俺の母さんは最強の魔法少女です

『魔法少女選抜プロジェクト、始動』 ②

「ん? ああ、これは簡単な理屈だよ。魔法少女が変身するためは、マギプラに適合しないといけないことは知ってるよな? でも、仮に、マギプラで開花して魔法少女になれたとしても、魔法レベルが低ければ魔法少女としては役に立たない。そこで大事になってくるのが、本人がどのように大気中のマギナルを効率的に取り込むことができるかで……」

「へいへいへいっ! ストップ! 翔くん、まるで意味が分からないよ!」


 困惑の脂汗を大量に浮かべながら、バシバシと俺の背中を叩いてくる春菜。

 おっと、俺としたことが……つい浮かれて、独りよがりの説明をしてしまった。


「すまなかった。要するに、魔法少女に変身した時にどれだけ強くなるのかを、この装置で事前に見抜くことができるってわけだ」

「わざわざそんなことせずに魔法少女をいっぱい増やしちゃえばいいんじゃないの?」

「魔法少女になるために必要な魔精種は希少なんだ。それに、誰彼構わずに魔法少女にするのは色んな意味で危険なんだよ」


 第一に魔法少女の秘密を知る者が増えること。

 第二に魔法少女の力を得た者が、正義の心を持っているとは限らないこと。

 第三に魔法少女となる者には、今後常に命の危険が付きまとうということ。

 大まかにこれらの問題がある以上、そう安易に魔法少女は増やせないわけだ。


「ふーん? ま、なんだっていいけどさ! その機械、もう使えるんだよね?」

「ああ、テストも完了して、問題なく作動することは確認済みだ」

「ふっふっふっ! だったらさ、早速その装置を逸材に試すべきじゃない?」

「……逸材? そんな奴がどこにいる?」

「翔くんの目は節穴なのかなぁ? 目の前に、すっごい美少女がいるんですがっ!」

「……対象の美醜と魔法少女の適性には何の関係もないが?」

「いいから! ほら、ちゃっちゃと測定しちゃってよ!」


 グイグイと強く腕を引いて、春菜は一方的に捲し立ててくる。

こうなったら仕方ない。

俺は装置の裏にあるボタンを押してから、測定装置のアンテナを春菜の顔の方へと向けた。


「目盛りの下に赤いボタンがあるだろ? それを押してくれ」

「え? それだけでいいの? 単純だなー」


 ブツブツ言いながらも、言われた通りに春菜は測定装置のボタンを押す。

 すると、機械はピポピポという音を立て……目盛りの針を動かしていく。


「これは……!」

「わっ、動いた! やっぱり私には才能があるってことだね!」


 針が動いたことで、さらにそのドヤ顔に磨きをかける春菜。

 俺は測定結果に驚愕しながら、装置と春菜の顔を交互に見やるしかできない。


「はぁ、しょうがないなぁ。魔法少女なんて面倒だけどぉ、翔くんがどうしてもって言うなら、私がいづみさんを超える魔法少女になってあげても……」

「魔法少女適性たったの五……ゴミめ」

「ほぇぁ?」


 清々しいまでのドヤ顔から一転、春菜はぽかんと呆けた顔で目を丸くする。

 しかしどんな反応をしようとも、俺の回答は変わらない。


「は? ちょ? え? そ、そんなに駄目なの?」

「ああ。ここまで数値の低い奴はそうはいないぞ」

「そんなぁ……!」


 適性がなかったことがかなりショックだったのだろう。

 春菜はこの世の終わりのような顔をして、ガックリとうなだれる。

 俺はそんな春菜を哀れに感じつつも、装置の裏のボタンを再び押しておいた。


「で、でもさ! そんな機械じゃ私の隠れた才能は見抜けないと思うな!」

「そうかもな。いつかそれが目覚めたら、また測定してやるよ」

「うぐぐぐぐぐっ! 私だって、私だってぇ……!」


 歯を食いしばり、拳を握りしめながら体を震わせる春菜。

 そうこうしている間に、もはや俺たちは学校の正門まで辿り着いていた。


