モテない俺はマチアプで異世界彼女を召喚する

4章10話

「あ……ゲートが現れた……?」


 目の前に出現したそれを見たユーノゥは、呆然とする。


「私……強制送還になるんですか……?」


「ユーノゥ……」


 俺が声をかける前に、ナビゲーターが横やりを入れた。


『マスター、情など不要です。恋愛成就において無情が必要というのは、後腐れなく別れることも意味します。子どもだからといって容赦することはありません、この薄汚いインランロリ巨乳を掃除機で吸い込んでやりましょう。マスターもせいせいすることでしょう』


(もし本気でやったらおまえをスマホごと廃棄処分する)


『マスター、お気を確かに! それはパティアさんと別れる際にもやった天丼です!』


 つまり答えも同じってことだよ。だから、安心してくれよ。


 俺は結局、パティアと別れたんだからな……。


「……ユーノゥ。キミが思っている通り……俺たちは、これでお別れだ」


「わ、私は……お別れしたいだなんて、思ってません!」


 ユーノゥは悲痛な声で叫んだ。


「私はアラタさんと一緒にいたい……恋なんてよくわからないけど……だけどこの気持ちは、私の本心なんです……!」


 ……なあ、ユーノゥ。


 その気持ちは、もしかしたら恋かもしれない。


 だけど、妹やマーリィやパティアを捨てることでしか育めないような恋では、俺はきっと不幸になる。


 ずっと彼女が欲しかった。そのために恋愛をしたかった。だけど、家族や友だちを捨てるくらいなら彼女なんていらない。


 だって。


 恋愛って、なにかを犠牲にするものじゃないはずだから。


 恋愛って、幸せになるためにするものだと思うから。


 ナビゲーターだって、こう言っていたんだ。


 好きな人が幸せなら、それだけで自分も幸せになれる──利己的ではなく利他的な感情こそが、恋愛というものの本質だって。


 なぜなら、自分が幸せになるためだけに恋をするのだとしたら、好きな人が不幸でも恋愛が成り立つことになってしまうからだって。


 思えば、恋愛ゲーム──純愛系の美少女ゲームだって、そうだった。


 ヒロインと結ばれて迎えるのは、いつだってハッピーエンドだった。


 主人公やヒロインだけじゃなく、周囲のキャラクターだって、祝福してくれていたんだ。


「アラタさん……お願いです。私を、おそばに置いてください……」


 ユーノゥは感極まったように、俺の腕を取り。


 そのまま、俺の手を自分の胸にあてがった。


 服越しではなく。


 服の中に、すべり込ませて。


 俺の手のひらが、豊満なふくらみに、じかに触れることになる。


 これまで何度か感じていた、服越しの触れ合いとは、まるで違う。


 乳房の感触だけじゃない。


 乳首の感触すら、感じてしまう……。


「ちょっ……ユーノゥ!」


 俺は慌てて腕を引っ込めようとする。


 だがユーノゥは許さなかった。


「私だけを、見て……。私も……アラタさんだけを、見ますから……」


 ……なあ、ユーノゥ。


 聞き飽きているかもしれないけど……聞かせてくれ。


「それは……その気持ちは……俺に恋をしているからなのか?」


「わかりません……結局、私はわかりませんでした……。私はアラタさんのことが好きで……大好きで……だから、アラタさんとエッチがしたい……それしかわかりませんでした……」


 それがユーノゥの本心。


 無理に誤魔化して、俺に恋をしていると言わなくて……ありがとう。


「もしこの気持ちが、恋じゃないのだとしたら……私は一生、恋ができないかもしれません……。アラタさん以上に好きな相手なんて……想像もつかないんですから……」


 ユーノゥはまだ子どもだ。これからいくらだって出会いはある。


 自覚がないだけで、俺以外の誰かを好きになることだって、普通にあるはずなんだ。


「……ユーノゥ。まずは、身近な誰かに目を向けてみよう。たとえば、ユーノゥの友だちとかな。もしかしたら、新しい恋が生まれるかもしれない」


「友だち……? でも彼女は、異性じゃなくて同性ですよ……?」


「俺との体験を話してみればいい。ユーノゥ、キミはきっと知るんじゃないかな……独占欲とは違う、本物の恋ってやつを」


「本物の恋……?」


「俺は、キミだけのものにはならない。キミも、俺だけのものにはできない。キミの友だちなら……この意味を教えてくれるよ」


「わ、わかりません……アラタさんが言いたいこと、ぜんぜんわかりません……!」


「わかった時に、キミは子どもから大人に成長するんじゃないかな」


「っ……」


「……偉そうなことばかり言って、ごめんな」


 ユーノゥは俺の胸に飛び込んで泣いた。すがりついて涙を流した。


 だけど俺は、抱き返すことはしなかった。


『ユーノゥさんの友だちをこのような形で利用するとは、マスターも考えましたね。とはいえ……恋敵に塩を送ったようなものです』


 ……そうかもしれないな。


「アラタさん……。私がわかるとしたら、今のこの気持ちだけです。悲しみも……怒りの一種なんだって。だから私は……別れを告げるアラタさんに、怒っているんだと思います……」


「……ユーノゥ。これはたしかに別れだけど、一時の別れかもしれない。いつかまた再会できるかもしれない。その時に待っているのは、怒りや悲しみじゃなくて、喜びだったらいいなって……俺は願ってるよ」


「じゃあ、アラタさん……再会した暁には、私とエッチしてくれますか……?」


「……ごめん、それはわからない。だけど、キミが大人に成長して……恋というものを理解してさえ、それを望むなら……俺はもう絶対に、逃げたりしない」


 その時までに、俺もまた、誰に恋をしているのかを決断しよう。


「はい……それで充分です。アラタさん……約束ですよ」


「ああ……約束だ」


 そうしてユーノゥは俺から離れ、自らゲートに向かっていった。


「私はまた、アラタさんに会いに来ます……。絶対に会いに来ます……。だって私は……アラタさん。あなたに恋をしたいんですから」


 ……ありがとう。そう言ってくれるのは、光栄なことだと思う。


 俺もちゃんと、自分の恋に向き合うよ。


「再会した暁には……心も身体も、もっと成長した私をお見せしたいと思います」


 ……心はまだしも、身体がもっと成長したら、ただでさえたわわなお胸はどうなってしまうんだろうな。


 ユーノゥは、ゲートの向こうに消えていった。


 その後ろ姿は、寂しそうで……だけど、嬉しそうでもあった。


 きっと別れの寂寥感と、再会の期待感を表しているんだと、そう思った。


(……ユーノゥはこれから、友だちに会いにいくんだろうな)


 慰めてもらうのか、それとも応援してもらうのか。どちらにしろ、ふたりの友情はより強固なものになるだろう。


 もしかすれば、恋愛に発展するくらいに……。


『ユーノゥさんの友だちを利用したつもりが、これでは逆に利用されてしまいそうです。マスターは、実は寝取られも好きなのですか? 私、覚えました』


 俺はこの無粋な声を遮断するため、ワイヤレスイヤホンを外した。


『スマホのスピーカーでも話せますが?』


 俺はスマホの音量をミュートにした。


『ミュートの設定くらい簡単に解除できますが?』


 俺はスマホの電源を落とした。


『再起動も容易くやってのけますが?』


 俺は窓を開け、スマホをベランダに放置し、窓を閉めた。


『調子に乗り過ぎました。大変申し訳ございませんでした。物理的に距離を置かれるとさすがになにもできません。マスター、後生ですからスマホをただちに回収してください』


 ナビゲーターがなにか言っているようだったが、そのまま置き去りにして、俺は大学の講義に向かうことにした。