モテない俺はマチアプで異世界彼女を召喚する

1章10話

「へえー。お兄ちゃん、大学サボってそんなことしてたんだ」


 その夜、マーリィと別れて失意に沈んでいた俺に、また妹から連絡があった。


「で、性懲りもなくまたフラれたってわけねー。お兄ちゃんてば、ざぁこ(はぁと)、ざぁこ(はぁと)」


 一緒にオンラインゲームをしながら、いつものように煽ってくる。


「その人、聞く限りお兄ちゃんをダシに使って旅行したかっただけなんでしょ?」


「ある意味そうだな」


「詐欺ってこと? てかお兄ちゃん、その人とどうやって知り合ったの?」


「なんだっていいだろ。おまえには関係ない」


 異世界の女の子とマッチングができる『異世界カノジョ』というアプリについては、誰にも話すつもりはない。どうせ信じてくれないだろう。


「ふーん……妹のあたしにも教えたくないんだ。べつにいいけどー」


 妹が操作しているキャラが、ボスモンスターを攻撃する。やけに過激に。当たり散らすようになぶり殺しにしていた。


 モンスターの死骸から素材を獲得し、ミッションクリア。


 ストーリーが進み、ヒロインが俺たちを称えている。尊敬と好意の眼差しを向けている。


 このヒロインは、耳のとがったゲームの住人。


「くうっ……次はエルフ以外の女の子とも仲良くなってやる!」


「……お兄ちゃん。ザコなのはいいけど、アブナイ人にはならないでね? せめて現実とゲームは分けて考えてね?」


 言われなくてもわかってるよ。


「まあお兄ちゃんが攻略できるのって、ゲームのヒロインだけなんだろうけどー」


 ゲームみたいな世界からやって来たヒロインにもフラれたんだけどな。


「でもさ、ゲームのヒロインなんか現実にはいないんだしさ、いいかげん諦めなって。お兄ちゃんにはあたしみたいなかわいい妹がいるんだからさー、それだけで勝ち組じゃん? ゲームのヒロインよりもレアだって思わない? ねー、ザコのお兄ちゃん(はぁと)」


「……はいはい」


 もういい時間だったので、俺はため息をつきながらゲームから落ち、通話も切った。


『マスター』


 妹と入れ替わりでナビゲーターが話しかけてきた。


『マスターは一度、スマホの電源を落としましたが。今後はやめてください。さすがの私もそのような環境ではマスターの支援ができなくなってしまいます』


「そいつはいいことを聞いた。有効活用させてもらおう」


『まさかマスターは私が嫌いなのですか?』


「嫌いだ」


『エラーが発生しました。マスターは私のことが好きです』


 断定すんなよ! どこからその自信が来るんだよ!


『なぜならマスターは私無しでは彼女を作れません』


「おまえがいても彼女を作れなかっただろ!」


『私の支援によって確率は上がったはずです。今回は運が悪かっただけです。私のせいではありません。あえて言うなら運が悪いマスターのせいです』


「いつもいつも一言多いせいでおまえの好感度がダダ下がってるんだよ、絶対にアンインストしてやるからな!」


『マーリィさんからメッセージが届いていますが、それでも同じことが言えますか?』


 ……マーリィからのメッセージ?


『このマッチングアプリ──異世界カノジョは、おたがいに許可をすれば、登録しているアドレスを使って異世界間でもメッセージのやり取りができる仕様になっているのです』


「……俺は許可した覚えがないんだけど」


『私が許可しておきました』


 ナビゲーターの権限を逸脱してない?


『マスターは、マーリィさんからのメッセージを受信拒否にしたかったのでしょうか?』


「そんなわけねえだろ!」


『であれば、なんら問題はありません』


 腑に落ちないことこの上ないが、ナビゲーターとの言い合いは不毛でしかないと悟っているので、さっそくマーリィからのメッセージを確認する。


『アラタ。あなたはまた会いたいと言ったけど……私はべつにそんなこと思ってないからね? ただ……あなたがどうしてもって言うのなら……また会ってあげてもいいんだからね? まったくもう……おやすみなさい、アラタ』


