俺の母さんは最強の魔法少女です

『魔法少女選抜プロジェクト、始動』 ③

 それぞれ、三十、四十二、二十五……まぁ、それなりといった感じ。


「はぁー? これ機械の故障っしょ? あーしらもっと仲いいじゃーん」

「おもちゃみたいなもんだからね。協力ありがとう」


 測定を終えた三人は、文句を言いながらも手を振って去っていく。

 それを見送り、歩き出そうとしたその時。


「一ノ瀬! ちょっといいか?」

「あっ、茂田先輩。おはようございます」


 俺に声をかけてきたのは、三年生の先輩で、野球部のエースの茂田先輩であった。

 朝練終わりで泥だらけのユニフォーム姿の彼は、いきなり頭を下げてきた。


「頼む、一ノ瀬! 今度の試合……俺の代わりに登板してくれないか?」

「……茂田先輩。助っ人は、あの一試合だけの約束だったじゃないですか」

「分かってる! だが、俺が投げるよりも……お前が投げた方が勝率は高い!」

「だとしても、ですよ。それは部員たちが納得していることなんですか?」

「……いや、違う。俺の独断だ」

「だったら、きっと俺が投げるといったらみんな怒ると思いますよ。あの試合は先輩の怪我が完治していないから、みんなは部外者の俺を認めてくれたんです」

「しかし……! 俺は部長として、チームを甲子園に連れていきたいんだ!」

「違いますよ、先輩。みんなが行きたい甲子園は、部外者の誰かに頼ったものじゃなくて……信頼するエースと共に勝ち取った勝利の先にあるはずです」


 俺がそう返すと、茂田先輩はハッとした表情を見せる。


「逆に聞きます。俺が茂田先輩の代わりに、一番実力の低い選手をレギュラーから外せと言えば、先輩は納得するんですか?」

「そ、そんなことは……!」

「それが答えですよ、茂田先輩。甲子園、必ず出場してくださいね」


 そう言いながら、俺は右の拳を突き出す。

 すると茂田先輩は大きく息を吐き出してから、俺の拳に自身の拳を合わせてくれた。


「……参ったな。これじゃあ、どっちが先輩か分かりはしないな」

「恐れ入ります」

「一ノ瀬。俺に何か力になれることがあれば、いつでも言ってくれ。俺……いいや、野球部の全員がお前のために力を貸すからな!」


 茂田先輩は高校球児らしい爽やかな笑みを見せ、風を切るように駆け出していく。

 あの人の部員から好かれるキャプテンシーは、俺も見習う部分があるかもな。


「……って、そういえば。春菜、さっきから随分と大人しいな」

「あ、あははは……翔くんが男女問わずモテモテだったこと、忘れてたなーって」


 隅っこにしゃがみ込み、木の枝で地面をガリガリと削っていじけている春菜。

 瞳には大粒の涙を溜めており、今にも泣き出してしまいそうだ。


「大体さぁ……翔くんは完璧すぎるんだよ。顔も、カッコイイし……」

「生まれついての顔については分からないが、髪型や肌のケアなんかは気にしてるな」

「成績だって昔からトップで……運動神経も抜群」

「そりゃあ、毎日ちゃんと勉強しているし、トレーニングも欠かさないからな」

「ううううっ! 私というものがありながら、どうしてそんなに自分磨きばっかりしていんだよぉ! これ以上、モテモテになる必要ないでしょ!」

「モテモテなんか、どうだっていい。俺はただ、母さんに褒められたいだけだ!」


 容姿も、勉強も、運動も。その他の能力……家事スキルなども全て同じだ。

 清潔感のある容姿なら、母さんが褒めてくれる。

 テストで満点を取れば、体育祭で活躍すれば、何らかの賞を取れば。

 そうする度に母さんは俺を褒め、頭を撫でてくれる。

 そのためならば俺は、どのような努力だって惜しまないっ!


