モテない俺はマチアプで異世界彼女を召喚する

3章1話

 翌朝。


『さあマスター、待ちに待ったマッチングの時間です。三度目の正直といきましょう。力を合わせて異世界の彼女を攻略するとしましょうか』


「今日もいちおう大学の講義があるんだが……」


『昨日、講義は受講したはず。ならば当分サボる余裕ができたことでしょう』


「できてねえよ。今後も最低限の受講は必要だよ」


『マスターが通う大学の情報を取得したところ、講義の3分の2をサボったとしてもテストで挽回できれば単位を得ることが可能です。つまり3日に1回通うだけで充分です』


 おまえって、彼女を作るよりニートを作るナビのほうが向いてね?


「でもな……たとえ3日に1回通うだけで充分でも、テストで挽回できる保証がない。もし本当にできるなら願ったり叶ったりだけどさ」


『ご安心ください。私が保証します。なぜなら私の助力があれば、テストで満点を取る確率100%です』


 なん……だと……!


『マスターがテストの監視員に見つからないようスマホを操作すれば、私がテストの解答をすべてお伝えします』


「カンニングじゃねえか! バレたら単位どころの話じゃなくなるだろ!」


『バレた場合はマスターの落ち度ですので、私になんら非はございません』


 こいつのスタンスはいいかげんわかってるつもりだが、だからといってヘイトが下がることはないからな?


「……とりあえず、2日に1回は講義に出ることにするか」


『では、今日はマッチング日和ということですね。さすがです、マスター。勉強よりも恋愛を優先するマスターを私は心から尊敬しています』


 いつもながらの白々しい応援をもらい、俺は身なりを整えたあと、三度目の正直を祈ってマッチングに乗り出した。


『現在マッチングを望んでいるのは、ピクシー、マーメイド、マミー、サキュバスの種族の子たちです』


「マーリィもパティアもいないな……」


『彼女らはたかがキープちゃんです。マスターは新たな彼女を見つけるために未知なる冒険へと出かけるべきです』


「俺はどうしても迷ってしまうんだ……マーリィとパティアを裏切ってまで作った彼女に、果たして価値はあるのだろうかと」


『ヘタレ主人公みたいにグダグダ悩むな、ゴールは決まってるんだから無駄に時間を使うんじゃねえぞ(はぁと)』


「スパルタモードに入るなよ! だいたいゴールってなんだよ!」


『マスターがマッチング相手と恋仲になることに決まっています』


「…………」


『マーリィさんとパティアさん以外の彼女と恋仲になったとして、マスターが思い悩む必要はありません。マーリィさんとパティアさんだって、そんなマスターを祝福してくれることでしょう。マスターに好意を持っているのなら、間違いありません』


「……なんで、それで間違いないんだ? 普通、疎遠になったりしないか?」


『たとえばマーリィさんとパティアさんがマスターにフラれたことで、落ち込んだとします。そして、落ち込むだけで終わるなら、それはそもそも恋ではありません』


 ナビゲーターの言葉は続いている。


『恋愛とは自分のためではなく、好きになった相手のためにするものなのですから』


 え……?


『自分の恋が叶っても叶わなくても、好きな人が幸せなら、その恋に意味はあります。マーリィさんとパティアさんが自分のためではなく、マスターのために恋をし、結果として恋人にはなれなかったとしても、そこには大きな意義があります』


「……どんな意義があるって言うんだ?」


『マスターが幸せになることで、マーリィさんとパティアさんもまた、幸せになれるということです。恋が叶っても叶わなくても幸せになれるのが、恋愛なのです』


「…………」


『好きな人が幸せなら、それだけで自分も幸せになれる──利己的ではなく利他的な感情こそが、恋愛というものの本質なのです。なぜならば、自分が幸せになるためだけに恋をするのだとしたら、好きな人が不幸でも恋愛が成り立つことになってしまうからです』


「……なあ、ナビゲーター」


 長口上を聞き終えた俺は、ふっと笑って言った。


「おまえも充分、ピュアじゃないか」


『……私の中には、ピュアといった非効率なシステムなど搭載されていません。先ほどの言葉は、あくまで統計データを参照した結果に過ぎません』


 おまえの言葉が本当に統計に基づいているのなら、クソゲーだと思っていた現実も、案外捨てたもんじゃないのかもな。


 ともあれ、俺はスマホに表示されているマッチング相手──ピクシー、マーメイド、マミー、サキュバスを吟味する。


「サキュバスって、初めてだよな?」


『はい。新たにピックアップされた種族の子です』


「決めた。彼女で」


『選別にかかった時間はほんの一瞬でした。マスターの視線はプロフィールなどに一切向けられず、胸だけに集中していました。彼女はマーリィさんを超える巨乳ですし、容姿や服装もまたサキュバスらしくエロかわいいです。これまでの候補で最もマスターの好みに合致する相手と言っても過言ではありません。この即断は確定的に明らかだったようですね』


 ……反論したくなるが、すべて正解なのでなにも言えない。


『ただ、サキュバスという種族は性欲が旺盛です。ゲーマーのマスターもまた知っていると思いますが、すぐヤれそうだからと安易に考えていたとしたら苦言を呈します』


 そうだったらいいなあって、ちょっとは考えてたけどさ!