「だけど、翔くん! その装置で候補者を探すにしても、女の子にホイホイと測定をお願いするなんてできるのかなぁ?」


 学校に着くなり、春菜は不敵な笑みを浮かべ始める。

 そしてニヤニヤと俺をからかうように、右肘で脇腹を突いてきた。


「翔くんみたいな純情ボーイが、女の子に絡んでいけるの? ねぇねぇねぇ?」

「いや、それに関しては……」

「あれー? 一ノ瀬と春菜っちじゃん。今日もラブラブ登校してるわけー?」


 俺が春菜に言葉を返そうとしたタイミングで、ふと声を掛けられる。

 振り返るとそこには、同級生のギャルグループが三人ほど並んで立っていた。


「やん、そんなぁ……! たしかに私たちは世界一ラブラブな幼馴染同士だけどぉ……!」

「おはよう、小谷、海本、佐々井」


 頬を赤らめながらもじもじと照れる春菜を無視して、俺は笑顔で挨拶を返す。


「やっほ。てか一ノ瀬、こん前はノートあんがとねー」

「おかげでうちら、赤点回避できたし」

「それなー。一ノ瀬、今度アイス奢ったげるー」


 やいのやいのと、俺を取り囲んでくるギャル三人組。

 彼女たちのコミュ力の高さは、本当に見ていて気持ちの良いものだな。


「ノートを貸すのはいいけど、少しは自分で頑張らないとさ」

「えー? ムリムリ、うちらが頑張ったって無駄な努力っていうかさー」

「あはははっ! 真面目にやってもどうせ赤点なんだから、遊んでた方がいいっしょ」

「馬鹿は馬鹿なりに、ちゃんと考えてんだぞー? うりうりー」

「……俺はお前たちが馬鹿だと思ってないよ」


 自分を卑下するように笑う三人に、俺は真面目なトーンで言葉を返す。


「小谷たちってさ、コスメとかファッションのブランドは沢山覚えているだろ? それがいつ、どんな新作を出して、何が流行って、何が駄目かって……事細かく」

「あーね? でもさ、それはうちらが好きなもんだからさ」

「そうそう。コスメとかファッションは役に立つから、必死に覚えてるだけっつーか」

「歴史の年号とか数学の公式覚えても、何にもなんねーし。だからやる気出ねぇのー」

「たしかにそうかもな。だけど、こんな風に考えてみたらどうだ?」


 俺は彼女たち一人一人の目を順番に見ながら、できるだけ優しい声色で語りかける。


「歴史の年号とか数学の公式がパーペキに言える、頭のいいギャル。それってさ、他のギャルにはないカッケー要素になんない?」

「えっ? そんなん、考えたこともねーわ」

「少なくとも俺は、そんなギャルはイケてると思うよ。ギャップがマジでエグちじゃん」


 微笑みかけながら、そう話すと……三人は少し考え込むような顔を見せる。


「将来のため、なんて大人の言う綺麗事は無視してさ。今、モテるためのオシャレとして勉強を頑張る。そういうギャルがいたって、いいと思うけどな」


 最後の一押しとして、そう伝えると。

 彼女たちは、自分たちがそうなったことを想像したのだろう。

 興味のあるおもちゃを与えられた子どものように、瞳を輝かせ始めた。


「へぇ……面白いかも。あーしちょうど、落としたい好きピがいっからさー」

「ていうか、一ノ瀬。あたしらをその気にさせた以上、ちゃんと責任取ってくれるんよね?」

「ああ。ノートならいつでも貸すし、分からないことがあれば教えるよ」

「っし、オッケー。じゃあ、うちら頑張ってみるわ!」


 すっかりその気になった様子の三人。

 今後の成果がどうあれ、勉学に前向きになったのはいいことだろう。


「そうだ。もしよかったら三人とも、この機械のボタンを押してくれないか?」

「ん? 何この変な機械?」

「相性測定みたいなもんだよ。試しに遊んでいってよ」

「それマ? これで一ノ瀬との相性が分かんの?」

「百点だったら、あたしと付き合ってくれんのー?」


 わいわい騒ぎながらも、ギャル三人は順番に測定装置のボタンを押す。