俺の母さんは最強の魔法少女です
『魔法少女にならないか?』 ②
こうしてポツンと残った三条は、未だ唖然とした様子である。
「とりあえずこっちの空き席へどうぞ。俺と百野の席も近いし、何かあれば頼ってくれ」
「……ええ、ありがとう」
うちの学校指定ではない、セーラータイプの制服姿で教室内を歩く三条。
周囲から数多の視線を浴びながらも、毅然としたその態度は……実に好感を覚える。
その堂々たる態度、自分に絶対の自信を持っている雰囲気。
どちらも魔法少女向きだ。やはり彼女は素晴らしい逸材のようだ。
「翔くん、ここまでは上手くいってるけど……この後どうするつもり?」
「決まってるだろ。まずは、彼女との距離を詰める」
ここからが俺の計画の始まり。
いかにして魔法少女候補に、魔法少女となる決意をさせるか。
それこそが、俺の腕の見せ所なのだから。
□
「ねぇねぇ、三条さん! 質問いいかな?」
「おい、ズルいぞ! 俺も三条さんに聞きたいことがあるんだ!」
「男子は引っ込んでなー。まずはうちら女子が優先っしょー?」
やはりというべきか、想定通りというべきか。
朝のホームルームが終わり、一限目の授業が始まるまでの間、三条の机の周囲には大量のクラスメイトたちが押し寄せていた。
転校生に対する質問攻めは恒例行事みたいなものだし、笑ましいものだとも思う。
しかし悪いが、その女は俺の標的。余計な障害はさっさと排除してしまおう。
「あっ、えっと……私は……」
「はい、ストップ。いきなりそんなに大勢で質問したら、三条さんが困っちゃうだろ?」
苦笑いを浮かべる三条と、鼻息荒いクラスメイトたちの間に割って入る。
当然、クラスメイトたちは不満の目を向けてくるが、俺が怯むことはない。
「転校したばかりで質問をしたいのは三条さんの方なんだぞ? 仲良くしたいなら、もう少し相手のことを思いやってやれ」
俺がそう返すと、クラスメイトたちはハッとしたように三条さんを見やる。
そこで俺も彼女の方を向き、可能な限り優しく……穏やかな声色で訊ねた。
「勝手なことをしてごめん。後は三条さんの意思次第だけど……」
なんて言っているが、彼女が昨日見せた態度からして、自分から率先してクラスメイトとの交流を深めようとするタイプではないことは明白。
ほぼ間違いなく、彼女は俺が垂らした釣り糸に食らいついてくるはずだ。
「……そうね。皆さん、ごめんなさい。今は一ノ瀬君に、色々と聞きたいことがあるから。質問に答えるのはもう少し落ち着いた頃にしてほしいわ」
「「「「「……はーい」」」」」
読み通り、三条はクラスメイトたちに断りの言葉を入れる。流石に本人からこう言われてしまっては、誰も食い下がることはできず……トボトボと自分の席へ戻っていく。
「流石だね、翔くん。私なんて、おろおろすることしかできなかったよ」
人混みが無くなったのを見計らうように、こちらへやってくる春菜。
すると三条は俺と春菜の顔を交互に見つめ、大きな溜め息とともに態度を豹変させた。
「はぁ……礼は言わないわよ」
「別にそんなものは目当てじゃないさ。そんなことよりも、少しいいか?」
「何よ……?」
ぶっきらぼうな声色で、俺のことを探るように睨みつけてくる三条。
さっきまで同級生たちに見せていた、清楚でお淑やかな態度とは明らかに違う。
どうやら昨日、彼女の本性を目の当たりにした俺に対しては猫を被るつもりがないらしい。
「もうすぐ一限目の現代文が始まるからさ。その前に、うちの学校とセレスティア女学院の授業進捗の差を確認しておこうと思って」
俺はそう説明しながら、自分のノートを何冊かまとめて三条の前に差し出す。
「これ、各教科の授業内容をまとめたノート。学校偏差値的にもうちの学校の方が進んでいるってことはないだろうけど、教員ごとにテストの出題傾向のクセとかあるしさ」
