竜胆の乙女 わたしの中で永久に光る
一 ⑤
しかしすっかり怯えた竜胆の指先では、震えに震えてろくな音色にならなかった。音の響きもひどい
──あら何かしら、無様な音色ね。竜胆のお嬢さんは随分とお琴が下手なのね。
──たまにはこんな音楽でもいいじゃありませんか。さあ、お前、ちゃんとお逃げ。そしてお前も、ちゃんとつかまえて御覧なさいよ。
おかとときは八十椿と藤潜の二人を座敷の隅に追いやった。二人の追いかけっこを楽しもうという算段である。これは先代の竜胆の考案した遊びであった。
八十椿の腹からは詰め込まれた花がぱらぱらと引っ切り無しに
──さあ十番勝負よ。一曲終わるまでが一勝負、つかまえるか、逃げ切るか。負けた方はその度に指がなくなるわ。指の多く残った方が勝ちよ。
──あたしやっぱりこのお花の遊びが一等好きだわ。だって美しいんですもの。
おかとときの連なる闇が歓喜で揺れている。おかとときの歓喜は大広間全体に広がり、三人の玩具の悲鳴を
そうしているうちに闇の色をした空の裾が少し明るくなった。朝が来るのである。
「お客様、お愉しみのところたいへん申し訳ございませんが、お時間が来ておりますので、今宵はこれにてお開きに」
檜葉が
──そうか、朝が来てしまうか。ならば仕方ない、今日はこれで戻ろうか。
──今日もなかなか愉しかったよ。また来る。
「すみませんが
──わかっているとも。
三十人近くいた闇の群れは毛糸がほつれては絡まり合うような動きを繰り返すと次第に消えてしまった。畳の上に残るのは
「今日は腕車なしで帰ったか。いちいち送らないでいいから楽でいいや」
「用意しておいた焼け火箸は結局使わなかったなあ。まああれで満足してもらえたなら何よりだ」
白樺と立山がそう言いながら畳の上を
「お客様はお帰りになりました。竜胆、お勤めお疲れ様でした。もう楽にしてもいいですよ」
そう言われても竜胆は息をするので精いっぱい、初めて見た恐ろしい光景に声も出ない様子である。それでも理性は働くと見え、三人の商物の方を見て口を開いた。
「あの方たちは無事なの。早く傷の手当てをしなくては」
「その必要はありません。おかとときのつけた傷は宴が終われば全て消えます。そういう約束になっているのです。ただし消えるのは傷だけです。痛みは残るようですよ」
「ああ、なんてこと」
竜胆は慌てて三人に駆け寄った。三人は呻き、泣き、
「何かこの人たちの痛みを和らげるものはないの。お父様は普段は一体どうしていらっしゃったの」
「別に何も」
檜葉が肩を
「だって放っておけば治りますから。先代は何もしていらっしゃいませんでしたよ」
白樺と立山が顔を見合わせて笑い始めたが、竜胆は必死に三人に話し掛けた。
「何か欲しいものがあったらおっしゃって。もしここに無いものならば明日買いに行くわ。今日は本当にご苦労様でした。何と声を掛けていいかわからないわ。本当に
「竜胆、あまり情けをお掛けにならない方がいいですよ。今日のようなことがこれからずっと続いていくんですから。商物にいちいち情けと金を掛けていたらこの先持ちませんよ」
檜葉がそう言っても竜胆は耳を貸さず、横たわる哀れな三人の男に声を掛け続けていた。
その隣では白樺と立山がかき集めた金を数えている。洋灯の光の下では彼等の黒髪は不思議と金色に輝いていた。
「やあ、今日は随分とたくさん貰えたじゃないか。ひょっとして二代目竜胆就任のご祝儀かしら」
「羽振りのいいのは良いことだ。しかし日本のどこかで同じだけの金が消えたと思うと気の毒だな」
「構うもんか、盗んでくるのはおかとときだ。おれ達じゃない」
「それもそうか」
その後、三人の下男は暫く横になるといって
【五五分一二秒】



