俺の母さんは最強の魔法少女です

『魔法少女選抜プロジェクト、始動』 ④

「断る。魔法少女に変身するために必要となるマギプラは本当に希少なんだ。それをお前に使うなんて、勿体ないことはできない」

「うぐぅ……! たしかに才能はないかもしれないけどさ! 私、頑張るよ! いっぱい修行とかしちゃってさ、すぐにいづみさんを超えちゃうんだから!」


 こちらに駆け寄って、必死にそう訴えかけてくる春菜。

 気持ちは凄く嬉しいんだが……首を縦に振るわけにはいかない。


「そもそも、どうしてそんなに魔法少女になりたいんだ?」

「え? それは……」

「お前だって、知ってるだろ? 母さんが……どれだけ苦労してきたか」


 魔法少女といえば、一昔前はアニメなどの創作だけに登場する存在だった。

 可愛い女の子たちが魔法の力で活躍し、悪を倒すという王道の展開。

 だが、現実の魔法少女はアニメのように甘くはない。

 手強い怪人との戦いで、裂傷を負ったり、骨折したりすることは日常茶飯事。

 母さんの背中には今も、過去の戦いで受けた凄惨な傷跡が残っているくらいだ。


「半端な覚悟で入ってこようとするな、魔法少女の世界に……」

「ち、違うよ! 翔くん、私は……!」


 下唇を噛み、悔しげに俯く春菜。

 ああ、分かってる。コイツはコイツなりに、俺を想って言ってくれているのだと。


「悪い……言い過ぎた。色々上手くいかなくて、イライラしちまった」

「……馬鹿、最低、マザコン」

「否定はしないさ。誰かを魔法少女にしようなんて計画している俺は……ロクな奴じゃない」


 結局俺は、母さんを救うために、母さんの代わりの生け贄を世界に差し出そうとしているわけで。そんなクズ野郎はきっと、いつか地獄に落ちてしまうのだろう。


「それでも、俺はやり遂げなきゃいけないんだ」

「翔くん……」

「……今日はもう帰るか。さっきのお詫びに、何か奢ってやるよ」


 これ以上、ここでしんみりと落ち込んでいても仕方ない。

 俺は気を取り直すと、春菜を連れて屋上から降りようとしたのだが……


「っと!」

「きゃっ!」


突然、勢いよく扉が開かれ……屋上にやってきた誰かとぶつかってしまう。

 その際、俺の懐から測定装置が落ち……地面の上を転がっていく。


「……ったいわね」

「ああ、ごめん。気付かなかったよ」


 ぶつかった相手を見てみると、見覚えのない少女であった。

 いや、というより……なぜか彼女はこの学校指定の制服ではなく、セーラー服。

 屋上に吹く強い風に、青く綺麗な長髪を靡かせる彼女は……母さんほどではないが、かなりの美人といって差し支えない。

 切れ長の鋭い瞳、バランスよく見事に整った鼻と唇。

スラッとしたスレンダー体型は、まるでファッションモデルを思わせる。 

 春菜が可愛い系だとしたら、彼女は綺麗系……クールビューティーといった印象だ。


「翔くん、大丈夫?」

「ああ、俺は大丈夫だが……」


 心配そうに駆け寄ってくる春菜。

 正直に言うと俺は自分のことよりも、落ちた装置が壊れていないかが心配だった。


「……これ、アンタの?」


 そう問いかけながら、足元に転がる測定装置を拾ってくれる謎の少女。

 その時、彼女が機械を掴んだ指が……表の赤いボタンに触れる。


「わっ!? な、何よこれ!?」


 きゅいーんっ、きゅいんきゅいんっ、きゅいーんっ!

 突如、測定装置から響き渡る、鼻にかかったように甘ったるい機械音声。

 まさか、これは……?


