モテない俺はマチアプで異世界彼女を召喚する
4章7話
献身的なユーノゥのおかげで、撮影会を無事終えた。
次に行うのは動画編集だ。
動画投稿サイトにアップするため、ユーノゥの顔が映らないよう加工したり、プライベートな会話はカットしたりと、形を整えなければならない。
やり方は大学で習っている。編集技術はゲーム制作にも必要だからだ。
「ユーノゥ。俺が作業してる間、ゲームでもしてていいよ」
「いえ。アラタさんがこれからやること、見ていたいです」
「……おもしろいもんじゃないぞ?」
「そんなことないです。なにをしているのか理解はできないと思いますけど、アラタさんのおそばにいられるだけで私は嬉しいんですから」
……そんなふうに言われたら断れない。
俺は、立ち上げたノートパソコンでさっそく編集作業に入る。
ユーノゥは後ろから画面をのぞき見る。
俺にそっと寄りかかりながら。
……背中に広がる、ふくらみのやわらかさがとんでもない。
『動画におけるクオリティは、編集で決まります。いくら素材が良くても編集が悪ければ駄作になります。マスター、ユーノゥさんの胸にばかり気を取られませんよう』
……心の中で読経を唱えながら作業に集中しよう。
「わあ……画面の中に、私がいます。私の国にも撮影の技術はありますけど、こんなに綺麗に撮ることはできません!」
興奮しているのか、ぐいぐいと胸を押し付けてくる。
読経読経!
「あ……着替えたあとの私って……こんな恥ずかしい格好だったんですね……。着るだけじゃわかりませんでした……」
羞恥の震えが、ユーノゥの胸から俺の背中に伝わってくる。
「でも……私、笑ってます。いっぱい笑ってます……。アラタさんに見て欲しいって……私のことだけ見て欲しいって……ずっと思ってたから……」
撮影会の間、俺はたしかにユーノゥだけを見ていた。
俺の目は──俺の心は、ユーノゥに奪われていたんだ。
ふと、思った。
俺は、ユーノゥに恋をして欲しいと考えているけれど。
俺自身は、恋をしているのか?
マーリィやパティアよりも、ユーノゥに恋をしたいと、ちゃんと思っているのか……?
「アラタさん……? 急に手が止まりましたけど……」
「……あ、いや。それよりユーノゥ、まだ俺の作業を見てるのか?」
「はい。だって、アラタさんの目から私がどう映っているのか……気になるんです。アラタさんの作業を見れば、それがわかると思うんです」
『マスターがユーノゥさんの胸を中心に撮っていたことがバレてしまいますね。ユーノゥさんならそれすら喜びそうですが』
……俺はユーノゥの胸に恋したいわけじゃないからな?
というか、ユーノゥの顔──その笑顔が動画に映らないようこれから編集することで、喜ばせるどころか悲しませるかもしれない。
だから俺は、身バレ防止のためにそうするしかないことを、今のうちに伝えた。
この一言を添えて。
「俺以外の誰かに、ユーノゥの笑顔は見せたくない。俺だけのものにしたいんだ」
「アラタさん……う、嬉しいです……」
ユーノゥは、誰にも渡さないとばかりに、俺の背中を思いっきり抱きしめた。
胸の感触が……以下略。
「私を、アラタさんのものにして欲しい……。アラタさんだけのものになりたいです……。これって、恋ですか……? 私……アラタさんに、恋をしていますか……?」
……そうかもしれない。
ユーノゥの中で、もう答えは出ているのかもしれない。
じゃあ、俺の中では?
ユーノゥが恋心に気づくだけじゃなくて。
俺自身が恋心に気づくことだって、必要だったんじゃないか?
ただ、恋人が欲しいという気持ちだけを抱くんじゃなくて……。
「アラタさん……? 私のこの気持ちは……恋なんですか……?」
「……ユーノゥ。それを判断するのは、俺じゃなくてキミ自身だ」
「や、やっぱり、イジワル……」
「ごめん……だけど、おかげで俺も気づけた。キミに教えられたようなものだ。俺自身もまた、キミに恋してるかどうかを自分で判断しないといけないんだって」
「え……? それって……?」
「あとでちゃんと伝える。動画をアップしたあとに、必ず」
だから、今は。
俺たちの未来のため、最高の動画を作ることだけに専念する。
※
編集作業を終えた。
あとはこの完成動画をアップするだけだ。
アップロード先は、有名動画投稿サイトである『ヌコヌコ動画』だ。
俺は自分のチャンネルを持っている。だがこれまでは、観る専だった。動画を投稿するのはこれが初めてだ。
……緊張する。批判ばかりのコメントがついたらどうしようと、尻込みする。
だけど、変わらず感じているユーノゥのぬくもりがあるから、俺は勇気を出して投稿することができた。
初めての投稿がユーノゥの動画で、本当によかった。
心から、そう思う。
「ユーノゥ。作業は全部、終わったよ」
「お疲れさまでした、アラタさん」
ユーノゥは労わるように、俺の背中をぎゅっとする。これ以上の癒しはなかった。
「なあ、ユーノゥ」
俺は振り返った。
すぐ後ろにいたユーノゥだから、俺たちは至近距離で目と目を合わせることになった。
「アラタ……さん」
ユーノゥは、視線を外さない。目と目を合わせて会話するのが苦手だと言っていたユーノゥは、もうどこにもいない。
「俺……言ったよな。俺自身もまた、キミに恋してるかどうかを判断しないといけないって」
「……はい。その意味を、教えてくれるんですか?」
ああそうだ。
俺は今から、ユーノゥに告白するつもりでいる。
俺がキミに恋をしていることを、ちゃんと伝えるつもりでいる。
それがきっと、ユーノゥが恋に気づくための、最低条件。
考えてみれば当たり前のことだった。
相手に恋をして欲しいなら、自分が先に恋をするのが、自然な流れだったんだ。
「ユーノゥ……大切な話だ。聞いてくれるか?」
「……はい。大切なお話、聞かせてください」
「俺……ユーノゥのことが……」
俺は告げるべきなんだ。
好きだ、彼女になってくれと、俺から告白するべきなんだ────



