モテない俺はマチアプで異世界彼女を召喚する

2章3話

 俺は高鳴る心臓の鼓動を感じながら、パティアと一緒にアパートを出た。


 その際、パティアは帽子をかぶって頭のネコミミを隠していた。


「人間界には、人間しかいないんだよね。周囲を驚かせないよう、あたしもちゃんと人間として振舞うよ」


 ネコシッポのほうもスカートの中に隠していた。


 それらは、たとえば秋葉原なんかではただのコスプレだと思われるだろうが、さすがに電車の中では目立ってしまう。


 ちなみに電車に乗ったパティアは、マーリィと同じように目を輝かせていた。ネコのように走り回ることはしなかったけど。





 そんなわけで、足を運んだのは定番のデート先である遊園地。


 ネズミーランドは予算的に無理なので、選んだのは入場料が安い浅草華やしきだ。


 俺自身、来たのは二度目。一度目は、家族旅行の時。


 妹のやつに振り回され、疲れ果てた記憶しかない。


 とはいえ、この華やしきはれっきとしたデートスポットに数えられている。


「わー! あたしの国にも遊園地ってあるけど、見たことない乗り物ばっかり! それになんかレトロな感じがする!」


 パティアが言った通り、華やしきは日本最古の遊園地と呼ばれているだけあって、どこか懐かしい雰囲気のアトラクションが並んでいる。


「来る途中は人間がいっぱいいたのに、ここは少なくて、静か……。ベンチで日向ぼっこすると気持ちよさそうだね」


 ネコマタだけあって、セリフもネコっぽい。


 客が少ないのは平日の午前中だからだ。都会の喧騒を離れ、時間がゆっくり流れている感覚におちいる。


「この空気、眠くなっちゃうね。アラタくん、あたしが膝枕してあげよっか?」


 膝枕……! 女子の膝枕なんて初めてだ!


「なんてね。せっかくのデートなんだし。お昼寝じゃなくて遊びに来たんだもんね」


 くっ、俺はむしろ膝枕で遊びたい!


「お客が少ないなら、乗り放題だよね。待ち時間って退屈で嫌いだから、よかった。アラタくん、行こっ」


 俺の気持ちを知ってか知らずか、パティアが手を握ってきた。


 小さくてやわらかくて、陽だまりのようにあたたかいその感触にドキッとする。


 女の子と手をつないだのは、マーリィに続いて二人目だ。


 俺はぎこちなく握り返す……。


「もう、アラタくん。握り方、間違ってる」


「え?」


「握手じゃないんだから……こうやって手、つなご?」


 パティアは、俺の指と指の間に、自分の指を一本ずつ通していった。


 ……これはいわゆる、恋人つなぎ。


 マーリィとも、こんなふうには手をつながなかった。


 俺は生まれて初めて、女の子と恋人つなぎをした……!


「アラタくん、もっと強く握っていいよ? あたしの手……ぎゅってしていいんだよ?」


「あ、ああ……」


「もしかして、嫌だった?」


 そんなわけがない……!


「そ、そ、そんなわけ……」


 くそっ、緊張してうまく話せねえ!


「嫌じゃないなら、よかった」


 パティアは察してくれた。はにかんで笑いながら。


 そんな彼女が、俺の目には女神のように映った。


「アラタくん、ぎゅってしていいって言ったけど……。あんまり強く握られると、痛いかも」


「あ、ご、ごめん」


「ううん、嬉しい。あたしと手をつなぐの、嫌じゃないって痛いくらい伝わったから」


 やはり彼女はまごうことなき女神……!


「で、でも、パティア。痛いなら……もっと優しくするよ」


「いいんだよ。だって初めてエッチするのだって……痛いんだよね?」


「…………」


「だったら、やっぱり……痛いのだって、あたしは我慢できるよ? あたし……アラタくんとなら、初エッチの痛みだって……嬉しいって思えるよ?」


「…………」


『マスター。フリーズしていないでください。なにかしら言葉をかけるべきかと』


 言葉を失うほどの衝撃だったんだよ……!


『パティアさんはあざといですので、冗談を言ってマスターをからかっている確率が高いため、あまり鵜呑みにしないよう気をつけてください』


 んなことはわかってる! 女神は女神でも、彼女は小悪魔な女神だ!


 だけどそれがどうした! むしろ大好きですとも!


「アラタくん? 慌てちゃうのを期待してたのに、ちょっと刺激が強すぎたかな? もう、アラタくんってほんとにかわいい」


 今度はパティアのほうから、俺の手を強く握ってきた。


「じゃあ、気を取り直して。アラタくん、行こ?」


 緊張のせいで手汗を気にする余裕もない。俺はとにかく平静を装って、この遊園地の目玉であるアトラクションに案内する。


 俺たちが乗ったのは、これまた日本最古のジェットコースターと呼ばれている、ローラーコースターだ。


「わー! わー! スピードは速くないけど、建物の横すれすれを走ってる! 今にもぶつかりそう! あはは、怖ーい、スリル満点ー!」


 パティアは言葉とは裏腹に、笑顔でバンザイしながらはしゃいでいた。


 これもデートらしい雰囲気なのかもしれないが、ドキドキの空気は吹っ飛んだ。


 くっ、怖がって隣の俺に抱きついてもよかったのに!


「楽しかったー! アラタくん、次もあたし、スリルがある乗り物に乗りたい!」


 くっ、予定では怯えたパティアのために次はのんびり乗れるメリーゴーランドを案内するつもりだったのに。ふたりで乗ると狭いから必然的に身体がくっつくことになったのに!


『マスター。捕らぬ狸の皮算用という言葉をご存じでしょうか? ちなみにこの助言は二度目です、やれやれ』


 やれやれじゃねえんだよ。俺の心の声にまでいちいち反応しないでくれますか。


「じゃあ、パティア。スリルを楽しみたいなら、次はお化け屋敷に行こうか」


「……おばけやしき? それってどういう乗り物?」


 異世界にはお化けという概念がないのか、もしくはパティアが知らないだけなのか。


「乗り物じゃなくて、屋敷を探検するんだ。ミッションをクリアすれば、無事に脱出できるって感じかな」


「わー、なんかおもしろそう。アラタくん、行こっ!」


 パティアはまた俺の手を取った。引っ張っていく勢いで。


 ……あの、パティアさん。はしゃいでるせいか、恋人つなぎを忘れてますよ?