俺の母さんは最強の魔法少女です

『魔法少女選抜プロジェクト、始動』 ①

 母さんに別れを告げ、玄関を出て学校へ向かおうとした矢先。

 ちょうど計ったように真隣の家の玄関も開かれ、中から一人の少女が出てくる。


「あっ、翔くん。今日もまた奇遇だねぇ」


 こちらの姿を見つけた途端、親しげに声を掛けてくる少女。

 俺と同じ高校の女子制服……紺のブレザーに、チェックのプリーツスカートを身に纏う彼女に対し、俺は冷ややかな視線を送る。


「奇遇? 待ち伏せていた、の間違いじゃないのか?」

「うぇっ? そ、そんなわけないじゃん! 翔くん、ちょっと自意識過剰じゃないの?」


 俺の指摘に対し、少女は分かりやすく顔を真っ赤にしながらあたふたと両手を振る。

 そんな彼女の名前は、ももはる

赤ん坊の頃からのご近所付き合いで、いわゆる幼馴染という存在だ。


「どれだけ時間がズレようと、毎日絶対に登校時間が被るのにか?」

「ぐ、偶然って怖いねー……! あははははっ!」


 ミディアムの桃色の髪を揺らし、春菜は俺の隣に並び立ってくる。彼女の身長は俺よりも頭二つ分くらい小さいので、傍目から見ると兄妹のように見えるかもしれない。


「ちょっと! 可愛い幼馴染と一緒に登校できるのに、なんで嬉しそうじゃないの?」

「……いや、そういうのはちょっと」

「はぁー? それ、どういう意味!?」


 春菜は頬を膨らませ、不満げに俺の前に回り込む。

 そして右手を腰、左手を頭の後ろに回し……セクシーポーズを決める。


「見てよ、この顔! この体! 翔くんくらいの男の子は、こういうのが好きでしょ?」


 ふふん、とドヤ顔でニヤついてくる春菜。

 実に認め難いことではあるが、たしかにこの女の容姿はとても整っている。

 これほどの自信を持つのも当然だと言える。


「ね? 私、可愛いでしょ? 今ならこれ全部、翔くんのモノになっちゃいます!」


 しかし、これはいささか調子に乗りすぎている。

 俺は溜め息を一つ漏らしつつ、春菜の目をじぃっと見つめながら口を開く。


「ああ、お前はすごく可愛いよ」

「ほぇぁっ?」

「まず、その髪。昔はよく跳ねる癖っ毛だったのに、頑張って矯正してるんだろ? 枝毛一つ見たことないし、お前が容姿に気を配っているのはよく分かるよ」

「あ、え? おぉん?」

「身長が低くて幼く見える部分もあるけど、お前の顔立ちはテレビに出てくる女優や人気アイドルにも劣らないくらいに可愛い」

「ちょっ、待って……! やだ、顔が赤くなっちゃう……」

「昔から男子にもモテモテで、百回以上は告白されてきただろ? それなのに、誰かと付き合ったこともなければ、浮いた話の一つもない。俺にはそれが信じられない」


 駅を目指して横並びに歩きながら、俺は次々と春菜を褒めちぎっていく。

 もはや彼女の顔は茹でダコ状態で、今にも爆発寸前といった感じである。


「だ、だってさ……! それは、翔くんが……その」


 もごもごとどもりながら、俺を潤んだ瞳で見上げてくる春菜。

 俺はそんな彼女の頭に右手を乗せると……微笑みながら、自分の素直な気持ちを伝える。


「でもまぁ、所詮はおこちゃまレベル。俺の母さんには遠く及ばないがな」

「えへへっ、私も翔くんがだぁいす……きぇえええええっ!?」


 ポンポンと頭を叩きながら、煽るように鼻で笑ってやると……春菜は良い声で鳴く。


「このぉっ! やりやがったねぇ、翔くん! まるでホストみたいなやり口でさぁ!」

「人聞きの悪いことを言うな。俺はただ、事実を述べているだけだ」

「ぐぬぬぬぬぅ……! 翔くんは、いづみさんのせいで理想が高くなってるんだよ!」

「その通りだ。実際、母さんほど素晴らしい女性は世界に二人といないだろ?」


 性格、容姿、体型、声、匂い……どれをとっても、母さんは最強すぎる。


