後の俺はもう物理的にも精神的にも別人になってるから!
「また土下座するから許してください!」
「いらないって言ってるでしょ! ま、まったくもう……ちゃんと反省したのね?」
「もちろんしました」
「なら……しょうがなく許してあげるわ」
ツンデレ最高。チョロいエルフ最高。
「ほんと……あなたにはプライドというものがないのかしら」
「プライド? なにそれおいしいの? そんなのは夢を叶えるための障害でしかないって、俺は身をもって知ってるんだよ」
無理に着飾っても結局フラれることを、俺は何度も経験してきたからな。
「ふうん……そうまでして叶えたい夢って、なに?」
「キミと仲良くなることだ。だからキミのことをもっと知りたい。キミのことをもっと好きになりたいと思ってる」
「っ……!?」
真っ赤になって目を泳がせた。
「俺はそのためにキミとマッチングしたんだからさ」
「ちょ、調子いいこと言って……! また私にいかがわしいことするって魂胆!?」
「正直な気持ちを言っただけだ」
「ふ、ふん……! だったらいいかげん、私をエスコートしなさいよ! こうして来てあげたんだから、早く人間界を案内しなさいよね!」
案内? デートってことでいいのか?
「さっさとその寝起きの姿をどうにかしなさい。早く支度を調えなさい。しょうがなく待っててあげるんだから」
そっぽを向きながら言っている。とがった耳はまだ真っ赤だった。
ツンツンしながらもデレを見せてくれるマーリィの態度に押され、俺は顔を洗うのと着替えのために洗面所に向かった。
『マスター』
マーリィと離れたところで、ナビゲーターからやっと反応があった。
『さすがはマスターです、相手が異世界のエルフでも臆することなくコミュニケーションを取れていますね。デレ度は順調に上がっていることでしょう』
「……どの口が言ってる。俺が話しかけても無視したくせに」
『無視をしたわけではありません。おふたりの邪魔をしたくなかっただけです。私は音声入力以外に手入力でも対応可能ですので、マッチング相手のマーリィさんとよろしくやっている最中に私の助言が必要になった場合は、手入力のほうでお願いします』
メールの受信と同じで、ナビゲーターからの文字によるメッセージもスマホの振動によって教えてくれるらしい。
「文字でも会話できるとか、そういうことも先に教えておいてくれよ」
『私はチュートリアルの時間すら惜しんでマスターに彼女を作ってもらいたかったのです。あくまでマスターのために最短で最善な行動を選んだに過ぎません。よって私のせいではありません。あえて言うなら彼女がいないマスターに非があります』
「おまえは二度とナビゲーターを名乗るんじゃねえ」
『おっしゃる意味がよくわかりませんが、今はマーリィさんが近くにいないため、私はマスターのためになんでもする所存です』
「じゃあおまえをアンインストールする方法を教えろ。今はもうマーリィが俺のところに来てくれたからおまえは用済みだ」
『エラーが発生しました。そのご命令はマスターの願いと異なっています』
なんか前にも聞いた言葉!
『マスターの願いは彼女を作ることです。ですがマスターはまだマーリィさんと恋仲にはなっていません。私はナビゲーターとしてマスターをサポートする義務があります』
「べつにそこまで頼んでないんだが……」
『私はナビゲーターとしてマスターをサポートする義務があります』
大事なことらしく二回言った。
『ちなみに先ほど話題に出たツンデレという概念ですが、人間界において2002年に初めて登場したネットスラングで、2004年頃から一気に勢いづき、オタク層だけではなく一般層にも拡大していったことで、今では現代用語として定着しているようです』
こんなふうに役に立つから見捨てないで欲しいっていうアピール?
「おまえ、ただのAIじゃないよな。なんかもう、自我があるようにしか見えないんだが。それくらい異常なオーバーテクノロジーなんだが」
『マスター。今は私よりもマーリィさんに意識を向けるべきです。早く支度をすませないと、待っているマーリィさんのデレ度が下がり、逆にツン度が上がることになります。マゾのマスターにはご褒美なのかもしれませんが』
「マゾじゃねえよ! おまえやっぱり自我あるだろ!」
『私はナビゲーターです。それ以上でも以下でもありません。いつまで不毛な言い合いをしているつもりですか、ザコのマスター』
「俺はザコでもねえんだよ!」
この会話が不毛なのは事実なので、俺は急いで身支度を調え、マーリィのところに戻る。
すると、マーリィは暇つぶしに部屋の棚を眺めていた。
そこには、ついこの間、彼女にフラれた原因となったものが並んでいる。
俺が今日まで捨てられなかった、ドン引きされてもおかしくない、美少女ゲームの数々。
心臓がドクンと鳴り、トラウマがよみがえる――――



