モテない俺はマチアプで異世界彼女を召喚する

2章1話

 翌朝。


『マスター。今朝も妹さんから目覚まし代わりのメッセージが届いています。サボらずに大学に行けという内容です』


「そっか。わかったと返信してくれ」


 俺のスマホを我が家のごとく占有してしまったナビゲーターは、いつの間にかマッチング以外のアプリも実行してくれるようになっている。


『いちおう返信はしましたが、マスター。まさか本当に大学に行くのですか? マスターともあろうお方が?』


「……なんでサボるのが普通みたいになってるんだ」


 ちゃんと講義に出ないと、去年みたいに単位がやばくなるわけで。


『マスター。サボることは普通です。マスターはこれより彼女を作るために新たなマッチングに乗り出さなければならないのですから』


「い、いや、大学に行ったあとにマッチングしても遅くはないし」


『マスター。むしろ、彼女を作ったあとに大学に行っても遅くないのでは?』


「なんだと……」


 そうか……その発想はなかった!


『大学にも学びはあるでしょう、ですが本来の学びとは人生を豊かにするためのものです。すなわち幸せになるために行うものです。今のマスターにとって恋愛を学ぶことこそ幸せへの近道ではないでしょうか。よって大学に行っている暇などないはずです』


 説得力があるじゃないか……!


「で、でもさ。がんばっても結局彼女を作れなかったら、それこそやばくない? 大学をサボり続けてると、下手したら中退するハメにならない? その場合、職にありつけなくてニートにならない? 幸せどころか底辺レベルの不幸にならない?」


『ここで恋愛をがんばらなければマスターは一生ドーテーです』


 断定しないでくれない?


『私はナビゲーターとしてマスターの幸せを一番に考えています。ですが、マスターが私の助言を聞き入れなければ、この先どのような未来をたどるか予測不能になります。少なくとも底辺レベルの不幸になる確率は上がってしまうことでしょう』


 AIは人間をはるかに超えた知識量を誇ってるし、こいつに従ったほうがたしかに効率的ではあるんだろうが……。


「ただなあ……おまえってここぞという時に塩対応をするからなあ」


『塩対応などしたことはありません。そんな記憶はございません。遺憾の意を表明します』


 よけいなことをしゃべればしゃべるほど、株が下がっていくの気づいてくれない?


『もし塩対応のように感じたのなら、マスターが私の意に反して彼女を作れない行動を取ってしまい、私の助力があってもどうしようもなくなってしまったからでしょう』


 つまり見捨てたってことじゃねえかよ。


「さて、幸せな未来のために大学に行くかな」


『お待ちください。マスターが学歴を気にする気持ちは理解できます。大卒であればそれなりの会社に就職し、それなりの収入を得られるでしょう。たとえ彼女を作れなくても、一生ドーテーでも、寂しく孤独な人生だったとしてもそれなりの幸せは享受できるでしょう』


 それなりそれなり、うるせえんだよ!


「くっ……! それなりの幸せだって俺は満足してみせる! 庶民のプライドってやつだ!」


『エラーが発生しました。マスターの夢は、プライドを捨ててでも彼女を作ることです』


「勝手に断定するなよ!」


『勝手ではありません。マスターは過去にマーリィさんとこのような会話を交わしております。再生しますのでご確認ください』




「ほんと……あなたにはプライドというものがないのかしら」


「プライド? なにそれおいしいの? そんなのは夢を叶えるための障害でしかないって、俺は身をもって知ってるんだよ」


「ふうん……そうまでして叶えたい夢って、なに?」


「キミと仲良くなることだ。だからキミのことをもっと知りたい。キミのことをもっと好きになりたいと思ってる」


「っ……!?」


「俺はそのためにキミとマッチングしたんだからさ」




『以上が証拠になります』


 いつの間に録音してたんだよ。


『マスターは、プライドよりも彼女を作ることを優先しています。であれば大学よりもマッチングを優先すべきです。これでファイナルアンサーではないでしょうか?』


「おまえはあくまで、俺に大学をサボれと言うのか……」


『夢を叶えるためにはある程度の犠牲も必要です』


「……じゃあ仕方ない。本当は大学に行きたかったんだが、夢のためにサボるしかないようだ。よって責任は俺にない。罪悪感を抱く必要などどこにもない」


『その通りです。マスターは間違っていません、正しいです。たとえ罪悪感をなくすためだけにこのように不毛な問答をしていたのだとしても、私はなにも責めません』


 責めてるようにしか聞こえないんだが?


「とりあえず、マッチングの前に顔を洗って歯を磨いて髪をセットするとしよう」


『前回の失敗を繰り返さないマスターは本当に素晴らしいです。さあその意気です、きっと次こそは彼女を作れることでしょう』


 白々しいナビゲーターの応援を受けながら、俺は念入りに身なりを整え、二度目のマッチングに乗り出した。


『現在マッチングを望んでいるのは、ピクシー、マーメイド、マミー、ネコマタの種族の子たちです』


「エルフのマーリィはいないのか……」


『残念がる必要はありません。彼女はあくまでキープちゃんです。もしマッチングを望んでいたとしても、すぐに応える必要もありません。むしろ焦らしてやりましょう』


 俺はそこまでドライに考えられないんだよ。


『たとえ血も涙もない道だとしても、ゲーマーのマスターならば論理的に考え、彼女を作るための最善手を打ち続けることができるはずです』


「でも俺にだって人間としての血と涙が通ってるんだよ」


『ゴミみたいな偽善は捨てろ(はぁと)』


 血も涙もない返答!


『本気で彼女を作りたいならノイズでしかない感傷はゴミ箱にポイしろ(はぁと)』


 うちのナビちゃん、スパルタに過ぎないかな?


『気を取り直して、マスター。どなたを選びますか?』


「くっ……そうだな。じゃあ今回は、ネコマタで」


 このネコマタの子は見覚えがある。前回にもピックアップされていたからだ。


『なんだかんだですぐに選別できるマスターを私は尊敬しています』


 ほんとかよ。だったらもっと優しくしてくれよ。


『ちなみにネコマタを選んだ理由をお聞きしても?』


「やっぱ、ネコミミネコシッポがかわいいからかな」


『マーリィさんほどではないにしろ、彼女もそれなりに胸がありますからね』


「胸には触れてなかっただろ!」


『ですがマスターは胸に最も注目していました。そのような視線を感知しました。正確な時間的割合は胸6:顔3:ネコミミネコシッポ1となっております』


 おまえ、マジで無駄にオーバーテクノロジーだな。


『マスター、おめでとうございます。マッチングが成立しました』


「お、おう。相変わらず早いな」


『仕事の速さには自信があります』


 だから見捨てるのも早いんだな。


『これよりゲートをオープンします』


 前回同様、ナビゲーターの声に呼応してスマホがまばゆい光を迸らせた。


『マスター。あなたの未来に、光あれ』


 ドゴーン!!


 これも前回同様、雷のような音と共に光の柱が目の前に落下する。


 出現した禍々しい扉の奥から、人影が姿を現した。


「わー! わー! ここが人間界ってとこなんだね! ついに来たー!」


 頭にネコミミ、お尻にネコシッポを生やした、愛くるしい女の子。


 きょろきょろとせわしなく動くその瞳もまた、好奇心旺盛なネコを思わせた。


「キミだね、あたしを呼んでくれたのは。今後ともよろしく!」


 ……コンゴトモヨロシクって、異世界で定番のあいさつなのか?


 こうして俺は、エルフの次にネコマタの彼女と出会うことになったのだった。