俺の母さんは最強の魔法少女です

『魔法少女になるために』 ③

「変身が上達すれば、魔法少女形態になる時間はほんのコンマ数秒になる。俺の母さん……チェリーダイヤの場合は、ハイスピードカメラでも捉えられないほどだぞ」

「へぇ、練習次第ってわけね……って、えっ? アンタの母親が、チェリーダイヤ?」

「まだ言ってなかったか?」

「いや、チェリーダイヤ絡みなんだろうとは思っていたけど……母親だなんて。というか、あの若い見た目で子持ちなの……?」


 これほどまでに、三条が驚くのも無理はない。

 親子の贔屓目を抜きにしても、母さんは高校生の子持ちとは思えない若々しさだからな。


「母さんの話はともかく、変身については心配要らない。というか、そもそも人前で変身する機会なんてゼロだから、変身の練習も必要ないさ」

「え? どういうこと?」

「人前で変身なんてしたら、素性がバレる可能性が高まる。だから現場に駆けつける時は、誰もいない場所で変身し、それから転移魔法を使って現場付近に移動。怪人を倒したら現場から離れた誰もいない場所に転移。そこでようやく変身解除するってわけだ」


 こうでもしないと、記者や野次馬連中に写真を撮られて世間に拡散。

 あっという間に住所を特定され、本人の素性が知れ渡ってしまう。


「なるほど。それを徹底しているから、チェリーダイヤの正体がバレていないってわけね」

「そうだ。ちなみに心配要らないとは思うが、俺の母さんがチェリーダイヤだと誰かにバラすような真似をしたら……分かってるな?」

「ひぃっ……! わ、分かったから……! そんなに怖い顔しないでよ」

「っと、悪い。じゃあ次は、魔法少女の花形……魔法について説明しようか」


 空気を変えるため、俺は明るい調子で三条に呼びかける。

 それが功を奏したのか、三条はおっかなびっくりといった感じで俺の前に戻ってきた。


「まず、魔法少女が扱える魔法は大別して二種類ある。一つが、全ての魔法少女が扱えるようになる共通魔法。そして二つ目が、魔法少女毎に与えられる固有魔法だ」

「共通魔法と、固有魔法……」

「共通魔法はさっきも言った転移魔法の他に、空を飛んだり、物を修復したり、マギナルを圧縮してビームとして放ったり……ようは基礎となる魔法のことだ」


 これを習得して、ようやく半人前の魔法少女になれるという感じだ。

 逆に言えば、これらを覚えずに実戦に出ることはほとんど不可能だと言えよう。


「そして大事なのが、固有魔法。簡単に言えば魔法少女の個性……もしくは、その魔法少女にだけ与えられた才能って感じかな」

「そういえば魔法少女の中には炎を出したり、雷を出したりする人がいるって、前にテレビかなんかで見たことがあるわ」

「まさにそれだな。マギナルを炎に変える魔法、水に変える魔法。そういった感じで、魔法少女毎に一つだけ、特別な魔法が扱えるようになるんだ」

「ふぅん? じゃあ、アタシの場合はなんなの?」

「残念だが、それはまだ分からない。戦いの中で目覚める場合もあれば、修行中に思いつく場合もある。今はまだ、共通魔法を覚えることが先決だ」


 余談だが、母さんの場合は初変身の時から固有魔法を使いこなしていたそうだ。ちなみに母さんの固有魔法は……この場で口にするのも憚られるような、えげつない能力である。


「ま、いいわ。アタシの才能ならすぐに覚えるでしょうし」


 本人がやる気を出してくれれば、これからの修行も捗るというものだ。

 焦りは禁物だと思いつつも、この偉大な才能を前にはワクワクが止められない。


「そう言えば一ノ瀬、一つだけ確認しておきたいんだけど」

「うん? 何か気になることでもあるのか?」

「いや、この衣装……すっごく、ミニでしょ? これ、どうにかなんない?」


 ひらりと、際どい袴部分を翻しながらほんのりと頬を赤らめる三条。

 見る人が見れば、たまらんと叫んでしまいそうな光景だな。


「難しいな。魔法少女の衣装は変えられない。対策としては一度変身してからスパッツを穿くくらいだが……そうするとマギナルの吸収効率が落ちて戦闘力が格段に落ちるらしい」