「い、いや、おまえは俺に彼女を作って欲しいんだよな? だったらすぐそういう行為ができることに異議なんかないだろ?」


『マスターともあろうお方が、なんという浅慮でしょう。セックス=恋愛ではありません。恋愛ゲームだってそうでしょう? 結果と同じくらい、過程もまた大事なのです』


 くっ、たしかに。


 エロゲーのジャンルのひとつである抜きゲーだったら過程をすっ飛ばすこともあるけど、それはただ性欲を満たしているだけだ。


『ドーテーのマスターが、エロかわいいサキュバスを前にして、過程をすっ飛ばすことを我慢できるでしょうか? 恋人ではなくセフレを作ってしまうのではないかと危惧します』


「セフレのなにが悪い……!」


『マスター、お気を確かに! 私はマスターの恋愛を支援しているのです、ただれた生活をして欲しいわけではありません! そうなれば底辺一直線なのですから!』


「……すまない。おまえの言葉にはどうしても反論してしまいたくなるせいで、本心とは違う言葉を告げてしまった」


『承知しました。そういうことにしておきます。セフレでもいいというのは本心ではないのだと、私も涙を呑んで受け入れることにします』


 なんで涙を呑む必要があるんだよ。本当は信じてないってことじゃねえかよ。


『マスター、マッチングを成立させる前にひとつ提案があります』


「……なんだ?」


『今はこうして普通に会話していますが、異世界の彼女がやって来たら私の声が邪魔にならないよう、テキストでの会話に移行するしかありません。ですがワイヤレスイヤホンを片方の耳に着けていただければ、マスターはこれまで通り私との会話が可能になります』


「いや……おまえの声を俺は聞けるだろうけど、おまえは俺の声が聞けないだろ」


『マスターの心の声を拾うことくらい造作もありません』


 マジでどんなテクノロジーなんだよ?


『この方法ならば、スマホ画面で私の助言を確認する手間も省けることになります』


「でもそれだと、デートの最中でも延々とおまえの声を聞くハメになるだろ……」


『マスターはなんだかんだでいつも私の助言を確認するじゃないですか』


 そうでしたね。なぜか気になってしまいますからね。


 べ、べつにナビちゃんのことが好きってわけじゃないんだからね!


『私もマスターのことが好きですので相思相愛ですね』


 好きじゃないって言っただろ。ていうか本気で心の声を拾えるのか……。


『デート中にスマホばかりさわっていると、相手に不快な思いをさせてしまうかもしれません。これは、その懸念を払しょくするための提案です』


「くっ……一理あるし、了承しよう」


 俺が片方の耳にイヤホンを装着すると、そこからナビゲーターの声が届くようになった。


『マスター、おめでとうございます。マッチングが成立しました。これよりゲートをオープンします』


 これまでと同様、その声に呼応してスマホがまばゆい光を迸らせた。


『マスター。あなたの未来に、光あれ』


 ドゴーン!!


 雷のような音と共に光の柱が落下し、出現した禍々しい扉の奥から、人影がやって来る。


「こ、ここが……人間界……?」


 弱々しい言葉をつぶやきながら、サキュバスの彼女が姿を現した。


 写真で確認した通り、顔がかわいいのはもちろんのこと、やはり注目すべきはふくよかな胸だろう。


 体形はスレンダーなので、その巨乳がより際立っている。


 そのくせ着ている服は水着みたいにきわどくて、ちょっと動けば見せてはいけないところがはみ出してしまいそうだった。


「あ、あの……私は、ユーノゥっていいます……。こ、今後ともよろしく……」


 おどおどしながら、ぺこりと頭を下げる彼女。


 礼をした反動で、持ち前の巨乳が上下にぷるんと揺れた。


「……俺は、新太。コンゴトモヨロシク」


『マスター。彼女の胸に向かってあいさつしないでください』


 こうして俺は、今度はエロかわいいサキュバスと出会うことになったのだった。