「母さんに比べたら、大抵の女はチンチクリンだからな」

「チ、チンチクリン……?」


 ショックを受けた様子で、自分の胸を両手で触る春菜。同年代に比べて常にトップを取り続けた自分の武器が通じないことに、動揺しているのだろう。


「たしかにいづみさんは女の私でも変な気分になっちゃうくらい、魅力的だけども! 顔も、体も、声も! 私が理想とする高みにいるんだけどもぉっ!」

「朝っぱらから、大声で変なことを言うなよ」

「駄目だよ、翔くん! 実の母親に淫らな欲望を向けちゃ!」

「勘違いするな。俺の母さんに対する想いは、そんな不純なものじゃない」


 この感情はいわば、優れた芸術品に向ける感動と尊敬の念に近い。

 漫画やラノベじゃあるまいし、実の母に劣情を抱くことなどありえないだろう。


「……そうだよね。翔くん、いづみさんのアレを、誰よりも真剣に応援しているんだもん」

「ああ。その通りだ」


 余談ではあるが、この春菜もまた、母さんの秘密を知る数少ない人物の一人である。

 しかしその秘密を他者に話すこともなく、過去には多忙な母さんに代わって俺の家で家事をしてくれたこともある……まぁ、それなりに信頼できる奴なのだ。


「いづみさんの話で思い出したんだけど、そういえば翔くん。昨晩、何かやったでしょ?」

「なんのことだ?」

「とぼけないでいいんだよ。あの政治コメンテーターの下原って人に何かやったでしょ? 今朝のテレビ、もうネットで大騒ぎになってるんだから」


 じぃーっと、下から覗き込むように俺の顔を見つめてくる春菜。


「……まぁ、いいけどね。私もあの人、大嫌いだったし。スッキリしちゃった!」

「そいつは良かったな。俺は一切、関与していないが」


 駅に到着し、定期を通して改札の中へと入る。

 少々混雑したホーム内で、俺は春菜と共に電車の到着を待つ。

 それから、やってきた電車に乗り込み……揺られること三駅。

 後は駅から数分ほど歩けば、俺たちの通うらん高校が見えてくる。


「ん~? 翔くん、なんだか今日はやけに機嫌がいいね。いつもなら、渋々って感じで登校しているのにさ。今日はやけに足取りが軽いし」


 流石は幼馴染といったところか。

 こんな細かい部分で、俺の感情の変化を読み取ってくるとは……


「正解だ。今の俺は、学校に行くのが楽しみで仕方ない」

「ふぅん? これは何か秘密があるとみたね。ねぇ、私にも教えてよ」

「実は先日、例の装置が完成してな。いよいよ、あの計画を始動できるんだ」

「あの計画って……まさか?」

「ああ。魔法少女選抜プロジェクト……母さんを超える魔法少女の発掘だ」


 小声で話しながら、俺は懐から一つの小型装置を取り出す。パッと見はアンテナの付いた電圧計のようにしか見えないが、これには素晴らしい機能が備わっているのだ。


「コイツは魔法少女の適性を計測することができる。これを使って、母さん以上の魔法少女適性を持つ者を見つけ出し……母さんを超える最強の魔法少女に育てあげるんだ」


 もしもそれが叶えば、母さんがこれ以上魔法少女として戦う必要もなくなり……長年背負い続けた使命から解放することができるというわけだ。


「翔くん、昔から……いづみさんを引退させることが夢だったもんね」

「これを開発してもらうのはマジで大変だったよ。資金集めもそうだが。身バレしないように協力者を集め……とある科学研究所を買収して、これを作らせたんだけどさ」

「ええー……? やってることが学生レベルじゃないよぉ」

「全ては母さんのためだ。これくらい、息子ならやって当然だろう?」

「いやいやいや、それは違うと思うけど」


 少し引いた感じで、表情を引き攣らせた春菜は……首を傾げながら問いかけてくる。


「その機械、どういう原理で魔法少女の適性を検査するの?」