「もう、なんなのよ! これ、返すわよ!」


 少女は不愉快そうに眉を顰め、こちらに装置を投げ渡してくる。

 それを無事にキャッチした俺は、すかさず目盛りの数値を確認した。


「測定結果は……きゅ、九十五……だと?」

「えええええええええっ!? 私の、ひぃー、ふぅー、みぃー……十九倍っ!?」


 とんでもない結果を前に、俺と春菜は思わず目盛りに釘付け。

 ようやく見つけた……! 母さんを超えられるかもしれない逸材を!


「なんだかよく分からないけど、それが壊れていても私のせいじゃないから」


 一方、何が起きているのか理解していない少女は、仏頂面でこちらを睨みつけている。

 マズイな。候補者を見つけたのは幸運だが、出会い方が最悪だ。

 今の状態で本題を持ちかけても、友好的な話し合いができそうにはない。


「……いや、大丈夫だよ。これ、おもちゃみたいなものだから気にしないでくれ」

「あっそ。別にどうだっていいけど」


 プイッと視線を逸らし、少女はその視線を遠くへと向ける。

 焦るなよ、俺。ここは慎重に、丁寧に……彼女の心を解きほぐしていけ。


「ええっと、君のその制服……もしかして、転校生?」

「そうだけど、文句ある? 明日から、この学校に通うことになったの」


 なるほどな。それで今日は手続き関係で来たってところか。

 しかし、妙だな。さっき軽くぶつかったくらいでこの不機嫌……何かあるのか?


「へぇ? じゃあ俺たちと同じクラスになったりして」

「私たちはね、二年生なんだよ。貴方は?」

「二年……だけど」

「学年、同じなんだ。俺は一ノ瀬翔太郎で、こっちが百野春菜。クラスはA組だから、もしも一緒のクラスになったら、よろしく」


 一切の下心を感じさせないよう、爽やかさ全開で自己紹介を行う。

 運のいいことに今は隣に女子の春菜がいる。

 これで多少は彼女の警戒心が解けるといいのだが……


「……別に。馴れ合うつもりなんてないわ」


 しかし彼女は冷たい表情のまま、名前を教えてくれることなく屋上から去っていく。

 くっ……! やはり駄目だったか!


「ねぇ、翔くん。あの子の制服、たしか……セレスティア女学院の制服じゃない?」

「セレスティア女学院? それって、あの超お嬢様学校のか?」

「うん、間違いないよ。女子高生たるもの、付近の学校の制服は全部頭に入ってるもん」


 お金持ちのご令嬢が通う女学院から、わざわざ一般高校に転校してきた……か

 同じ東京内の学校だし、両親の転勤などにより引っ越しも考えにくい。

 その辺りに、あの苛立ちの理由も隠されているのかもしれない。


「何にしても、これは最大のチャンスだな。彼女が第一候補に決定だ」

「ぐぬぬぬぬぬっ……やっぱり、そうなっちゃうよねぇ」

「明日から徐々に距離を詰めて、心を開いてくれたところで魔法少女の話を切り出すぞ」

「でもさでもさ! あの子が別のクラスになったら、仲良くなるの難しくない?」

「いや、それについては問題ない。この学校に入学して一年ちょっと……すでに校長、教頭、学年主任、担任の弱みは握ってあるからな」


 それを使って『お願い』すれば、彼らはきっと俺の願いを叶えてくれる。

 こんな日のために、入念に準備をしておいて良かった。


「弱みって……翔くん。いつもそんなことばっかり」

「何が役に立つか分からないからな。基本的に、学校中の人間全員の情報は集めてあるぞ」

「え? それって、私も含まれていたり……?」

「……どうだかな」

「ち、違うのぉっ! この一ヶ月で体重が二キロも増えちゃったのは胸が大きくなっただけであって……! バストサイズがね、三センチ……」

「……聞いてもいない、どうでもいい情報をベラベラと語るな」


 幼馴染のアホっぷりに半ば呆れつつ、俺は改めて屋上を後にする。


「まっでよぉ……! じんじでよぉ……! じょうぐぅぅんっ!」


 後ろから追いかけてくる半泣きの幼馴染を黙らせるためにも、帰りにアイスかクレープでも買い与えてやるとしようか。