モテない俺はマチアプで異世界彼女を召喚する
断章2話
大学の講義を終えた俺は、学食で昼飯を食べたあと、バイトを探すことにした。
今後のデート資金を調達しなければならないからだ。
『マスター、マッチングに乗り気になっていただいてありがとうございます。ですが私としては、効率の面から言って、アルバイトで時間を費やすよりも恋愛スキルを磨いて欲しいと言わざるを得ません。ご両親からお金を無心することはできないのでしょうか?』
「……できるわけないだろ。学費と生活費を出してもらってるだけでありがたいのに」
『マスターはいちおうご家族を大切に思っているのですね』
いちおうってなんだよ。俺はちゃんとリスペクトしてるつもりだよ。
とりあえず書店やコンビニで求人誌をあさってみたが、条件に合うバイトはなかなか見つからなかった。
その条件とは、マッチングのデートと、大学の講義を阻害しないというものだ。
「くっ……今の日本は人手不足なんじゃないのか? なのになんで条件に見合うバイトがないんだよ?」
『マスターの条件が人手不足を超えて厳しいからです。デートのために勤務時間を自由に設定できるようなバイトなど存在しません。とはいえ私は、バイトよりもマッチングを優先するマスターに賛同していますので、なにも文句はありません』
「でも、このままだとマッチング相手とデートするための金が……」
『マスター。デートとはお金ではなく真心でするものではないでしょうか?』
「っ……!」
『お金があったほうが、デート先の選択肢は増えます。相手を喜ばせる方法を多様に選ぶことができるでしょう。ですがそこに心がこもっていなければ、なんの意味もありません』
そしてナビゲーターは、言ったのだ。
『大切なのは、そう。お・も・て・な・し』
おもてなし……! それはまさしくデート相手に対する真心!
「ドライなくせに良いこと言うじゃないか。ナビゲーターよ、我が親愛なる友人よ。心得た」
『理解していただけたなら感謝を述べます、我が親愛なるマスターよ』
俺たちはがっちりと握手した。心の中で。
『チョロい』
「……俺のことチョロいって言った?」
『いえ、ちょうどいいと言ったのです。マスターにとってちょうどいい言葉をお伝えできて恐悦至極に存じますと言いたかったのです』
……まあ金欠の解決にはなっていないがな。
俺は今後、マッチングする際は、デート代がかからずにおもてなしできる方法を必死に模索しよう。
限度はあるだろうが……まあ、その時はその時だ。
彼女を作るって、ほんと大変だ。
※
その夜。
俺は、妹とオンラインゲームに興じていた。
「お兄ちゃん? なんかモンスターを狩る時のキレがなくない? コクもないし」
コクってなんだよ。
「悩み事があるとか? しょうがないなあ、あたしが聞いてあげるよ。ほらほらぁ、白状しちゃいなよぉ、そのほうが楽になるよぉ? プークスクス!」
俺はため息をつきながら告げる。その内容は妹も聞き飽きているだろうけど。
彼女を作りたい、それに尽きるのだから。
「あの……お兄ちゃん。たとえばなんだけど……う、ううん。なんでもない」
「なんだ? 言いたいことがあるなら言ってくれ」
「……ちゃんと聞いてくれる?」
「そのつもりだけど」
「じゃあ……言ってみる」
妹は一呼吸おいて、言葉を続けた。
「人生って……ぶっちゃけさ、オープンワールドだよね。例えるなら、同接80億人のネットゲーム。自由度無限、毎日ランダムイベントが発生して飽きさせなくて……だから、恋愛に発展しちゃうイベントだっていつか必ず起こるんだと思う」
「…………」
……予想だにしなかった内容に、面食らう。
「なのにさ……自由なはずの人生を、ゲームみたいに楽しめない人もいるよね。ドーテーなのを嘆いてばかりのお兄ちゃんみたいにさ」
いちおう俺も楽しもうと思ってこの人生を生きてるからな?
