俺の母さんは最強の魔法少女です
『魔法少女になるために』 ①
俺の母、最強の魔法少女チェリーダイヤを超える才能を秘めた逸材、三条凪。
彼女から魔法少女になる同意を得た翌日の放課後。
俺は三条を例の空き教室へと呼び出していた。
「……ふん。言われた通り、体操服で来てやったわよ」
肩に校名と校章の入った白の半袖に、紺色のブルマ。まるで汚れ一つない学校指定の体操服に身を包んだ三条は、両腕を組みながら教室へ入ってくる。
制服はともかく、体操服は間に合ったようで何よりだ。
「ありがとう、三条。今日はよろしく頼む」
「ええ。恩を返す程度には頑張るわ……って、アンタ一人? あの子は?」
「春菜なら先に帰ったよ。なんだか、大事な用事があるとか言っていたな」
「ふぅん……?」
「とりあえず椅子に座ってくれ。まずは、魔法少女に関する説明から始めよう」
俺が促すと三条は、小さく頷いてから椅子に座る。
それを見届けた後、俺は黒板の前に歩み出てからチョークを手に取った。
「まずは前提知識だ。すでに知っている内容もあるかもしれないが、一応聞いてくれ。疑問があれば途中で口を挟んでくれても構わないぞ」
「いいわ。さっさとお願い」
「分かった。それじゃあまずは魔法少女について説明しよう。魔法少女とは超常の力を有し、奇跡の如き魔法の力を用いて悪と戦う少女のことだ」
「空を飛んだり、ビームを撃ったり……そういうイメージね」
「ああ。じゃあそもそも魔法少女ってなんなんだ、って話だと思うんだが。その前にこの世界に存在する見えないエネルギー……マギナルについて知る必要がある」
板書をしながら、俺はなるべく噛み砕いて分かりやすくなるよう説明を続けていく。
「マギナルってのは、簡単に言えば魔力の源みたいなものだ。酸素なんかと同じように大気に漂っているエネルギーで、全ての生命が知らず知らずの内に取り込んで生活している」
「そんな未知のエネルギーがあるの? 私、感じたことがないわ」
「通常の人間には知覚できないんだ。たまにマギナルが強くなると直感的に何かを感じ取れる場合もあるみたいだが……それは置いておくとして。そのマギナルってエネルギーが、魔法少女の力の源になっていると考えてくれ」
俺はそこまで説明したところで、ズボンのポケットから指先サイズの結晶を取り出す。
雫のような形をした赤い結晶は、蛍光灯の光を受けながらキラキラと輝きを放っている。
「そしてこれは、そのマギナルのエネルギーが長年を掛けて高密度に結晶化したもので、マギプラと呼ばれている、魔法少女の核となる種のようなものだ」
「マギプラ……魔法少女の核?」
「そうだ。適性を持つ者がこれを飲み込めば、魔法少女へと覚醒することができる。かなり希少で、俺もあらゆる人脈を駆使して……ようやく三つほど手に入れられた」
俺がマギプラを差し出すと、三条はそれを手に取って眺め始める。
「綺麗……宝石みたいね」
「宝石なんかよりも遥かに値打ちものだ。それ一つ手に入れるのに、二億は使った」
「にぃっ……!?」
「ちなみに、適性のない生物がそれを飲み込んだ場合……体内で消化され、ただの排泄物として排出されることになる。つまり、ただのゴミと化すというわけだ」
そのせいで、この世界に誕生した貴重なマギプラを適性のない小動物が飲み込んで無駄にしてしまうケースもある。世界中に魔法少女が爆発的に増えない理由の一つだ。
「マギプラを無事に取り込み、魔法少女に覚醒することを俺は開花と呼んでいる。開花を果たした魔法少女は大気の魔精気を操る力を手に入れ、魔法を扱えるようになるってわけだ」
「二億……それを、これから飲み込むの?」
「ん? ああ、心配ない。お前の適性なら確実に開花できる。それにもし失敗しても、お前に責任はない。だから心配せず、ぐいっと飲み込んでいいぞ」
