モテない俺はマチアプで異世界彼女を召喚する

3章6話

「わかりました……デートというのは、エッチするのに不可欠なんですね。アラタさんがそう言うなら、私もデートしたいって思います」


 ユーノゥは独学で性知識を得たそうだが、恋愛の知識までは学んでいないんだろう。友だちがいるらしいが、その子からも教わっていなかったようだ。


 ……というか、サキュバスに恋愛の概念ってあるのか? 実は精気を吸うことしか考えてなかったり?


「ユーノゥ、もうひとつ確認しないといけないことがあった。サキュバスって、誰かに恋するのか? 恋愛するもんなのか?」


「あ、はい。エッチの相性が良い相手と恋愛して、夫婦になるのが一般的です」


 恋愛より性行為のほうが先だった!


『人間界でも、欧州ではそのような文化の国もあります。だからと言って、ユーノゥさんと恋仲になる前に性行為をすることは、私は反対します。なぜならそのような文化の人間ではないマスターは、どうせ刹那的な快楽に溺れるだけなのが目に見えるからです』


 もうちょっとおまえのマスターを信じてくれてもいいんじゃないか?


 ともあれ、ユーノゥからデートの了承をもらったので、次に考えるのは行き先だ。


「ユーノゥは、なにをして遊びたい?」


「……ごめんなさい。アラタさんとエッチしたいってことしか頭になかったから……ほかになにも思いつきません」


 どんだけ俺とエッチしたいの? 天使さまと呼ばせてください。


「じゃあ、たとえば趣味は? ユーノゥって、いつもはなにして遊んでる?」


「えっと……読書をしたり、ゲームをやったり、アニメを観たり……でしょうか」


 異世界にもアニメってあるんだな。そしてユーノゥは案外オタクだとわかった。


「異世界のアニメやゲームって、どういう内容のものなんだ?」


「いろいろあります。冒険モノだったり、青春モノだったり、恋愛モノだったり……」


 俺の世界と似たようなものか。


「ゲームだと、コントローラーを持って身体を動かして、スポーツをするようなジャンルもありますけど……私は苦手です。私……運動音痴なんです」


 たわわなお胸を装備してたら、運動はしづらいだろうな……。


「でも、そういうゲームが嫌いというわけじゃありません。美容と健康のために適度な運動をしたほうがいいって、友だちにもよく言われているんです」


 その友だちのアドバイスのおかげで、ユーノゥは完璧なプロポーションを誇っているわけだな。ありがとう、顔も名前も知らないユーノゥの友だちよ。


「じゃあ、ユーノゥは運動するようなゲームで遊ぶのもOKなわけだな。デート先で、俺と一緒にプレイしてみようか?」


「は、はい。人間界のゲームはなにも知りませんので、ちょっと怖いですけど……アラタさんと一緒だから、それ以上にワクワクします」


 めでたくデート先は決まった。


 オタクの聖地であり、体験型ゲームも楽しめる、秋葉原だ。


 デート資金のほうは……まあ、まだなんとかなるだろう。





 俺たちは連れ立ってアパートを出て、駅に向かうことにした。


「アラタさん。私が人間界に馴染めるよう、服を貸してもらってありがとうございます」


 きわどい格好のまま外出するわけにはいかないので、ユーノゥには俺のパーカーを着てもらっている。


 サキュバスだけあって頭に小さな角が生えているので、フードでうまく隠すこともできる。


 ただ、水着の上からパーカーだけ羽織っているようなものなので、太ももはむき出しだ。これはこれでフェチ的なエロさがある。


「この服、アラタさんの匂いがします……なんだか安心します……えへ……」


 ……天使なことを言ってくれる。


 いや、もはや比喩でもなんでもない。ユーノゥは理想の彼女を超えた、天使そのものだ。


 そんな神の使いのごとき彼女に、人間でしかない俺に恋をしてもらうため、このデートを全力で楽しませる。この命に賭けても。


『マスター、その意気込みはあっぱれですが、恋愛成就に必要なのは戦略と戦術です。冷静さだけは失わないでください。よって賭けるのは命ではなくドーテー卒業にしましょう』