「同じオープンワールドをプレイしてるのに、楽しめるプレイヤーと楽しめないプレイヤーがいる……それって、なんでかな?」
妹の言いたいことは……なんとなく受け取れた。
「……ゲームと人生は、結局は違うからだろうな」
「ゲームと人生……お兄ちゃんは、どこが違うって思うの?」
「そうだな……すぐ思いつくのは、ゲームと違って人生は死んだら終わりってところだな」
「スタートから残機ゼロのゲームなんかいくらでもあるよ?」
……たしかに。
「お兄ちゃん、ほかには?」
「……ゲームと違って人生は努力の結果が見えないことかな」
「たしかにそうだね。人生って、経験値周りのシステムがマゾいもんね。レベルアップに必要な分がちゃんとたまってるのかぜんぜんわかんないもんね」
妹の声色が徐々に変わっている。
そこに熱が帯びてくるのを感じる。
「ねえお兄ちゃん。親ガチャって言葉、前に流行ったじゃん。親によって子の初期ステータスが決まるってやつ。ガチャに外れたらキャラクリがミスるってやつ」
「……それが?」
「人生ってやり直しが利かないじゃん。リセマラすら許されなくて、一度キャラクリしちゃったらあとはずっとオートセーブじゃん。死んだ後に強くてニューゲームなんてのもないし、実は1回もミスできないベリーハードモードなんじゃないかなって……」
「あのさ」
俺は、我慢ならずに告げた。
「おまえ、現実はクソゲーだとでも言いたいのか?」
「半分当たり」
妹は、こう言葉を続けた。
「あたしは、クソゲーの現実を神ゲーにするにはどうすればいいのかを知りたいんだよ」
「…………」
「あたし……なんで、お兄ちゃんの妹なんだろ。なんで兄妹なんていう関係でキャラクリされちゃったんだろ。ほんと……クソゲー」
……妹のおまえは、不出来な俺が兄であることが恥ずかしいって言いたいのか?
「クソゲーの現実を神ゲーにする方法……お兄ちゃんは知ってる?」
知るわけがない。
いくらがんばっても彼女ができないこの現実は、俺にとってもクソゲーだ。
……だけど。
兄として、なにか悩んでいるらしい妹に、これくらいは言うことができる。
「いくら現実がクソゲーでもさ……仲間がいるじゃないか」
「仲間……?」
「ああ。兄の俺は、こうやって妹のおまえの悩みを聞いてる。こんなふうに誰かと誰かはつながってる……パーティーを組んでるんだ。たとえ現実がクソゲーでも、ソロプレイしてるんじゃない、孤独じゃないってわかるだけで、少しは救われるんじゃないか?」
しばらく沈黙が続いたあと。
妹の声が、ようやく届いた。
「……プークスクス。よかったね、お兄ちゃんにはあたしみたいなかわいい妹がいて。だったらもう、カノジョなんか作らなくていいよね?」
「それとこれとは話が別だ。今の俺の最優先ミッションは、彼女を作ることなんだから」
「フラれてばっかのくせに」
「フラれることで経験値を稼いでるんだ」
「フラれたら傷つくでしょ? 現にお兄ちゃん、何度もヘコんでるし。それがこれからも続くかもしれないのに。いくら努力したって……目に見えない経験値を稼いだって、報われないかもしれないのに。お兄ちゃんのミッションは、クリアできるかわからないのに」
「だとしても、中途半端にプレイを諦めるのは、ゲーマーとは呼べねえよ」
だってさ、そうだろ?
「どんなに理不尽なミッションでも、チャレンジするのがゲームの主人公ってもんだからな」
だからこそ、俺は。
『異世界カノジョ』というマッチングゲームだって、クリアしてみせる。
ナビゲーターもいることだしな。非情だし、なんか妹みたいに煽ってくることもあるけど、それでも俺のパーティー仲間だからな。
「……そっか」
この時、妹は。
めずらしく煽らずに──それどころか、しおらしくこう言った。
「お兄ちゃんが恋愛ゲームの主人公になれるよう……あたしも、妹として応援するよ」
それから、いつもの調子に戻ってプークスクスと含み笑いをした。
「なんて言うと思った? ザコのお兄ちゃんなんか応援するわけないじゃん。ドーテーのほうがお似合いなんだし……だからさ。かわいい妹と、もっとゲームで遊ぼうよ」
俺は、答えたんだ。
「彼女がいない間は、しょうがなくつき合ってやるよ」