「はぁ……翔くんってば何もかも完璧なのに……重度のマザコンだけが玉に瑕なんだよね。いや、もはやこれは致命傷レベルだと思うよ」

「なんとでも言え。マザコン呼ばわりが気になって母さんを大事にできないなんて、そんな奴は息子として失格だ!」

「くぅ……! ちょっと正論なのが、ますますムカつくぅ……!」

「だけど、これは嬉しい誤算だな。まさか母さんを喜ばすために自分を磨いた結果、魔法少女探しに大いに役立つことになるとは」


 人間というのは大抵が、優れた力を持つ相手に対しては表向き友好的な態度を取るものだ。

 本心はどうであれ、俺が装置測定をお願いして……断るような奴はこの学校にはいない。

 これで学校の女子生徒全員の中から、優れた才能を持つ候補を見つけ出すだけだ。

 もしも学校内にいなければ、他で探す必要も出てくるが……それはその時に考えよう。


「まだ……まだ、勝ちの目はあるもん。翔くんが候補を見つける前に、私が……」

「おーい。ぼんやりしていると、置いていくぞー?」

「あーっ! 待ってよ!」


 何かよからぬことを企んでいそうな春菜。

 大方予想は付いているが、まぁそこまで気にする必要もないだろう。

 どう足掻こうとも、俺がアイツを魔法少女にすることはありえない。

 母さんを超える最高の才能を持った逸材を見つけ出す。

 今はそのことに、全神経を集中させるだけだ。


 □


「えー? 相性占い? いいよー、やったげるー」


 クラスメイトの女子、高山静葉。

 柔道部という身体能力に目を付けるが、測定結果は三十八。


「ふ、ふひひっ……! 感じる、感じるわ。この機械から発せられる邪悪な波動を!」


 上級生の女子、影島怜。

オカルト研究会らしいので不思議な力を期待するも……測定結果は二十二。


「あらあら、一ノ瀬君。こんなオモチャを持ち込むなんて、イケない子ね……うふふふ」


 数学教師、乾京子。

 母さんと同世代くらいだからワンチャンあるかと思ったが、測定結果は十一。


「パバラビ、ボボラブデロ、ミャクラナベルペルチーノォ!」


 下級生の女子、宇都宮愛花。

 自称金星人らしいのだが、宇宙パワーは奮わず……測定結果は三十七。


「おーい、一ノ瀬。それなんだ? 俺にも遊ばせろよ」


 俺の男友達の一人、阿久津哲夫。

 他の女子の測定中に乱入し、なし崩し的に測定。結果は当然ながらゼロ。

 念のため他の男子数人でも試してみたが、全員結果は同じ。

やはり生物学的男性は、どう足掻いても魔法少女にはなれないらしい。


「みゃおーん……にゃ、にゃにゃーん!」


 校長先生が飼っているペットの雌猫、ローズマリーちゃん。

 猫科でも雌ならばと思い、測定するが……結果は五。


「え? やだ、私……猫と同じ数値なの? そんなのって……!」

「にゃにゃ……にゃにゃにゃにゃー(元気出しなよ、負け属性。勝負はまだこれからにゃ)」


 猫と同レベルであったことに落ち込む春菜と、その肩に肉球の手をポンッと置くローズマリーちゃん。虚しい敗北者たちの馴れ合いが、そこにはあった。


「……まだまだ、まだやれる」


 なかなか、上手くいかないが……焦る必要はない。

片っ端から色んな子に声を掛けていけば、いずれ一人くらいは候補者が見つかるはずだ。

 全校生徒約千人の内、女子生徒の数はおおよそ五百ほど。

 それだけいれば……きっと。


「頼むぞ……」


 俺は祈るように測定措置を握りしめ、次の機会を心待ちにするのであった。


 □


 魔法少女の候補者探しを始めてから数日後。


「くそっ! まさか、ここまで苦戦するなんて!」


 放課後、誰もいない屋上にて。

 俺は進捗のない成果を振り返り、思わず金網を殴りつける。


「うぷぷぷっ、大変だねぇ……翔くん」


 屋上入口にあるドアの影から半身を出し、ニヤニヤと笑う春菜。

 俺が魔法少女の候補者を見つけられなかったことが、よほど嬉しいらしい。


「いい加減に諦めて、私を魔法少女にしちゃいないよー」