 まだ俺が生まれる前、母さんがそうやってスパッツを穿いた結果。

 怪人に追い詰められ、危うく敗北しかけてしまったのだという。


「うっ……分かったわよ。そこは我慢するけど……でも、今のアタシの顔って、普段のアタシとそこまで変わらないわよね? これは大丈夫なの?」


 たしかに魔法少女に変身した三条は、いくら髪色や髪型が変わっているとはいえ、顔そのものが変わったというわけではない。

 見る人から見れば、彼女だとすぐに気付かれてしまってもおかしくはない。


「共通魔法の中には認識阻害というものがある。それを使えば、今の魔法少女状態のお前の顔と、普段のお前の顔は結びつかなくなるんだ」

「えっと、よく分からないんだけど……それってどういうこと?」

「要するに、魔法少女状態のお前を見ても三条凪という人間を思い浮かべることはない。逆に三条凪を見て、魔法少女状態のお前を連想することがなくなるってことだ。ただし今の俺みたいに、前もってお前の正体を知っている者には効果はないけどな」

「要するに、下手に自分の素性を明かしたり、その痕跡を残したりしなければ身バレは絶対に防げるってわけね」

「そういうこと。だから最初はとことん、共通魔法を叩き込んで貰うぞ」


 こうして、最高の才能を秘めた三条凪への説明会は終了。

 初めての変身も見事に終わり、これからは研修という名の修行が始まる。


「……だけど、今日のところはここまでだ。共通魔法の練習は明日からにしよう」

「あら? 別にアタシはこれから続けてもいいけど?」

「そう慌てるな。今は変身状態でハイになってるだろうが、解除したら疲労感がキツいぞ」

「解除……そう言えば、どうやって元に戻ればいいの?」

「母さん曰く、元の姿に戻りたいと強く念じるだけでいいそうだ」

「ふーん? じゃあやってみるわ」

「おい、待て!」


 俺の説明を聞いた三条は、何も考えずにノータイムで変身を解除する。

 すると再び彼女の体が光に包まれ、そして……魔法少女の衣装が光となって霧散。


「あっ、ああああああっ!」


 俺の目の前でほんの数秒、素っ裸になり……絹を裂くような絶叫。

 すぐに光は元の体操服へ戻っていくが、今回も彼女の裸体を目にしてしまったわけで。


「その、なんだ……悪い」

「ううううううううっ! アンタ! 責任取んなさいよねっ!」


 恥ずかしそうにその場に蹲り、涙目になる三条。


「……善処しよう」


俺はそんな彼女が元気を取り戻すよう、必死に宥め続けるのであった。


 □


「ふん、三段アイスごときでアタシが機嫌を取り戻すとでも?」


 学校からの帰り道。同級生の男子に二度も裸を見られるという失態を演じ、気落ちする三条を慰めるべく……俺が取った行動はアイスをご馳走するというものであった。

 春菜が相手なら勝率百パーセントのこの戦法。

 流石に三条には荷が重いかとも思ったのだが……


「アタシからのアドバイスよ。次からは五段を買いなさい。いいわね?」


 ニコニコの満面の笑みで、アイスをペロペロ舐めている三条。

 この顔からして、やはりアイス……アイスは全てを解決すると、俺は確信した。


「疲れた時は甘い物が染みるだろ?」

「ええ、まさかこんなに倦怠感があるとは思わなかったわ」


 変身解除後、三条は(精神的なダメージを抜きにしても)しばらく空き教室から出ることもできないくらいに消耗していた。

 魔法少女というのは、自身の身を犠牲にする尊い存在だと改めて思い知らされるな。