俺の母さんは最強の魔法少女です

『魔法少女選抜プロジェクト、始動』 ⑤

 □


「わーいっ! 三段アイスだぁっ!」


 学校からの帰り道。アイスを買い与えられた春菜はすっかりご機嫌状態。満面の笑みでペロペロと、チョコミント、ストロベリー、クッキー&クリームの三段アイスを堪能していた。


「……そんな目で見ても、あげないからね?」

「いらないっての。欲しけりゃ自分で買ってるよ」

「しょうがないなぁ……一口だけなら、いいよ。はい、どうぞー」

「はぁ、頭が痛くなってきた……」


 いつものことだが、コイツと話していると会話のペースが乱されてしまう。

 そういう意味では、春菜は俺の天敵なのかもしれない。


「アイスより、頭を冷やす氷が欲しい……」


 折角、最高の候補者を見つけてブチ上がった高揚感が台無しだ。

 なんて思いながら大通りに差し掛かったところで……俺たちは大きな歓声を耳にする。


「「「「「ワァァァァァァァァァッ! いっけぇぇぇぇぇぇっ!」」」」」


 視線を上げると、交差点前の広いスペースに十数人の集団が集まっている。

 そしてその全員がビルに設置された大型ビジョンを見上げ、盛り上がっているようだ。


「「「「「チェリーダイヤたーん! がんばえーっ!」」」」」


 大型ビジョンに映し出されているのは、怪人と戦う魔法少女チェリーダイヤ。

 どうやら母さんと怪人の戦いが生中継されているようだ。


「ねぇ、翔くん。あそこにいる人たちってさ」

「ああ。チェリーダイヤファンクラブの皆さんだ」


 さくらんぼ柄のハッピに、チェリーダイヤたんラブと書かれたハチマキ。

 全員がファンクラブの正装をしているということは、今日の会合終わりなのだろう。


「なんだか、ちょっと怖いかも……」


 春菜はファンクラブの熱気に気圧されたのか、少し怯えた様子で俺の背中に隠れる。

 やれやれ、何をそんなに怖がる必要があるのか。

 母さんのファンに、悪い人間がいるはずがないじゃないか。


「悪い、春菜。俺もちょっと混ざってくる」

「……は? ちょっ、翔くん!?」


 俺は鞄の中からハッピとハチマキを取り出し、それを着用。

 そして二の腕には……黄金に輝く、会長と記された腕章を取り付ける。


「やぁ、皆さん、盛り上がっていますね」

「おやおや! これはこれは、会長殿!」


 街頭テレビに注目していたファンクラブメンバーたちが一斉にこちらを振り返る。 

 それから続けて、ファンクラブの正式挨拶であるチェリーダイヤの決めポーズ(ステッキを前に突き出し、構える格好)を、全員が一斉に行う。


「「「「「みんなの小さき恋人!」」」」」

「チェリーダイヤ!」


 俺も彼らの熱量に負けじと、大声を張り上げながらポーズを決める。

 よし、やはりこの挨拶を交わすと身も心も引き締まるな。


「池田さん、戦況はどうですか?」


 挨拶もほどほどに、俺はファンクラブ副会長である男性に声を掛ける。

 このファンクラブの創始者は俺だが、基本的な運営はこの人に一任しているのだ。


「もうすでに相手の怪人はノックアウト寸前。時間の問題でござるな」


 ふくよかなお腹をパンッと叩き、誇らしげに説明してくれる池田さん。

 ちなみに彼はチェリーダイヤのファンを二十年近く続けている大ベテランでもある。


「それは良かった。やはりチェリーダイヤは最強ですね」

「ふふふふっ、それだけではなく近頃はその美貌にもますます磨きがかかって。こんなに強くて可愛い魔法少女、推さないという選択肢はござらん!」

「「「「「うおおおおおおおっ!!」」」」」


 池田さんの言葉に同意する同志諸君。周囲の人たちは奇異の目でこちらを見てくるが、そんな彼らも足を止め……全員がチェリーダイヤの戦いを見守っている状態だ。


「あっ、終わった」


 ビジョンに映し出されたのは、母さんがトドメの一撃を放つ瞬間。

