俺の母さんは最強の魔法少女です
『魔法少女になるために』 ②
「とにかくこの結晶を飲み込み終えれば、アタシは魔法少女になれる。その力で怪人をボコボコにしていけばいいってことでしょ?」
「ああ。だが、ただマギプラを取り込んだだけで戦えるようになるほど、魔法少女は甘くないぞ。世の魔法少女たちも、実践に出るまでに先輩魔法少女から多くを学んでいるそうだ」
初代魔法少女の母さんは誰からも教わることは無かったようだが……後に自分が、魔法少女に覚醒した若手たちを導いてきたのだという。
「ねぇ、そういえばさ。まだちゃんと聞いてなかったけ……」
思案に耽っている俺に、三条が何かを訊ねようと口を開いたその時。
突然、彼女の体がぼんやりと淡く、青色の光を放ち始めた。
「な、何よこれ?」
「適応が始まったみたいだ。それにしても、本来ならこの段階に至るまで半日以上はかかるはずなんだが……これほど早いのは初めてだ」
「見たことあるかのように言うのね。アンタ、前にも誰かを魔法少女にしたことがあるの?」
じぃっと俺の目を見つめながら、三条は探るように質問してくる。
彼女に対して嘘は通じない。ならば、正直に打ち明けるべきだろう。
「ああ。俺が中学の時に一人だけ、魔法少女にした子がいる」
脳裏に浮かぶのは、燃え盛る紫炎の中に佇み……狂気の笑みを浮かべる魔法少女。
「アタシの先輩ってわけね。その子は今も活躍しているの?」
「いいや。彼女にはちょっとした問題があって、今は療養中なんだ」
光を失った目。赤く染まった手。
彼女はその手を俺の頬に伸ばし、引き寄せ……耳元で、あの言葉を囁く。
『ボクはね、絶対に絶対に絶対に……キミを、キミだけをね……』
「……っ!」
いけない。一瞬、意識が持っていかれていた。
気を取り直すように頭を振り、俺は震える唇で言葉を紡ぐ。
「あの頃の俺はガキで、傲慢で、愚かだった。ちゃんとした準備もケアも、覚悟さえもないままに……軽率に一人の少女の運命を変えてしまったんだ」
「……ふぅん? なんだか事情がありそうだけど……それはまた今度、話して貰うわ」
過去の記憶に苦悶する俺を気遣ったのか、三条は優しい声でそう言ってくれた。
それをとても申し訳なく思いながらも、今はその言葉に甘えることにした。
「不安にさせたならすまない。だが、俺は全力でお前を支える。だから……」
「あーはいはい、そういうのは行動で示してくれればいいわ。それよりも、このピカピカ状態はどうすればいいの? このままじゃ帰宅もできないんだけど?」
「それなら大丈夫だ。もうすぐ適応が終わって、光も落ち着く。それさえ済めば、魔法少女として変身することができるようになる」
「変身ねぇ。チェリーダイヤとかみたいに、あのフリフリの衣装になるわけ?」
「衣装については基本的に本人の生い立ちや気質なんかが反映されるみたいだぞ。兎を飼っていてウサ耳が付いた子もいれば、海賊に憧れて船長風になった魔法少女もいるらしい」
「へぇ、そうなんだ。アタシは昔、おばあちゃんから茶道とか日本舞踊を習っていたりしたんだけど……そういうのが反映されたりするのかしら」
顎に手を当て、自分が変身した際の姿を想像している様子の三条。
こればっかりは、実際に変身してみないと分からないからな。
「そうそう。お前に限って心配は要らないと思うが……もしもお前が魔法少女の力を無闇に悪用するようなら、その時はチェリーダイヤを始めとした多くの魔法少女が粛正に来るぞ」
「粛正って……いやでも、その脅しは必要よね。肝に銘じておくわ」
なんて話している間に、三条の発光は収まっていき……元の状態に戻る。
適応時間も異様なほどに早い。実に素晴らしい、素晴らしいぞ三条!
