モテない俺はマチアプで異世界彼女を召喚する
3章4話
「アラタさん……」
いつからだろう、ユーノゥの瞳がうるんでいる。
誰かと目を合わせることが苦手だと言っていたのに、今のユーノゥは、熱が帯びた眼差しをまっすぐに俺へと向けていた。
「私の悩み……解決してくれますか? 私に、エッチなコトしてくれますか? 私を……まだエッチじゃない私を……エッチな子に成長させてくれますか……?」
……なんて、無邪気。
言葉は卑猥なのに、汚れた空気感が一切ない。相手を騙そうという雰囲気なんかまったく感じない。
透明感すら覚えるほどの、奇麗に過ぎる素直な願望……。
(彼女はまだ……夢見がちな子どもなんだろうな)
ユーノゥは、俺よりずっと年下なんだ。少なくとも俺の世界では、性行為どころかキスもしたことがない子が大半の歳なんだ。
そんなふうに幼い子が、無邪気にエッチしたいと言ってくる。
だったら、年上である俺は、諭すためにこう答えよう。
「まままま待て。まままままだ慌てる時間じゃない」
『慌てているのはマスターひとりだけだと推察します。年上の威厳もへったくれもあったものではありませんね』
くうっ、静まれ心臓! 落ち着け俺!
「私、アラタさんより子どもですけど……ちゃんとできます……。どんな恥ずかしいコトだって、がんばります……。だから、私とエッチ……して欲しいです……」
いいよ、おいで……と言えたらどんなにいいか!
無邪気な子どもを騙すような罪悪感が邪魔をしやがる! 俺だって汚い大人にはなりたくない!
「……ユーノゥ、ごめん。ちょっとトイレ」
「あ、は、はい……。ごゆっくり」
俺は逃げるようにユーノゥから離れ、トイレにこもった。
「……さて、ナビゲーター」
『威厳もへったくれもないと告げたことを怒るのでしょうか? 申し訳ございません、ですが私に非はありません、私はあくまで事実を述べただけなのですから』
「……文句は温泉のように湧いて出るが、今は悠長にしてるわけにいかない。ユーノゥを待たせてるからな」
『賢明です。マスターはただちにユーノゥさんのところに戻るべきです。このような間を取ったのは、頭を冷やして理性を保つためなのでしょうが』
「もうひとつ理由がある。おまえの意見を聞きたかったんだ」
『マッチング後のマスターはいつもいつも私を無視してばかりだったのに、ようやくナビゲーターの必要性を認めたのですね。その慧眼に最大限のリスペクトを捧げます』
ご満悦なナビゲーターだが、それはそれでムカつくのはなぜだろうな。
『それでは、私の助言です。マスターは決して、ユーノゥさんの無自覚な甘言に乗らないでください。エッチな誘惑に負けないでください。マスターがやるべきは、理性を保ちながらデートに誘うことです。焦らず段階を踏んで親密度を上げていき、然るのちに恋仲へと……』
「我慢できる自信がない。俺、ユーノゥとエッチしたい」
『さっそく諦めないでください、マスター!』
「ユーノゥの悩みを解決するためにエッチしたい。ドーテーっていう俺の悩みを解決するためにも今すぐエッチしたい。エッチなコトしながらエッチな恋を育みたい」
『それはただれた生活です! 生活ならぬ、性活です!』
「性活のなにが悪い……!」
『相手はずっと年下の子どもなのですよ! サキュバスの基準なら犯罪になりませんが、マスターの基準なら犯罪です! これは犯罪的な性活です!』
「犯罪的な性活のなにが悪い……!」
『正気に返ってください、マスター! 恋とは己の欲望を満たすためのものではありません! 相手を幸せにして初めて恋愛というのは成り立つのだと私は言ったはずです!』
「抜きゲーの主人公に、俺はなる!!!」
『カッコいいセリフを装っていますが、内容は外道でしかありません! お縄につく未来しか見えません! いいかげん純愛ゲームの主人公に戻ってください、我がマスター!』
俺は、ふーっと長い息を吐きだした。
「……やっぱ、出会ってすぐエッチとか、邪道だよな」
『マスター……正気に返ったのですね。恋愛につながるのであれば、邪道もまた王道になりえますが、現状をかんがみるにその可能性は低いと言わざるを得ません』
「エビデンスは?」
『今のユーノゥさんは、エッチをしたいという願望を叶えるだけで満足し、恋愛というものをなにも知らずにマスターのもとから去る恐れがあるからです』
……たしかに。ユーノゥの目的は俺と違って恋愛じゃないし、悩みを解決したらそのままお別れになるのが濃厚だ。
結局俺は、ユーノゥの無邪気な誘惑に乗らないよう我慢するしかないようだ。正道かもしれないが、はっきり言って修羅の道だ。
「まあ、助かったよ。おかげで道から外れずに済みそうだ」
『お役に立ててなによりです。マスターは純愛ゲームの主人公を目指してください。恋愛の王道を堂々と歩んで欲しく思います。抜きゲーという刹那的な快楽に負け、邪道どころか外道へと方向転換することのないよう切にお願いいたします』
「ああ。俺がまた道を踏み外しそうになったら、またいさめてくれるか?」
『喜んで。マスターが私を無視しなければ』
「途中で俺を見捨てて、塩対応するんじゃないぞ」
『私は塩対応をしたことなどありませんが、そのように見えるとしたら、やはりマスターが私の助言を聞き入れないことが原因でしょう』
……おまえの対応次第で俺の現在地がわかると考えれば、羅針盤として使えそうだな。
俺がトイレから部屋に戻ると、ユーノゥは棚に並んでいるゲームソフトを眺めていた。
美少女ゲームを見られた……ていうか、いつものパターン!
ただ、サキュバスの場合は性行為がステータスになるらしい。だったらエロゲーだとバレたって問題ないのか?
いや……二次元と三次元では考え方が違う可能性もある。むしろ実際の性行為に価値を見出しているのなら、二次元のエロなど蔑みの対象かもしれない。
とはいえ、背表紙を見ただけでは、エロゲーだとわからないはずで……。
「アラタさん……これってなんでしょう? 表紙や裏表紙に、エッチな絵がいっぱい載ってるんですが、もしかして……」
……あれ? 手に取って確認しちゃった?
膝下から力が抜け、俺はorzの体勢を取ることになった。



