モテない俺はマチアプで異世界彼女を召喚する
3章7話
電車に乗り、俺たちは秋葉原に到着した。
体験型ゲームと言ったら、代表的なのはリアル脱出ゲームとVRゲームになるだろう。
リアル脱出ゲームは、この世界にまだ慣れていないユーノゥには難しいと思い、VRゲームを選ぶことにした。
「この……ごーぐる? というものを着ければいいんですね」
俺たちはスタッフに案内され、VRルームでミッションをスタートさせた。
障害物をクリアしながらゴールを目指すという、VRゲームの中では初心者向けのものだ。
「きゃっ……!? 目の前が、細い道だけになっちゃいました……! こ、ここを歩かないといけないんですか……? 私、運動音痴ですし……すぐ落ちちゃいます……!」
「ユーノゥ、慌てなくていいよ。俺がそばについてるから」
このゲームは協力プレイだ。プレイヤー同士、手をつないで歩くこともできる。
足が道から外れてしまったら、落下する演出と共にゲームオーバーになってしまうが、落ち着いて進めばゴールできる仕様になっている。
「きゃあっ……!? か、風が吹いてます……!」
これも演出のひとつだ。VRのエフェクトだけではなく、物理的にも風を当てることで、プレイヤーを戸惑わせる意図がある。
「バ、バランスが……だ、ダメえっ……落っこちちゃいます……!」
「大丈夫。不安なら、俺につかまって」
「は、はい……!」
ユーノゥは俺の腕にしがみついた。
ぎゅうっと。とんでもなく強い力で。
……待って? このなにもかもを溶かすぬくもりのせいで、俺が先に落ちちゃうよ?
「え……? ア、アラタさん! 前方からなにか迫ってきます……!」
障害物のひとつである、移動式のブロックだ。
上から来たらしゃがみ、下から来たらジャンプしてかわす必要がある。
ジャンプの場合は、着地地点がちゃんと道の上でなければ、落っこちてゲームオーバーだ。
「ユーノゥ、しゃがんで!」
「は、はい……!」
上から来たブロックを、腕を組んだままふたりで鮮やかにかわした。
「こ、今度は下から来てます……!」
「ユーノゥ、ジャンプだ!」
「は、はい……!」
これもまた腕を組んだまま、跳躍で鮮やかにかわすことができた。
ユーノゥは自分を運動音痴と言っていたが、思ったよりも良い身のこなしだ。これならクリアも夢じゃない。
『ユーノゥさんがしゃがんだ瞬間、そしてジャンプした瞬間、胸がすこぶる揺れたのですが、VRの世界にいる今のマスターには確認できなかったことでしょう。残念でしたね』
そうか、それらの決定的瞬間をおまえなら録画できているはずだ。監視カメラをジャックしたりして。もししていなかったらスマホごとゴミ箱にポイしてやろう。
「アラタさん……!? 今度は上下同時にブロックが迫っています! しゃがむだけでもジャンプだけでもぶつかってしまいそうです! この場合はどうすれば……!?」
「抜け道は真ん中だ、ちょいジャンプをすればクリアできるはずだ」
「ちょ、ちょいジャンプ? それって……?」
ユーノゥはアクションゲームに疎いのか、それとも俺の説明が悪いのか、どちらにしろ詳しく教えている時間はない。
「ユーノゥ、ごめん!」
「えっ……きゃあっ!?」
俺はユーノゥを抱え上げ、お姫様抱っこの体勢のまま少しだけジャンプし、この障害をクリアした。
……ぐあ、かなり足腰に来た。
『ユーノゥさんを見習って、マスターも日ごろから運動をするべきですね。美容と健康のためというよりも、こういった体力勝負のデートのために』
……ぐうの音も出ねえよ。
「ア、アラタさん……。私のために……ありがとうございます。大好きです……えへ……」
ユーノゥは難関の障害物を回避したあとも俺から離れず、それどころか俺の胸に顔をうずめる勢いで抱きついていた。
その間にも、新たな障害物が迫り来る。
『マスター、このまま抱き合いながらふたりで一緒にゲームオーバーになったとしても、ユーノゥさんの好感度は上がっていることでしょう』
まあ目的はクリアじゃなくて、楽しく遊ぶことだからな。
「っ! アラタさん、また障害物が迫ってます! さっきはアラタさんに助けられました……だったら次は、私の番です!」
ユーノゥは俺を助けるための行動を取った。
「アラタさんは、私が守ります!」
さすがに俺をお姫様抱っこしてジャンプすることはなく、かばうようにして俺の身体を必死に抱きしめた。
……溶ける。溶けちゃう。
だが、障害物である移動式ブロックと接触した時点で、ゲームは終わりを告げる。
ゴーグルが見せる俺たちの視界に、その文字が浮かび上がった。
「あ……ゲームオーバー……?」
ユーノゥの呆然とした声。
俺たちはスタッフに促され、ゴーグルを外し、仮想から現実の世界に戻ることになった。
「アラタさん……ごめんなさい。私のせいで、クリアできませんでした……」
「ユーノゥ、逆だよ」
「逆……?」
「ゲームをプレイする一番の目的は、楽しむことだから。ユーノゥのおかげで、俺はすごく楽しかった。一緒に遊べてよかったって思った。ユーノゥは、どうだった?」
「私も、すっごく楽しかったです!」
「じゃあ、俺たちはちゃんとミッションクリアしたわけだ」
「はいっ……アラタさんのおかげです! 私を抱っこしてジャンプしたの、すっごくカッコよかったです……!」
ユーノゥは感極まったように、俺の胸に再び飛び込んできた。
……俺の身体、もうどこか溶けてない?
スタッフからは、はいはいごちそうさまです、といった白い目を向けられていた。



