モテない俺はマチアプで異世界彼女を召喚する
1章4話
「アラタ。やっと戻ってきたわね」
マーリィが視線を棚から俺に移した。
逆に俺は、マーリィから視線を外した。彼女の顔をまともに見られない。
もし今、生ゴミを見るような目を向けられていたら、俺はきっとまた寝込む。その後に妹からザコ呼ばわりされることだろう。
ゲームを隠すの忘れてたよ! ていうかそんな暇もなかったよ! うちのナビちゃんがいきなりマッチングを始めやがったせいで!
『おいナビゲーター! 俺をサポートするんだろ! この状況、どうすればいいのか教えてくれ!』
今度はちゃんと手入力で相談した。
『…………』
はい無視ー。話が違うー。こいつはあとで必ずアンインストしてやる!
「……アラタ? なにを挙動不審になってるの?」
「い、いや……なんていうか」
「この棚に並んだものが気になってるの? 勝手に見たらダメだったかしら?」
「あ、ある意味その通りというか……」
「どれも、かわいい女の子の絵が載ってるわね。これってなんなの?」
マーリィは、生ゴミを見るような目を向けてこなかった。
そうか……異世界にはおそらく美少女ゲームという文化がない。あったとしても、マーリィは知らないのだ。
「……それはな、PCゲームというものだ」
美少女ゲームではなくあえてPCゲームと呼ぶ。もちろんエロゲーなどとは口が裂けても言わない。
「ぴーしーげーむ?」
「えっと、パソコンってわかるか?」
「ううん。なにそれ」
「異世界は魔法技術が発達してるって聞いてるけど、この世界では魔法の代わりに科学が発達してるんだ。その産物で、ゲームを遊ぶことができるのがパソコンだ」
本当はもっと多様な使い方があるわけだけど。
「なるほどね。私の世界でも、マジックアイテムでゲームを遊ぶことができるわ。あなたとのマッチングもマジックアイテムで行ったしね」
異世界にはスマホに似た、魔法で造ったアイテムがあるってことか。
「棚に並んでるのはゲームだったのね。翻訳魔法で人間の文字や数字はある程度読めるけど、パッケージの背表紙だけだとよくわからなかったの。これらはどんな内容のゲームなの?」
「人生とはなんなのかを知ることができるゲームだ」
人生と呼ばれる泣きゲーだってありますからね!
「そう、見た目と違って奥深いゲームなのね。あなた、良い趣味をしてるじゃない」
マーリィの口から否定的な言葉は一度も出てこない。
世界が変われば価値観も変わる。異世界の彼女だからこそ、俺の趣味に偏見を持っていない。まっさらな状態でありのままを受け入れてくれている。
まさしく理想の彼女じゃないか……!
『マスター、おめでとうございます。このような流れになることを想定していたため、私はあえて助言をしなかったのです』
ナビゲーターの文字による返答があったが、今度は俺が無視しておく。
「アラタ。ゲームの背表紙に貼ってある、この『18』というシールはなに?」
「18歳以上の大人がプレイするとより感動できるという意味のマークだ」
「そう。子どもよりも大人のほうが楽しめるのね。それだけ内容が高尚なのね」
バレなくてよかったあ!
「私は齢100を超えてるから、18歳なんてまだまだ子どもだけど。でもまあ、種族によって寿命の差があることくらい知ってるわ。人間にとって18歳は大人なのね」
エルフが長寿なのは、俺のゲーム知識にも載っている。だから驚くこともない。
ただそうなると、俺たちの仲がこの調子でうまくいき、めでたく恋仲になって、そのまま添い遂げることになった場合。
彼女を置いて、俺のほうが早く死ぬことになってしまう……。
くうっ……先立つ運命の俺を許してくれ、マーリィ!
『マスター。捕らぬ狸の皮算用という言葉をご存じでしょうか?』
無視。ていうか俺の思考まで読まないでくれますか。
「ねえアラタ。これらのゲームを手に取ってみてもいいかしら?」
「絶対ダメだ」
背表紙だけならセーフだが、表紙や裏表紙には18禁の絵が載ってますので。
「なぜダメなのかしら?」
「その時間がもったいないからだ。支度も終わったし、そろそろ外に出ないか? これからデートするんだよな?」
そのためにマッチングしたんだからさ!
「デート……?」
マーリィはなぜか不思議そうに見返した。
「なぜデートになるのかしら。あなたは私のガイドでしょう?」
……え? ガイド?
「私のプロフィールに載せていたでしょう? 私は人間界を旅行したいから、そのためのガイドを探しているって」
そ、そうだったの?
そこまで詳しく見てなかった……ていうかほぼ写真しか見てなかった。
『マスターは顔と胸しかチェックしていませんでしたね』
無視。
「な、なあマーリィ。旅行したいのはべつにいいけど、マッチングを望んでたんだし、一番の目的は恋愛ってことでいいんだよな……?」
「はあ? バカじゃないの。なんで私が恋愛なんかしなきゃいけないのよ」
……ここに来て、生ゴミを見るような目を向けられた。
「どうも誤解があるようだから、サルでもわかるように説明するけど。異世界において、エルフは自然を愛していて、本来ならマッチングアプリのようなものは使わないのよ」
なのにマーリィが使った理由は、こういうことらしい。
マーリィは、住んでいる集落の仲間たちと比べて好奇心が旺盛で、人間界を訪れて知見を深めたいと思い、こうしてやって来た。
族長の娘という身分もあって、そのわがままが通ったとのこと。
つまりマーリィは、恋人を作るためではなく、あくまで旅行のためだけにここにいる。
『おいナビゲーター! 話が違うにもほどがあるぞ! この期に及んで無視しやがったらおまえをスマホごと破壊してやるからな!』
『マスター、落ち着いてください。ガイドを通じて親しくなればいいのです。ツンをデレに変えるという過程になんら変わりはありません』
『俺はこれでも、ツンデレはツン1:デレ9が黄金比だと思っている』
『エラーが発生しました。マスターの言葉は矛盾しています。フラストレーションを溜めに溜めて解放することが至高なのだとマスターは以前におっしゃいました。であればツン9:デレ1でも耐えられるはずです。むしろご褒美のはずです』
『ゲームヒロインのツンデレは必ずデレるからどんなツンでも耐えられる、だけど現実ではそうはいかない、デレる保証がなければツン9:デレ1なんて耐えられない……!』
『耐えて(はぁと)』
雑な応援! なんかキャラも変わってない!?
「アラタ、わかった? 私はあなたと恋愛するつもりなんかこれっぽっちもないのよ? ほ、ほんとだからね? 変な期待しないでね、私は旅行に来ただけなんだからね!」
『マスター、どうですか。耐えられそうですか?』
『耐えられそうです』
すべてはチョロかわいいマーリィのおかげです。
「じゃあ行こうか、マーリィ」
「え、ええ。いきなり張り切り出した理由はよくわからないけど……アラタ、私をちゃんとエスコートしなさいね?」
「喜んで」
俺たちは連れ立って外に出た。
マーリィには上から羽織るための春用コートを貸すことにした。元の服装のままではさすがに目立つからだ。
こうして異世界のエルフであるマーリィとのデート(?)がついに始まることになった。



