モテない俺はマチアプで異世界彼女を召喚する

3章3話

「私の悩みは……サキュバスらしくない、この性格なんです」


 ユーノゥはおずおずとそう言った。


「弱虫で、引っ込み思案で、恥ずかしがり屋で……ほかの仲間たちはみんな積極的なのに、私はどうしても、そんなふうになれなくて……」


「……えっと。積極的っていうのは? 明るい性格になりたいってこと?」


「それもあるんですけど……もっと本質的な部分と言いますか……」


 ユーノゥはお湯が沸かせそうなほど顔を真っ赤にしながら、その言葉を告げた。


「私……エッチな子に、なりたいんです……」


「…………」


「積極的になりたいというのは……エッチなコトが大好きになりたいって意味です……」


 サキュバスってやっぱそういう種族なのか……!


「アラタさん……私、どうすれば、エッチな子になれますか……?」


 それがユーノゥの悩み……!


 そしてその悩みを解決するのがこの俺、桜井新太……!


『過程が大事って何度言わせるんだこのドーテー(はぁと)』


 語尾にハートをつければいいってもんじゃないからな?


「……ユーノゥ。ちょっと質問いいかな?」


「は、はい」


「ユーノゥ自身は……そういう行為をしたいと思ってるのか?」


「…………」


 ユーノゥは深くうつむき、自分の身体をぎゅっと抱きしめた。


 その仕草で、豊満な胸のふくらみがむにゅっと歪んだ。


 ユーノゥ。キミがエッチな子になりたいなら、喜んで俺のドーテーを差し出しますよ?


 だがユーノゥは、こう答えた。


「わ、私は……エッチなコトなんか、嫌いです」


「…………」


『マスター。真っ白に燃え尽きないでください』


 誰も燃え尽きてねえよ。ちょっとは残念に思ったけど。


 だいたいユーノゥは、これが悩みだと言った。エッチな子になりたいのになれないのが、悩みだと話した。


 だったら性的な行為に対して否定的なほうが、むしろ自然だ。


「え、えっと……嫌いっていうのとは、少し違うかもしれません。私、エッチなコトするのが恥ずかしくて……怖くて怖くてたまらなくて……。ほかのみんなと違って、どうしてもためらってしまうんです……」


 なるほど。生理的に嫌っているわけじゃないのなら、改善の余地はありそうだ。


「そのせいで……この歳なのに私はまだ処女なんです……。それどころか、キスすらしたことがありません……」


 ……日本では、彼女の歳くらいならそれが普通だと思うけど。やっぱり異世界の価値観はハンパない。


「アラタさん……こんな落ちこぼれの私が、立派なサキュバスになれるよう……エッチなコトが大好きになれるよう、協力してくれますか……?」


 いいですとも!


「エッチな子になるには、どうすればいいか……実際にどんなコトをすればいいのか……アラタさん、なにも知らない私に、いろいろ教えてくれますか……?」


 秒でいいですとも!


「私……どんなに恥ずかしくたって、エッチな子になりたい……。アラタさんに、まだエッチな子じゃない私を、エッチが大好きな子に、変えて欲しいんです……」


 光速でいいですとも……!


『よかったですね、まさに理想の彼女ですね、おっぱい星人で処女厨でエロかわいい子がドストライクなドーテーマスターですもんね』


 よけいな肩書きをどんどん増やすな。


『ですが、ただヤるだけではやはりセフレエンドを迎えるだけです。マスターが望む純愛とはかけ離れた結末になることでしょう』


 ……言われなくてもわかってる。


 このままでは抜きゲーまっしぐらだ。俺が目指す純愛ゲーのルートから外れてしまう。


 だから俺の煩悩、静まれ。どうか理性を保ってくれ。


『本能のままユーノゥさんを押し倒さなくてホッとしています。その調子で理性を保ち続けてください。おあずけを食らった犬のごとく。待てと命令された飼い犬のごとく』


 萎えるおまえの発言のおかげで冷静になれるところはあるな……。


「……ユーノゥ。いま聞いたキミの悩みを解決する前に……その背景をもうちょっと教えてもらっていいか?」


「背景……?」


「たとえばさ、サキュバスって種族は最初からそういう行為が好きなのか? それとも、そういうのが好きになるような教育を受けてるとか?」


 今のきわどい格好も、サキュバスの義務だったりするんだろうか。


「あ……そうですね。アラタさんは人間ですし、サキュバスの風習について詳しくありませんもんね。ごめんなさい、最初に話しておくべきでした」


 ユーノゥはかわいらしくコホンと咳をし、取り繕ってから説明を始めた。


『咳の反動でユーノゥさんの胸がまた揺れましたね』


 ツッコまれそうだから見てないフリしてたのに、おまえから言うのかよ。


「アラタさん。サキュバスというのは、異性の精気を吸えば吸うほど周囲から認められます。少なくとも私の国は、そのような文化で成り立っています。そのため学校では……特に子どもの頃は、性教育を中心に習うことになるんです」


 そしてマーリィは、寂しそうに瞳を伏せた。


「幼かった頃の私は、病弱でした。身体が弱くて満足に登校できませんでした。今はもう回復して学校に通っていますが、周りはとっくに性教育を終えてしまっていたんです」


 ユーノゥは性教育をまともに受けられず、そのせいで性に疎いということか。


「性知識くらいは、独学で習得できます。でも……実践することはできません。周りはみんな体験学習をしているのに、私だけできなかったんです」


「……体験学習って、性体験のこと?」


「そ、そうです。グループを作って、みんなでエッチするそうです」


 異世界、マジでハンパねえ!


「私が、エッチなコトをまだなにも知らないというのは、体験のことなんです……。そういう体験ができる場所は学校以外にもあるにはあるんですけど……参加する勇気がなくて……」


 ……そこって、風俗みたいな場所なんだろうか。


「えっと……でもユーノゥは、マッチングすることには勇気を出せたんだな」


「い、いえ……実は、マッチングに登録したのは私じゃないんです。私の友だちが、勝手にやったことなんです……」


 友だちが芸能事務所のオーディションに勝手に応募したという話は聞いたことがあるけど、それと同じようなものなんだろう。


「彼女は、私のたったひとりの友だちです。彼女も私と同じで、エッチにはそこまで積極的じゃなくて……だから私たちは、仲良くなったんだと思います。だけど私と違うのは、彼女はそれを普通に受け入れているところなんです」


 その友だちのことを思い浮かべているのか、ユーノゥの瞳が優しく細まっていった。


「友だちの彼女が言うには、好きでもなんでもない異性とエッチするなんてまっぴらごめんだ……とのことです」


「……サキュバスって、好きじゃない相手ともそういうことするのか?」


「あ、はい……。異性から精気を吸うことがステータスですから、就職にも有利になります。えっと、あくまで私の国の話だと思いますけど……」


 ……マーリィの国やパティアの国は、そうじゃなかったもんな。俺の世界と同様、異世界だからといって一括りにはできないな。


「でも、私はエッチなコトに興味があったから……。いくら恥ずかしくても、怖くても……誰かとエッチ、してみたかったから……。そんな私の気持ちをわかっていたから、友だちはマッチングアプリに登録したんだと思います……。このきわどい服装も、彼女に勧められて着てるんです……私の引っ込み思案を直そうとしてくれてるんだと思います……」


 そういう経緯があったのか。ひとまず背景は把握できた。


 ユーノゥは、その友だちに背を押されて一念発起し、マッチングアプリで出会いを求めることにしたわけだ。


 つまりは、そう。


 マッチングの相手に、エッチなコトをして欲しいと願って。


 俺とエッチしたいと、そう願って────