モテない俺はマチアプで異世界彼女を召喚する
断章1話
翌日。
『マスター。今朝も妹さんから目覚まし代わりのメッセージが届いています。サボらずに大学に行けという内容です』
「わかったと返信してくれ」
『大学なんかクソくらえだと返信しておきます』
「なんでだよ!」
『マスターは大学よりもマッチングを優先するべきです。それがファイナルアンサーだったのでは?』
「さすがに大学の講義すべてをサボるわけにはいかねえんだよ! 大学から親に連絡がいくかもしれないんだから!」
『マスターはご両親に怒られるのが怖いのでしょうか?』
「怒られるどころか、払ってもらってる家賃と生活費を止められるかもしれない。下手したらひとり暮らしが終わるんだよ」
『……それはマズいですね。実家暮らしでは、マッチングしづらいです。異世界からやって来た彼女をご両親に見られたら大騒ぎされてしまいます』
「というわけで、今日こそは大学に行くつもりだ」
『マスター。パティアさんからもメッセージが届いていますが、それも無視して大学に行くのですね』
「無視するわけねえだろ! それを先に言ってくれよ!」
パティアのメッセージを読んでみる。
『アラタくん。あたし、詐欺グループからちゃんと抜けることができたよ。これからまっとうな仕事を探すことになるから、アラタくんとマッチングする時間はなかなか取れないだろうけど……でも、いつかまた必ず会いに行くからね』
そうか……。その日を楽しみにしてるよ。
『でも……その間に、アラタくんはほかの子とマッチングしちゃうのかな? なんだろう、そう思うと胸が痛くて……苦しくなっちゃうよ』
パティア……! 俺も同じ気持ちだよ!
『アラタくん。あたしはキミにキスしたけど……それ、あたしにとってのファーストキスだからね? そのこと……忘れないでね?』
忘れない……! だって俺にとっても……!
「…………」
いや……俺はもう、キスを交わしたことがある。
それは初めてできた彼女とのこと。その彼女とはとっくに疎遠になっている。
俺のエロゲーコレクションにドン引きされたせいでな……。
『マスター、パティアさんにはどう返信しましょうか? まあ、ふたりめのキープちゃんとして扱うのですから焦らすのが常套だとは思いますが』
「……どこが常套だよ。マーリィの時にも言ったけど、俺はそんなつもりねえんだよ」
『セーフティネットは広ければ広いほど役に立ちます。マーリィさんとパティアさんはその役目を果たしてくれると思いますが?』
「これも何度か言ったけど、俺はそこまでドライじゃねえんだよ」
『クソザコナメクジな甘えは捨てろ(はぁと)』
どこまでスパルタなの、うちのナビちゃんは!
『とはいえ、パティアさんは詐欺から足を洗ったとウソをついて、再びマスターの金品を盗もうとしている危険性もあります。セーフティネットに穴が空いているようなものですね』
「……おいナビゲーター。自我を持ってるとしか思えないおまえなら、人としての血だって通ってるはずだ。パティアはちゃんと本心を告げてると思わないか?」
『パティアさんが本心を告げている証拠は? エビデンスはどこにあるのでしょう?』
「パティアは、根はいい子だ。俺のこの証言が、証拠になる」
『ロマンス詐欺に騙されている人はみんなそう言いますから、証拠不十分です』
俺がマスターなんだし、もうちょっと言うこと聞いてくれてもよくないかな?
『まあ、パティアさんはすぐに会いに来るつもりはないようですし、マスターが望むメッセージを伝えることにします。どのような内容がよろしいですか?』
俺はため息をつきながら、パティアへのメッセージを口にした。
その文言は、マーリィにも送ったように、いつでも会いに来て欲しいといったものだ。
『マスターのお望み通りにお送りしましたが、あまり八方美人の対応を続けていると、マーリィさんとパティアさんがブッキングしてしまう恐れが生まれますね』
……修羅場ってやつ?
