モテない俺はマチアプで異世界彼女を召喚する
4章3話
『お金がありません。すでにデートの資金が尽きていると告げたのです』
……ウソだろう!?
「い、いや、手持ちがなくても銀行から下ろせば……」
『マスターの銀行口座を確認し、計算したところ、これ以上デートのためにお金を引き出すと来月の家賃が払えなくなります』
「…………」
『光熱費を極力節約しながら、食事をもやしだけにするなら少しはデート代を捻出できますが、現実的ではありません。言うまでもありませんが、私のナビのためのスマホ代は最優先の必要経費として計算しています』
「この際スマホじゃなくて格安のガラケーに変えるか……」
『乱心しないでください! 私の死はマスターの死と同義なのです! 私たちは一蓮托生、同じ盃を交わした仲ではないですか!』
19歳の俺はまだ酒を飲めないんだが。
『マスター、早合点しないでください。私はデートを諦めろと言っているわけではありません。デートの満足度はお金によらないのですから。大切なのは、そう』
『「お・も・て・な・し」』
ハモった。
『ですので、マスターはおもてなしという名の真心をもってしてユーノゥさんを喜ばせ、恋心に気づかせてください』
難易度がさらに跳ね上がったじゃないか……。
金がかからないデート先で思いつくのは、たとえばウィンドウショッピング、公園や遊歩道の散歩、あとは部屋でゲームといったところだろうか。
ただ、今日のところはそれでしのげても、今後を考えればデート代は必須だ。
だがバイトをするにしろ、ユーノゥがこの部屋に長居する場合、俺がバイトをしている間はユーノゥをひとりにしてしまう。
俺はいったいどうすれば……!
『ここで大学の受講が出てこないあたり、マスターは彼女ファーストを貫いていますね。さすがは私が敬愛するマスターです』
「……俺がニートになったらおまえを恨むからな」
『私の支援があればバッドエンドなど簡単に回避できます。よってそのような結末を迎えたら私ではなくマスターのせいです』
一蓮托生って言ってたおまえはどこいった?
「……アラタさん?」
着替えを済ませたユーノゥが戻ってきた。昨日と同様、きわどい服の上からパーカーを着ている格好だ。
「声が聞こえていましたけど……さっきまで誰かと会話してたんですか?」
「あ、ああ。ちょっと友だちと電話しててさ」
とっさに誤魔化す。
「……その友だちって、異性ですか?」
「え? いや……違うよ」
ナビゲーターは、声は女だけど性別の概念はないはずだ。
「そうですか」
ユーノゥはホッとしていた。
……会話の相手が異性かどうかなんて、なんで気にするんだ?
やっぱりヤキモチを焼いてくれてるのか?
だったらむしろ嬉しい。俺に気がある証拠なのだから。
俺のことを好きと言ってくれるユーノゥのその気持ちが、恋である可能性が高まったってことなのだから……。
この流れで、ふと思い出した。
「なあ、俺も聞いていいか? ユーノゥの友だちって、同性なのか?」
たったひとりの友だちで、ユーノゥとはとても仲がよさそうに感じていた。
……もし異性だったら、今度は俺が嫉妬してしまいそうだ。
「あ、はい。同性ですよ」
その言葉で、俺もホッとした。
「アラタさん、これからデートするんですよね? そういえば、友だちもよく私を誘っていました。デートしようって」
……え?
「同性で遊びに出かけるのは、デートにならないと思うんですけど……たぶん、友だちなりの冗談なんだと思います」
ちょっと待て。
たしかその友だちって、好きでもなんでもない異性とエッチするなんてまっぴらごめんだと言ってるんだよな?
じゃあそれって、そもそも異性を恋愛対象として見ていないってことで……。
(まさか……百合?)
その友だちの好きな相手は、異性じゃなくて、同性?
ユーノゥに恋をしてるのか……?
なのにその友だちは、ユーノゥにマッチングを勧めていた……。
きっと、自分の恋心を押し隠して……すべては愛する者のために……。
ユーノゥが幸せになってくれるなら、それもまた自分の幸せだから……。
これってまさしく、ナビゲーターが言っていた、本物の恋愛ってやつじゃないか……。
『マスター。ここで情に流され、ユーノゥさんと恋仲になることを諦めませんようご注意を。私はこうも言ったはず。恋愛は情でも、恋愛成就はあくまで無情なのだと。どうせならその友だちを恋愛成就のための道具として利用してやりましょう』
そんなおまえを一度でもピュアだと思った過去の自分を、ぶん殴ってやりたいよ。
『そもそもいま考えるべきは、ユーノゥさんをおもてなしするためのデートの方法です』
……そうだな。でも、金がかからないおもてなしにも限度があるんだよ。
バイトをしたらユーノゥを寂しがらせることになるし……どうすりゃいいんだ。
『ならば答えはひとつではありませんか。ユーノゥさんと一緒にバイトをすれば良いのです』
え……?
『もちろん苦行を共にするのではなく、デートのように楽しくお金を稼ぐのです』
そんなことが可能なのか……?
「アラタさん……ずっと考え込んでますけど。どうかしましたか?」
「あ……えっと……」
言いよどむ。
ユーノゥとデートするための金がないから、一緒にバイトしてくれないか? この情けない言葉を告げるかどうか思い悩む。
彼女を作れるなら、俺はプライドなんて喜んで捨て去るけれど。
逆に、プライドを捨てることで彼女に幻滅されるのなら、そんな選択肢は選ばない。
思えば、エロゲーコレクションを隠していたのも、そのせいだったな……。
『マスター。解答はやはりひとつしかありません。共にバイトすることが、ユーノゥさんを喜ばせることにつながれば良いのです』
その具体的な方法がわからないから悩んでるんだが?
『悩んでいるからこそ頼るべきなのです。エッチな子になりたいと悩むユーノゥさんが、マスターに頼っているように。ユーノゥさんに頼られて、マスターは嬉しかったでしょう?』
それは間違いない。
エッチなおねだりだからってわけじゃなくて。いや、それもあるんだが、頼られるということそのものだって、たしかに嬉しかったんだ。
『であれば、マスターもまたユーノゥさんに頼りましょう』
そしてナビゲーターは言ったのだ。
『恋愛とは、片方に寄りかかるのではなく、肩を並べながら歩むことを言うのですから』
「…………」
『支え合い、助け合って、絆を深めることが重要なのです。具体的なバイトの内容なら私がお教えできますし、今はまずユーノゥさんにデート資金がないことを正直に話して、相談に乗ってもらいましょう』
……ナビゲーター。らしくなく、優しいじゃないか。
『その後、鮮やかに最適解を示す私を、マスターはますます尊敬することでしょう』
そのよけいな一言さえなければなあ……。