「で? これでようやくアタシも変身っていうのができるのよね?」
三条は椅子から立ち上がると、拳を握りしめながら嬉しそうな表情を見せる。
未知なる力による自身の覚醒なんて、大抵の人間が浮足立つものだろう。
「全身に満ちるマギナルの力を感じるんだ。それを活性化させながら変身の呪文……まぁ、これはあくまで掛け声のようなものなんだが、ブルームと唱えればいい」
「ブルーム、ね。じゃあ、やってみるわ」
「いや、待て。変身する前に、まだ説明が……」
「はぁぁぁぁぁぁぁっ!」
俺の説明を遮り、三条は気合いを込め始める。
すると彼女の全身が青白く発光し、周囲のマギナルが徐々に彼女の中へ取り込まれていく。
「ブルーム!」
そして、変身のきっかけとなる呪文を口にしながら……彼女は右手を高く上げる。
瞬間、彼女の身にまとっていた衣服が光の粒子となって飛散。
彼女の細身の体が一糸纏わぬ、生まれたままの姿へと変わった。
「え? ちょっ……?」
それから少しずつ、周囲の光が彼女の体に定着を始める。
頭、胸、腕、腰回り、臀部、太ももからつま先まで……集まった光はやがて、ヒラヒラとした布のような形状へと変質し、三条の体を覆い尽くしていく。
「おお……! まさか一回目で成功するとはな」
青く長かった髪は透明度の高い水色のインナーカラーが混ざり、白いリボンでポニーテールに束ねられている。そして肝心の魔法少女衣装は、和のテイストを感じさせるものであった。
青を基調とした巫女服に黒の胸当て。聞き手である右手には手袋。
スカート部分は膝上の短い袴のようになっており、足の部分はなぜか黒のニーハイブーツ。
和洋入り乱れる感じにも見えるが、ところどころにあしらえられたフリルなどの意匠が愛らしさを強調しており、クールさの中に可愛さも内包しているようだ。
「いいじゃないか、三条。よく似合ってるぞ」
思わず感心の拍手が飛び出す。
だが、当の三条は顔を真っ赤にした状態で俺の方をギロリと睨み続けていた。
「……見た?」
「見た? ああ、お前の華麗な変身はしっかりと見届けたよ」
「違うっ、そうじゃなくて! 変身の時、その……服が、消えて……!」
今にも俺に飛びかかってきそうなほどの剣幕で、そう叫ぶ三条。
おっと、しまった。俺としたことが、三条の変身に見惚れていて肝心なことを忘れていた。
「どうせ嘘はバレるから正直に言おう。お前の裸を見てしまった、すまない」
「やっぱり! アンタ、こんな大事なことをなんで先に言わなかったのよ!」
もはや爆発するのではないかというくらい顔を真っ赤にしながら、三条は俺の胸倉を掴む。
速い。流石は魔法少女……目で追うのもやっとな動きだった。
「落ち着いてくれ。俺はちゃんと事前に説明しようとしたんだ」
だけど三条が俺の説明を聞かず、勝手に変身を始めてしまった。
そのせいで変身の際、自分の裸体が顕になるという事実を伝えられなかったのだ。
「うっ、ぐぅ……!」
「これに懲りたら、勝手に先走るような真似はしないでくれ。今回は俺がお前にボコられるだけで済むだろうが、場合によってはお前自身に危害が及ぶ場合もある」
俺はそう諌めてから、静かに目を閉じる。
「何はともあれ、お前の裸を見てすまなかった。気が済むまで、痛めつけていいぞ」
いくら事故とはいえ、年頃の少女の裸を目にしてしまった罪は重い。
だからせめて、三条の溜飲を下げられればと考えたのだが。
「……別にいいわよ。今のはアタシが悪いし、それでアンタに暴力を振るうなんて最低だわ」
三条は俺から手を放すと、荒れていた感情を整えるように深呼吸を繰り返していた。
「それより、今のどうにかなんないわけ? 毎回変身する度に、ああなるってこと?」