「いや……おまえだって、ふたり同時にキープちゃんにして欲しいんだろ?」
『キープちゃんを安全に確保するには、ドライな対応が必要なのですが、マスターは温情ばかりかけていますので。あまり情に流されないで欲しいと言いたかったのです』
「恋愛ってのは、そもそも情だろ?」
『少し違います。恋愛そのものが情だとしても、恋愛成就においては無情であることが肝要です。戦略と戦術だけを考えるべきです』
価値観の違いがここに来て判明した。
『恋愛とは綿密な計画により成就されるものです。マスターはいいかげんドーテーにありがちのピュアな幻想を捨ててください』
一理あるとは思うけど、おまえの言葉だと反論したくなるのはなぜだろうな?
「……とりあえず、今日は大学に行く。恋愛は置いといてな」
『大学を欠席し続けているとマッチングができる環境を維持できないのであれば、私も泣く泣く賛同します。本当はサボって欲しくてたまらないのですが』
おまえのナビに従ってばかりいたら、俺はニートまっしぐらだからな?
※
数日ぶりに大学へと足を運んだ。
自転車で通える距離なので、近所と言っていいだろう。
この大学は、システムエンジニアやゲームプログラマーを育成するための学部と学科がそろっている。
俺もまたゲームプログラマーを目指してこの大学に通っているわけだ。
美少女ゲームオタクの俺なのだが、ネトゲやソシャゲ、コンシューマーゲーム等、どのジャンルも好んでプレイする雑食型ゲーマーでもある。
この趣味のおかげで、異世界の設定には造詣が深いつもりだ。
だが『異世界カノジョ』で実際にやって来た子と接すると、知識と違う部分が多々あり、夢が壊れたりすることもあった。
逆に考えれば、より深く異世界について詳しくなったとも言える。
「だから俺は、大学をサボってる間も勉強してたってことだな」
『私もマスターには大学をサボってマッチングにいそしんで欲しいため文句はなにもありませんが、現実的な見解を言わせてもらうとそれはただの逃避です』
たまには正論じゃなくて、共感をもってして俺に寄り添ってくれないかな?
「お、新太。やっと顔見せたな。これまでどうしてたんだ?」
「中退したんじゃないかって噂してたところだよ?」
「どうせエロゲーにハマって引きこもってただけだろうけど」
大学仲間が話しかけてきた。彼らは俺の友人だ。
とりあえず、当たり障りのない返答をしておいた。
「なんか誤魔化してねえ? まさか……彼女ができたとかじゃないだろうな?」
「この前、念願の彼女ができたって喜び勇んでたけど、結局フラれたんだよね?」
「性懲りもなく新しい彼女を作ったんだとしたら……おまえとはもう友だちの縁を切る」
応援してくれないのかよ。俺たちってその程度の仲かよ。
いやまあ、俺だって友だちが彼女作ることに抜け駆けしたら、これまでと同じように接することができないかもしれないけど。
ともあれ、彼女なんてできていないので、正直に伝えることにした。
「だよなあ。オレは最初からわかってたよ」
「ボクもだよ」
「ワガハイもだ」
友人の皆は晴れやかな笑顔を浮かべながら俺の肩を優しくたたいた。
「だいたい、この大学って出会いがねえもんなあ」
「理系だけあって女子の比率が低いからね」
「競争率が高いし、ワガハイたちのような陰キャでは絶望的だろう」
その意見には同意するけどさ。
だからこそ今の俺は、『異世界カノジョ』のマッチングアプリにすがっていると言える。
「べつに高望みはしねえから……女じゃなくていいから、かわいい男の娘と出会いてえよ」
「ボクは耳としっぽがある女の子と出会いたい。だけど人間の形じゃなくて動物の形をしていて欲しい。ケモナーだから」
「ワガハイは肌の色が青や緑の彼女と出会いたい。モンスター娘こそが至高なのだから」
俺、こいつらといつまで友だちでいられるかな?



