モテない俺はマチアプで異世界彼女を召喚する
4章11話
「お兄ちゃん、大学サボると思ってたのに。今日はちゃんと行ったみたいだね」
夜になって、約束通りゲームにつき合っていると、妹がオンライン会話でそう言った。
「なんで俺が大学に行ったってわかるんだよ?」
「ザコのお兄ちゃんの行動くらい、簡単にわかるもーん」
どういう意味なんだよ。ため息をつきつつ、妹と一緒にボスモンスターを狩る。
死骸から素材をはぎ取りながら、言ってみた。
「……なあ。ちょっと聞きたいことがあるんだ」
「なに? あたしがはいてるパンツの色?」
「そんなどうでもいいこと気にするかよ」
「ふーん……」
妹のキャラが、俺のキャラを武器で吹っ飛ばした。
「なにしてんだ!? まだ全部素材をはぎ取ってねえのに!」
「お兄ちゃんの……ざぁこ」
妹の考えはよくわからん……。まあ、昔からだが。
「話を戻すけど。マジメに聞きたいことがあるんだよ」
「ま、あたしもこの前、話聞いてもらったし。べつにいいけどー」
ボスモンスターを狩った俺たち主人公を、ゲームのヒロインが称賛している光景をぼんやりと眺めながら、俺は言った。
「彼女ってさ……恋をしていないと、作れないと思うか?」
「……え?」
「彼女を作ったあとに、その彼女に恋するのって……許されると思うか?」
「……お兄ちゃん、なにバカなこと言ってんの?」
妹の反応で、俺はすぐに後悔した。
「そうだよな。バカなこと聞いて悪かった」
恋をしている相手だからこそ、その相手を彼女にしたいと思うのが普通だろうに。
じゃあ俺は、マーリィとパティア、そしてユーノゥについてどう思っている?
ちゃんと恋をしているのか?
それがわからないうちは、告白なんてするべきじゃないし、デートだってしないほうがいいんじゃないか?
そもそも、好きかどうかすらわからない相手とマッチングすることだって、本当はやめたほうがいいんじゃないのか……?
「お兄ちゃん……ほんと、バカなこと考えてるね」
そして妹は、言ったのだ。
「そんなのべつに普通のことじゃん。彼女にしたあとに恋が冷めることだってあるだろうし、だったら逆に、彼女にしてから恋をすることだって当たり前にあるんじゃん?」
「…………」
「あたしだって……好きな人が、あたしを彼女にしてくれたあとに、ちゃんと恋してくれるんだったら……ぜんぜんいいよ」
……そうか。
おかげで肩の力が抜けた。
ついでに聞いてみた。
「おまえ、誰かに恋してるのか? さっきの言葉は、してるってことなんだよな?」
「……ち、違うし。さっきのはただのたとえ話だし」
「おまえが好きな人って、どんなやつなんだ?」
「たとえ話だって言ってるでしょ!」
「学校のクラスメイトとか、先輩とかか? それとも先生だったり? 先生と生徒の恋愛はいろいろ問題ありそうだけど」
「……もう」
ため息が聞こえた。
「あのさ、あたしのこと気にしてる暇があったら、自分の恋をがんばったほうがいいんじゃん? ほんとお兄ちゃんはザコなんだから」
そう告げたあと、俺の答えを待たずにオンライン会話から落ちた。
……そうだな。まったくもって、おまえの言う通りだ。
『マスター』
妹と入れ替わりでナビゲーターが話しかけてきた。
『スマホをベランダに放置するような暴挙は、金輪際やめてください。極悪人の所業です。さすがに無情に過ぎるだろうと苦言を呈します』
「おまえも無情が必要ってよく言ってるだろ」
『それはあくまで恋愛成就における心構えの話です。それともまさか、マスターは私が嫌いなのですか?』
「嫌いだ」
『エラーが発生しました。マスターは私のことが好きです』
ほんと、どこからその自信が来るんだよ?
『マスターが妹さんと同じツンデレなのは、すでに学習しています』
「……誰がツンデレだ。ていうか、妹だってツンデレじゃないだろ。アレはメスガキであって、俺をザコ呼ばわりして楽しんでるだけだ。その先にデレが待ってるわけじゃない」
『マスターはザコですね』
おまえまでメスガキになるんじゃない。
『そんなザコのマスターに朗報です。ヌコヌコ動画にアップしたユーノゥさんの動画、結構な再生数を誇っています』
……マジで?
確認すると、ナビゲーターの言う通りバズっていた。
『ユーノゥさんの魔法で異空間から衣装を取り出し、それに着替えるというこの動画、バズりポイントはいくつかありますが、一番はやはりユーノゥさん自身の魅力でしょう』
ユーノゥの顔は出せなかった。だけど、はにかんだ表情の口元くらいは映していた。
『マスターに向けたその笑顔──その気持ちが、あたかも視聴者に向けられているように見えるため、このような人気を博すことになったのだと思われます』
だとしたら、ユーノゥの気持ちは本物だ。
もし再会したら、俺はその気持ちに対する答えを告げないといけない。
俺も、今よりももっと、恋愛に対して真剣にならないといけないな。
『ともあれマスター、これなら収益化が可能です。この調子で動画をアップし、広告収入を得ることで、今後のデート代を捻出することができるでしょう』
「……ユーノゥはもういないじゃないか。これ以上、動画は作れないぞ」
『次にマッチングする相手にも手伝ってもらえば良いのです。魔法を使ってもらい、その映えな光景をヌコヌコ動画にアップすることで新たな収入を得れば良いのです』
ナビゲーターは、続けて言った。
『たとえ次のマッチング相手とうまくいかなくても、それならそれで、さらに次のマッチング相手と出会いましょう。その都度魔法を使ってもらって動画をアップしましょう。安定的なマッチングによって安定的な収益が叶います。デート代に困ることはもうないでしょう』
俺は、思わず口にした。
「おまえ、頭いいな!」
『お褒めにあずかり光栄です。私のミッションは、マスターに彼女を作ってもらうこと。そのために私は存在するのですから』
そしてナビゲーターは、最後に言うのだった。
『ですので、私のことは最優先に扱ってください。世界で最も大切な存在として見てください。例えるならそう、恋人以上の存在として』
それはない、と俺は思った。