「……ふん、そんなの余計なお世話よ」
「えー? 翔くんのノート、すっごく見やすくて大人気なんだよ!」
三条は俺が差し出したノートを突き返そうとするが、そこへ春菜がナイスアシスト。
「要らないなら、私が貰っちゃってもいい?」
机の端に両手を乗せ、顔を半分だけ見せながら訊ねる春菜。それを受けて三条は少し興味を惹かれたのか、俺から受け取ったノートの一冊をパラパラ捲り始める。
「……へぇ?」
「まぁ、不要になったらいつでも俺の引き出しに戻しておいてくれ。ノートの中身はパソコンにデータ化して取り込んであるし、実物は無くても困らないから」
春菜やギャル組にノートを貸すことが多いので、念の為のバックアップは万全だ。
「そう。じゃあ、ご厚意に甘えるとするわ」
「フッ……これで凪ちゃんも、翔くんのノート無しじゃ生きられない体になっちゃうねぇ」
得意げなしたり顔で、三条の肩にポンッと手を置く春菜。
流石は小学生の頃から今に至るまで、俺のノートを何千回と借りてきた女だ。
「ところで三条さん。制服は間に合ってないようだけど、教科書類はもう届いてるのか?」
「……ええ。昨日、職員室で余っていた分を一通り借りたから」
「そうか。なら授業回りは問題なさそうだし、後は学校の施設関係かな。それは時間がかかりそうだし、今日の昼休みと放課後でいい?」
「お願いするわ」
こちらに目線も向けない、相変わらずの冷たい態度。
だが、その声には以前よりもいくらか温かみを感じる気がする。
こうやってまずは少しずつ、彼女の警戒心を解き……親交を深めていく。
焦るなよ、俺。
彼女を最強の魔法少女にするために、失敗は決して許されないのだから。
□
午前の授業カリキュラムが滞り無く進み、やってくるのは全校生徒の待ちわびた昼休み。
それぞれが教室を出ていったり、親しい友人と席をくっつけたりしている中。
幾人かのハンターが三条を昼食に誘おうと狙っている様子だが、それを許しはない。
「三条さんはお弁当? それとも、学校内で調達する感じ?」
俺がそう声を掛けると、三条は俺の顔を見上げ……静かに首を横に振る。
「……いいえ。私、お昼は食べないの」
「ええ? そんなの健康に悪いと思うよ!」
急に割って入ってきたのは、鞄からどデカい重箱弁当を取り出した春菜。
三条はあまりにも巨大過ぎる弁当箱が衝撃だったのか、動揺した様子で春菜に問いかける。
「それ、貴方が一人で食べるわけ?」
「ううん、違うよ! これはね、私が翔くんのために作った特製愛情弁当なんだよ!」
そう言いながら、春菜はいそいそと弁当の包みを解いていく。
中には美味しそうなおかずが見事に敷き詰められている。
春菜の料理の腕はプロ顔負けで、俺も一目を置いているほどだ。さらに長年の研究改良により、俺の好みに合わせて味付けもされているという……まさに俺特化の弁当と言えよう。
「いくら断っても、必ず作ってくるからな。昼は春菜と二人で弁当を食べているんだ」
「ふぅん……? アンタたちってさ、付き合ってるの?」
「やっぱりそう見えちゃう? 参ったなぁ、これはもう婚約しかないよねぇ」
「いや、コイツはただの幼馴染で……」
浮かれる春菜の姿に呆れつつ、俺は三条の誤解を解こうとする。しかし彼女はもはや俺と春菜の関係に興味は無いようで、じぃーっと机の上の巨大弁当箱に視線を落としていた。
もしかして、弁当に興味があるのか?
「よければ一緒にどうだ? この量、いつも俺と春菜だけで食べきるのは大変でさ」
「え? いや……別に、そういうつもりじゃないわよ」
「もしかして、ダイエット? そんなに痩せてるのに、必要ないとおも……いたぁっ!」