 拳に溜めた膨大な魔力を、虎のような怪人の腹に叩き込み……頭が下がったところに膝蹴りをお見舞いし、最終的には空中回転かかと落としでフィニッシュ。

 どうやら戦いの途中でステッキを弾き落とされたため、肉弾戦に切り替えたようだ。


「……結構、ダメージを受けていますね」


 画面に映るチェリーダイヤの体にはいくつもの傷ができており、衣装もボロボロ。

 きっとすごく痛かっただろうに……ああ、母さん。


「ええ……今回の怪人はいつにも増して強敵でござった。しかも、戦いの前半で怪人が卑怯な装置を使用しましてな」

「卑怯な装置、ですか?」

「ええ。奇妙な結界の中に、チェリーダイヤを閉じ込めようとしたのです」

「なっ……!」

「ですがご安心くだされ。我らのチェリーダイヤは渾身の力を込めたパンチで結界を内側から突き破り、見事に脱出! その勢いのまま、怪人を倒したのでござるよ!」


 結界を生み出す装置によって閉じ込められる……そんな大ピンチに陥っていたなんて。

 それなのに母さんはテレビの前のみんなを不安にさせないように、笑顔でグッドサインまでしちゃって。ああ、なんて……なんて尊いんだぁ……!


『チェリーダイヤさん! ちょっと待ってください!』

『え? あ、はい?』


 その時、チェリーダイヤの前に現れたのはテレビ番組のリポーター。

 怪人討伐後に、こうしてテレビクルーがインタビューに来ることはたまにある。

どうやら今日はテレビカメラにグッドサインをしたため、逃げそびれたらしい。


『見事なご活躍でしたね、チェリーダイヤさん! 勝利の感想は?』

『感想と言われましても……もう少し早く駆けつけられれば良かったなって思います』

『十分に早かったと思います。今回も怪我人はいないようですよ』

『まぁ! それは良かった! チェリー、嬉しいです!』


 すっかり魔法少女の人格になりきり、インタビューに答える母さん。

 こうして愛らしい姿を振りまくところも、チェリーダイヤの人気の秘訣なのだが……


「ギャハハハハッ! いい年したババアが、自分のことチェリーだってよ!」


 この場に集まった全員が、テレビから流れるチェリーダイヤに注目して静まり返る中。

 不快な男の声が、周囲一帯に響き渡る。


「……あ?」

「つーか、なんだよあのコスプレ。見てるだけで吐き気すんだけど、おえー」


 聞くに堪えない低俗な言葉を並べ立てているのは、見るからにヤンキーといった感じの金髪ピアスの若造。彼は自分の発言が周囲にどんな感情を抱かせているかも気付かず、ゲラゲラと下品な笑いを続けるばかり。


「……殺るか」

「お待ちくだされ、会長殿。ここは我らの特訓の成果……勧誘の陣・烈破を試す絶好の機会」


 俺が動き出すよりも先に、池田さん率いるファンクラブのメンバーたちがくそったれヤンキーの元へ歩み寄り……奴の周囲を取り囲む。


「ああん? なんだテメェら? クソオタク共が、くせぇーんだよ!」

「威勢がいいでござるな。しかし、すでに貴様は我らの術中に嵌まっているでござる」

「何寝言ほざいてんだ? ぶっ殺されたくなかったら……」

「かかれぇぇぇぇーっ!」

「「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」」」」」

「なっ!? やめろっ! 放せっ! う、うわぁああああああああああっ!?」


 あっという間に、ファンクラブの人波に飲み込まれてしまうクソヤンキー。

 どれだけイキろうとも、数の暴力には勝てない。

 いや、たとえ数が同じであろうとも……あんな性根の腐った男が、信念を秘めたファンクラブのメンバーに太刀打ちできるはずもないのだが。


「しょ、翔くん。あれ、喧嘩なの?」


 ここでずっと様子を見守っていた春菜が、怯えたように背後から声をかけてくる。


「いいや、違う。これは転生の儀式のようなもんさ」