モテない俺はマチアプで異世界彼女を召喚する
2章2話
「キミだね、あたしを呼んでくれたのは。今後ともよろしく!」
「あ、ああ。よろしく」
「あたしはパティア。種族はネコマタだよ。そっちは人間なんだよね? 初めて見る!」
言葉が通じるのは、彼女の翻訳魔法のおかげだろう。
マーリィとも、こんなふうに最初に自己紹介を交わした。だがマーリィと違うのは、パティアのほうが気さくで親しみやすい印象を受けるところだ。
「人間って特徴がないところが特徴って聞いてたけど、姿を見る限りまさしくそんな感じ! 異世界の全部の種族を平均化した感じだね!」
……悪い意味で言ってるわけじゃなさそうだが、褒められてる気もしないな。
とはいえ、やっぱりマーリィと違ってツンツンしていないので、初対面でも会話しやすそうだ。
「えっと、キミのことはアラタくんって呼べばいい?」
「ああ。こっちは、パティアさんって呼べばいいかな」
「べつに呼び捨てでいいよ。アラタくん、載せてたプロフィールが本当なら19歳でしょ? あたしのほうが年下だもん」
「……あれ、そうなのか? エルフのマーリィは100歳を超えてたのに」
「エルフは長寿の種族だからね。でもネコマタは違うんだ。ていうか、もうほかの子とマッチングしてたってことね……ふーん、なんか妬けちゃうなあ」
パティアはわざとらしく頬を膨らませ、スネてみせた。
あざとく見える仕草だが、それ以上にかわいいから許される。かわいいは正義だ。
「でも、アラタくん。あたしとマッチングしたってことは、マーリィっていうエルフの子とはうまくいかなかったってことだよね?」
「まあ……そうなるのかな」
「アラタくん、なんであたしを選んだのか聞いていい?」
「……かわいいって思ったからだよ」
「マーリィって子よりも?」
答えづらい!
「ふーん、言ってくれないんだ」
じと目を向けられてしまう。
「ねえアラタくん。あたしのどこがかわいいって思ったの?」
ぐいぐい来るじゃないか……。
俺は腹を決めて答えることにした。
「……なあ、パティア。ここで容姿って答えたら、幻滅するのか?」
パティアはきょとんとした。
「マッチングアプリの情報だけじゃ、容姿とプロフィールからしか判断できない。だから俺は、こう言うしかない。かわいいのは、キミの顔と、ネコミミとネコシッポだって」
『マスター。そこで正直に胸と答えなくて私はホッとしております』
ナビゲーターの文字による横やりは無視。
俺は、パティアがなにか返答するよりも早く言葉を続ける。
「でもこれからキミと仲良くなって、キミの内面も知りたいって思う。きっと内面も好きになれると思ってるよ」
「……わー、ソツのない答え」
俺の言葉に、パティアは苦笑した。
「あたしを傷つけたくないってのはわかったけど、やけにスムーズに口にしてたし、最初から用意してた言葉だよね?」
……筒抜けかよ。
「そうだよ……悪かったな」
「まあ、だとしてもあたしに優しくしてくれたってことだし。それだけでもぜんぜん悪くない……って言いたいところなんだけど、ちょっとだけ減点かな」
「やっぱり、用意してた言葉だったから?」
「ううん。あたし、自分のシッポが嫌いなんだ。そのシッポをかわいいって言われても困っちゃうなーって」
……シッポが嫌い?
理由を尋ねたら不快にさせるかもしれないし、触れないでおこう。
「ふーん。シッポが嫌いな理由、聞いてこないんだ。アラタくん、ほんと優しいね」
パティアはずいっと俺の顔を覗き込んでくる。
……距離が近くないかな。
「アラタくん、照れてる? 女の子に慣れてない感じ?」
「……そうだよ。これも減点か?」
「ううん、むしろ満点だよ」
パティアは瞳を細めて、間近で俺と視線を交わす。
「あたしのことかわいいって言ってくれたアラタくんの、そんなところが……あたしも、かわいいって思うよ」
そう言って優しく笑む……いや。ニヤニヤと笑んだ。
この状況を楽しんでいる印象を受ける。
たとえるなら、そう。
(彼女は小悪魔系か……)
マーリィの属性がツンデレなら、パティアの属性は小悪魔に違いない。
イタズラ感覚で相手を誘惑し、反応を楽しむ。そこに愛情がないわけじゃない。むしろ愛情があるからこそちょっかいをかけるのだ。
好きな子をイジメたくなる心理に近いだろう。
そういった属性のひとつに我が妹のようなメスガキがあるが、俺はもうザコ呼ばわりに飽きているので、パティアのような正統派の小悪魔こそウェルカムだ。
「もしかして、かわいいって言われるよりカッコいいって言われるほうがよかった? アラタくん、男の子だもんね」
「……俺のほうが年上なんだし、男の子呼ばわりはやめてくれ」
「アラタくん、エッチしたことある?」
いきなりの質問に、絶句した。
「その反応、まだみたいだね? じゃあまだ男じゃないよ。男の子でいいんじゃない?」
彼女はたしかに小悪魔……いや、むしろ悪魔かもしれない。サドって意味で。
「怒った? そうだったらごめんね。でもあたしは、かわいい男の子のアラタくんが好きだよ? だって……初めてを、もらえるかもしれないもん」
……え? 初めてをもらう?
「アラタくん、エッチしたことないならドーテーだもんね? あたしはドーテーのアラタくんが好きだよ?」
……それってつまり、処女厨ならぬ、童貞厨?
「あ、あのさ。パティアは……そういう経験あるのか?」
「ううん。エッチどころかキスだってしたことない。だからあたしも、まだ女じゃない。ウブな女の子でしかないよ」
パティアの眼差しに、いつしか熱がこもっている……。
「アラタくんは……あたしが処女どころか、ファーストキスすら経験してない幼い女の子で……よかった?」
俺は秒でうなずいた。しかも間抜けなほどに何度も。
「じゃあさ、アラタくん。あたしの初めてをもらって欲しいって言ったら……どうする?」
……え? マ、マジで?
どうするもこうするもないよ? 答えはひとつしかなくないかな?
「あはは、冗談だってば。まだ出会ったばかりなのにこんなこと言ったって、困らせるだけだもんね」
いえ、なにも困ってませんよ? 今のように誤魔化されるほうが困りますよ?
「アラタくん。気を取り直して、デートしよ?」
デート……! 彼女のほうから言ってくれるなんて!
マーリィと違い、パティアは最初から恋愛目的であること確定! 積極的なのもうなずけるというものだ!
『パティアさんのプロフィールにはもともと恋愛をしたいと載っていました。マスター、胸以外もちゃんと確認してください』
無粋なナビゲーターは無視。
俺はパティアにデート先の希望を聞いてみる。
「あたし、人間界のことはよくわからないから。行き先はアラタくんにお任せするよ。ただ……ひとつだけ、お願いがあるかな」
パティアはもじもじして、ちょっとあざとい上目遣いをしながら言うのだった。
「遊びに行くだけじゃなくて……手をつないだり、腕を組んだり……恋人らしいデートができる場所が、いいな」



