俺の母さんは最強の魔法少女です
『俺の母さんは最強の魔法少女です』 ④
「翔ちゃん……またその話?」
俺の提案に対し、母さんは困ったように目線を逸らす。
そう、母さんの言う通り……こうした話し合いは、今までに何度も行っている。
「昔と違って今は魔法少女も増えているんだし。母さんが何もかも背負う必要はないだろ?」
「うん。でも、まだ若い子たちだと……怪人に勝てないこともあるし……」
これは事実だ。実際、母さんが到着するまでの間に無理をして……怪人の手によって命を失った魔法少女もいる。
それに加え、昨日の山梨魔法少女のように出動が間に合わなかったり、私用を優先して出動を拒否したりした結果……多くの犠牲者を出したケースも過去にはあった。
「私はこの力で沢山の人を守ることができる。だから、力ある者の責任として……戦い続けないといけないと思うわ。だから、毎日の修行も欠かしたらいけないの」
ああ、分かってるよ。母さんがいなくなったら日本はきっとおしまいだ。
でも、それでも俺は……母さんが無理をして、傷付いて、孤独に戦い続けることを、黙って見過ごすわけにはいかないんだ。
「はい、この話は終わり。翔ちゃん、そろそろ学校に行かないと遅刻しちゃうわよ?」
「……そうだね」
俺の説得程度で、母さんの強い意志が揺らぐことがないのは分かっている。
だけど、待っていて母さん。
俺が必ず、母さんを魔法少女の使命から解放してみせる。
「(俺がこの手で、母さんを超える魔法少女を作り出してみせる)」
固い決意を胸に秘めて、俺は席を立つ。
既に仕度を済ませていた学校のカバンを手に取り、そのまま玄関へと向かう。
するとその後ろを、母さんがトテトテと付いてくる。
「翔ちゃん、忘れ物よ」
「え? ちゃんと準備はしてあるはずだけど」
顔も洗い、歯も磨き、髪型もちゃんと整えてあるし……課題の類いも完璧に済ませて、教科書類と共に鞄の中に入れてある。財布、スマホ、ハンカチ、ティッシュ、家の鍵だって……
「もう、違うわよ。学校に行く前は、これでしょ?」
母さんは俺の前で両手を左右に大きく広げ、明るい笑顔を見せる。
「行ってきますのハグを忘れちゃ駄目よ♡」
「(あああああああああああああああああああああああああああああああっ!)」
したい。めっちゃ、ハグしたいっ!
ギューってされたいっ! 母さんの柔らかさと温もりを全身で感じたいっ!
「(いや、待て! 果たしてそれでいいのか?)」
高校生にもなって、母さんと行ってきますのハグだなんて……それは流石に。
「翔ちゃん……ママにぎゅって、してくれないの?」
上目遣いのように、小首を傾げて唇を尖らせる母さん。
いやいやいや、そんなものを見せられても、俺は……
「ぎゅぅぅぅぅぅぅぅぅっ! いくらでもしちゃうぞっ! いっぱいぎゅーっ!」
もはや理性ではなく、本能による行動。
俺は両手を広げる母さんの胸の中に飛び込み、ありったけの力で抱擁。
母親の愛情……母性をその一身に浴びる。
「えへへへっ、翔ちゃん……力、強くなったわね」
「母さんへの愛情だよ。それが俺の原動力なんだ」
「ふふっ、もう……恥ずかしいこと言わないで」
ゆっくりと、俺の背中に回していた両腕をほどいていく母さん。
「あ、あぁ……うぅぅぁ……」
なんて、なんてこの世は残酷なんだ。
これほどの幸福を味わわせた後に、それを奪うなんて……酷すぎる!
「じゃあ、いってらっしゃい♡ 気を付けてね♡」
「うん……行ってきます」
ニコニコ笑顔で手を振る母さんに別れを告げ、俺は玄関の扉を開く。
辛い。すごく辛いが……耐えなければならない。
俺は学校でやらなければならないことがある。
全ては母さんを、魔法少女の呪縛から解き放つために……