教壇の上に置いてあった未開封のペットボトル水を、俺は三条に投げ渡す。
それを空いた手でキャッチしたものの、三条は未だ困惑の表情のまま唖然としている。
「ただ、これが最後の確認だ。魔法少女になれば、お前は今後……世界の平和のために苦しい戦いの宿命を背負うことになる」
「……途中で引き返すことはできないってわけね」
「いや、辞めたくなったらいつでも辞めていい。俺は引き止めると思うが、命をかけている以上、戦うかどうかを決めるのはお前自身でないとな」
「それはアンタの報酬次第よ。アタシの願い、可能な限りは叶えてくれるんでしょ?」
「そうだ。流石に犯罪に手を染めるようなことだけはご遠慮願いたいが」
「安心しなさい。アタシこれでも、正義感はある方だから」
ニヤリと白い歯を見せ、力強く頷く三条の……なんと頼もしいことか。
「じゃあ、これ食べちゃうわよ? と言っても、結構大きいわね」
「飲みにくかったら噛み砕いてもいいぞ。もしくは飴みたいに口の中で転がしておくといい」
「二億の飴玉なんて、前代未聞過ぎるわよ……」
と、ぶつくさ言いながらも三条はマギプラをパクリと口内へ放り込む。
結局一気飲みの勇気は出なかったようで、しばらく舐めることに決めたようだ。
「あっま……! しかもなんか妙にフルーティーというか……!」
複雑そうな表情で頬に入れたマギプラをコロコロと舌で味わっている様子の三条。
母さんも言っていたが、この甘さは本当にクセになるんだとか。
「よし、じゃあマギプラを取り込んでいる間に……次は魔法少女の宿敵、悪の組織シャドウネクサスについて説明しようか」
「シャドウネクサス……あの怪人連中ね」
「ああ。奴らはどうやら、この地球とは別の次元の生命体らしくてな。元の世界からこの地球に移住するために、侵略を開始しているらしい」
「侵略? でも、その割にはペースが生ぬるくない? 一日に一回、怪人の襲撃があるかないかなんて、やる気を感じないけど」
「詳しい事情は不明だが、連中にとってマギナルが有害な物質なことが影響しているらしい」
「マギナルが有害? そんな世界をなんで侵略しようとしてるわけ? 毒が溢れた世界を侵略したって、ほとんど意味ないと思うわ」
「マギナルは生命の幸福な感情に反応して増大するんだよ。逆に人間の恐怖や不幸な感情によって反転し、一気に衰退していってしまうそうだ」
「ああ、なるほどね。それで毎日チマチマと怪人をけしかけて、そのマギナルっていうのを減らそうと頑張ってるんでしょ?」
「そういうこと。しかも厄介なことに、あっちの世界の怪人は体が強靭で、重火器の類がほとんど効かない。ミサイルなら効くかもしれないが、そんなもの街中でぶっ放すわけにはいあかないし……仮にそれで怪人を倒せても、周囲のマギナルは壊滅的だ」
「まさに打つ手なしって感じね。でも、それを解決するのが……」
「そう、魔法少女ってわけだ」
シャドウネクサスに唯一対抗できる手段こそ、マギナルを行使する力を持った魔法少女。
彼女たちがマギナルを用いた魔法を使うことで、ようやく怪人を倒せるのだ。
「とまぁ、ここまで長々と話してきたんだが……正直、これらの知識は必要ない。大事なのは、世界を救うためには魔法少女の力が欠かせないってことだけだ」
念の為、黒板に板書して要点をまとめておくとしよう。
・世界には一般人には見えない、マギナルという力の源が存在する
・適性のある者(女性のみ)が、マギプラという結晶を取り込んで魔法少女になれる
・敵は異世界からの侵略者、悪の組織シャドウネクサス
・シャドウネクサスは人間を襲撃し、負の感情を誘発することでマギナルの消失を目論む
・シャドウネクサスの怪人を倒す方法は、魔法少女の魔法の力しかない
「……こんな感じだな」