 萎える発言の数々のおかげで、俺はきっと冷静さを失わないだろう。間違っても感謝なんかしないけど。


「人間界の景色……見たことないものでいっぱいです。アラタさん、道に立っているこの柱はなんですか? ヒモで結ばれているようですけど……なんのためでしょう?」


 ユーノゥは電信柱に注目していた。


 俺が説明したあとも、ユーノゥは新たに目についたものを尋ねてくる。きょろきょろとせわしなく周囲を見回す姿が子猫のようで、少しパティアに重なった。


「……きゃっ!」


 前をよく確認していなかったユーノゥが、道路のどこかに足を引っかけた。


 つまずいて転びそうになったユーノゥを、俺はとっさに支えた。


「あ……アラタさん……」


 突然のことだったため、抱き留めるような形になった。


 ユーノゥの胸が、俺の胸と重なっている。


 密着した豊満なふくらみが、ふにゃっとつぶれる、魅惑の感触……。


「ア、アラタさん……? 私の背中に、腕を回して……抱き寄せて……?」


「…………」


「エッチなレッスン……するんですか……?」


 ああそうだ……。


 この天使のぬくもりを、求めたくてたまらないんだ……。


『マスター、過程過程』


 ああ……このまま天使に手を引かれ、昇天したって悔いはない……。


 いや……まだだ。この先の幸せを享受する前に昇天してしまったら、むしろ悔いが残るんじゃないだろうか?


 そうだ……俺は幸せに死ぬためにも、このままユーノゥを押し倒して……!


『社会的に死のうとするな、自らバッドエンドを追い求めるな、ハッピーエンドに至るための過程こそが大事だって何度言わせやがる、このクソザコナメクジマスターが(はぁと)』


 おまえの暴言、留まるところを知らないな?


「……ごめん、ユーノゥ」


 良くも悪くもナビゲーターのおかげで我に返った俺は、すぐさま離れた。


「い、いえ……アラタさんは、転びそうになった私を助けてくれたんですから」


 ユーノゥは露わになっている太ももをこすり合わせて、もじもじする。


 それから、スネたような上目遣いをした。


「アラタさん……あのまま、エッチなコトしたって……私は、よかったんですよ……?」


「……い、いや。まずはデートだろ?」


「あ、はい……。でもアラタさんのぬくもり……あったかくて、好きです……。そんなアラタさんと、抱き合うだけじゃなくて、エッチなコトもできたら……絶対、幸せになれるって思っちゃいました……。きっと幸せ過ぎて……私、天にも昇る気持ちになると思います……」


 さすがに恥ずかしい言葉だと思ったのか、ユーノゥは深くうつむいて俺から視線を外してしまった。


 それでも、フードで耳は隠れていても、熟れたリンゴのように赤々とした顔のすべては隠し切れていなかった。


 ……どうやら、こういうことらしい。


 体験型ゲームを楽しむのは、秋葉原ではなく、自宅こそがふさわしいのだと。


『間違ってもアパートにUターンしてユーノゥさんを押し倒すようなことはないと思いますが、万が一そうであれば今後マスターのことをソーローと呼びます』


 我慢できなかったらたしかにソーローですね。


「……ユーノゥ。気を取り直して、秋葉原に向かおうか」


「は、はい。アキハバラっていうのがどういうところなのか、まだよくわかりませんけど……それに私、どんくさいから……また転びそうになったら、ごめんなさい」


「だったらさ。転ばないよう、手をつないで歩こうか?」


「……アラタさん」


 ユーノゥは、恥ずかしそうにしながら俺と距離を縮めた。


「それなら、私……こうして、歩きたいです」


 俺に寄り添うと、意を決したように、腕を組んできた。


 その刹那のことだった。


 圧倒的なぬくもり──異次元のやわらかさが、俺を襲った。


 思えば、パティアとも腕を組んだことがある。


 その際は、パティアの胸が俺の肘に当たっていた。パティアが強く抱きつくと、そのぬくもりに肘が埋もれることもあった。


 だが、なんだこれは。そんな次元を超えている。


 とてつもないボリューム感を誇るユーノゥの胸は、ただ腕を組むだけで俺のすべてを包み込むかのようだった。


 これでもし、ユーノゥが強く抱きついてきたら、埋もれるどころか溶けるだろう。


「アラタさん……なんだか、身体が固いです。腕を組むの……ダメでしょうか?」


「ダ、ダメなんかじゃない。だけど、その……当たってるから……」


「当たってる……? なんのことでしょう?」


 ユーノゥは、本当になにもわかっていないような顔で、俺を見る。


 当たってるんじゃない、当ててるんだよと、過去にパティアは言っていた。


 だがユーノゥは、当たっていることすら無自覚で。


 無邪気で、無垢で、どこまでも純粋で……。


 そんなふうにウブで、幼い女の子に、俺はエッチなレッスンを頼まれているんだ。


 だったらもう、まっさらな彼女の心と身体を、俺色に染めてやるしか……!


『快楽を求めて死ぬな、恋愛を求めて生きろ、このソーローが(はぁと)』


 ……この羅針盤、やっぱスパルタに過ぎないかな?