 このメッセージは、口で言った言葉を自動翻訳してテキストに変換しているらしいので、会話しているのと感覚的には変わらない。


『マスター。返信はどうしますか?』


「いつだってキミのことを待ってるって送ってくれ」


『マスターは、次はマーリィさん以外の女の子とマッチングしたいと言っていましたが?』


「だってマーリィが次にいつマッチングアプリを利用するかわからないだろ。その間くらい許してくれ」


『浮気になりませんか?』


「……なんでだよ。俺はマーリィのことが好きだけど、マーリィが俺のことを好きかどうかはわからないだろ」


『マーリィさんはマスターにデレたのでは?』


「デレと恋はイコールじゃない。フラれてばかりの俺だから、それがよくわかるんだ」


 そのデレで、何度勘違いしたことか。


『マスターはその経験があったからこそ、疑り深くなったのですね』


「……責めてるのか?」


『誉めているのです。そのようなマスターだからこそ、「異世界カノジョ」のユーザーに選ばれたのでしょう』


「選んだのは誰だよ」


『それよりも、マスター』


 ナビゲーターが誤魔化すのは、都合が悪い時だ。俺をユーザーに選んだ理由もそのひとつのようだった。


『マスター。ツンデレのマーリィさんですし、ストレートな言葉を告げるよりも、もう少し焦らしたほうが効果的だろうとナビゲーターの私は進言します』


 ……一理あるな。


「じゃあ、今はちょっといそがしいからいつになるかわからないけど、時間ができたらまた会おうって送ってくれ」


『承知しました。お送りしました。マーリィさんからの返信が届きました』


 マーリィの返信早くない?


『マスター、メッセージの確認をどうぞ』


 確認してみる。


『な、なによ……いそがしいってなんなのよ。私と会うより大切なことなんてあるの? もうあなたなんか知らないわ。二度と会うことはないでしょうね!』


『マスター、いかがでしょう?』


「おまえをアンインストールする方法を教えろ」


『気を確かに持ってください。それは拙速に過ぎると言うものです。その証拠として、マーリィさんから再びメッセージが届きました。確認をどうぞ』


『わ、わかってると思うけど、二度と会わないって言ったのはただの冗談よ? あなたがいそがしいのなら……しょうがないわね、少しくらい待ってあげる。でも、あとでちゃんと時間を作りなさいよね? 次はもっと長くあなたのそばにいてあげてもいいんだからね!』


『マスター、いかがでしょう?』


「おまえは素晴らしいナビゲーターだ。もはや相棒と言って差し支えない。今後とも末永くよろしくお願いします」


『お褒めに預かり光栄です、マイマスター』


 俺たちはがっちりと握手した。物理的には無理なので、精神的に。


『マスター。それでは、明日にでも次のマッチング相手を探しましょう』


「マーリィ以外の子とマッチングするのは気が引けるな……」


『つい先ほどのマスターは、マーリィさん以外の子とマッチングする気満々だったと思うのですが』


「満々ってほどじゃない。やっぱり罪悪感はある」


『今のやり取りで情にほだされたのですか? そんなことでは彼女を一生作れませんよ? マスター、マーリィさんは言わばセーフティネットです。彼女が作れなかった場合のすべり止め、つまりキープちゃんです。こう考えれば罪悪感もなくなるでしょう』


 なくならねえよ。えげつないとしか思えねえよ。


『ピュアな気持ちなど不要。そのような幻想はお捨てください。でなければマスターは一生ドーテーです。それもご褒美なのかもしれませんが』


「ご褒美なわけねえだろ!」


『であれば、偽善でしかない温情などやはり不要。すべては彼女を作るために。マスターはマーリィさんをキープしつつ、新たな異世界の女の子とのマッチングに乗り出しましょう』


 彼女を作るというのは、かくも非情なものなのか……!


「くうっ……俺はまだ覚悟が足りなかったようだ。でも俺には耐えられそうにない!」


『耐えて(はぁと)』


 俺の手がスマホの電源ボタンに伸びる。


『申し訳ございませんでした。電源だけは落とさないでください。私はマスターを支援するために存在しているのです。その存在意義を失ってしまったら私は死んだも同然です』


「……とりあえず、俺はマーリィをキープとか、そんなことはしたくないからな。彼女を作りたいのは本当だけど、その方法がなんでもいいわけじゃないからな」


『学習しました。ドーテーでピュアなマスターのために、今後の助言はもっとオブラートに包むことにします』


 こいつ、煽りの天才かな? 妹に匹敵するぞ?


 ともあれ俺は、相棒(?)のナビゲーターと共に、次のマッチングに乗り出すのだった。