俺の母さんは最強の魔法少女です
『魔法少女になるために』 ⑤
まさか自分で名前まで決めてきていたとは、この気合の乗りは実に素晴らしい。
「そうか、なら、お前の魔法少女ネームを教えてくれ」
「ふふっ、いいわ。よく聞きなさい。アタシの名は……!」
三条は両手を腰に当て、胸を張るような体勢のまま言い放つ。
「魔法少女、プラムサファイアよ!」
「プラムサファイア……だと?」
プラムとサファイア。
青い果物と、青い宝石の組み合わせ……分かりやすいし、響きも悪くない。
「いいじゃないか、三条。俺が考えていたブルースカッシュハワイよりカッコイイぞ」
「ブルースカッシュって……」
「魔法少女プラムサファイア……うん、お前ならダイヤを超える輝きを放てるはずだ」
なぜか呆れたように俺を見やる三条の肩に手を置いて、俺は期待の眼差しを送る。
すると三条はふいっと視線を逸らすように俯き、もにょもにょと小さく呟き始めた。
「なんでいつも、そういう歯の浮いたセリフを言えるわけ……?」
プラムともサファイアとも真逆の赤に顔を染め、チラチラとこちらを見やる三条。
これは……照れているのか、それとも怒られているのか?
前者のような感じもするが、下手に指摘するとこじれそうな気もする……
「ま、いいわ。アンタがそういう奴だってのは、分かっていて……アレだし」
「アレ……?」
「とにかく! アタシはこれから魔法少女プラムサファイア! アンタの母親を超えて、最強の魔法少女になってやるわ!」
両手を腰に当て、いつもの自信に満ち溢れた表情でそう宣言する三条。
「最強の魔法少女……か」
悪の組織シャドウネクサスは強大だし、怪人も一筋縄ではいかない強敵ばかりだ。
しかし、彼女と一緒なら何も恐れることはないように思える。
「そいつは頼もしいな。ますます、デビュー戦が楽しみになってきたよ」
「次に現れる怪人も災難ね。アタシが世に羽ばたくための踏み台になるんだから」
確かな実力と才能に裏打ちされた、揺らぐことのない自信。
「メディアの話題はプラムサファイア一色に染めてあげるわ」
「フッ、俺はそれを望んでいる……」
やれる。俺たちは……魔法少女チェリーダイヤの伝説を終わらせられる。
新たな時代の、新たなる最強の英雄として世界を救う。
固い握手を交わし、互いの瞳を見つめ合いながら……
「やるぞ、プラムサファイア」
俺たちはその時を待ちわびるのであった。
□
太陽が徐々に落ち、世界が夜の闇に染まりつつある黄昏時。
多くの人々が徐々に帰宅を始め、各ご家庭では夕食の仕度が始まったり、すでに夕食を始めていたりする頃合い。
普段なら俺も母さんのために手料理の仕度を済ませている時間帯なのだが、今日は違う。
リビングの大型テレビの前で、俺はニュース番組を食い入るように視聴している。
なぜなら今日は……魔法少女プラムサファイアのデビュー日だったから。
『続いてのニュースです。本日、東京都大田区で発生した怪人襲撃事件ですが、そこに駆けつけたのは新顔の魔法少女でした』
毎日恒例の魔法少女ニュース。
当然、一番大きな話題となるのは新たなる魔法少女に関する内容。
『青い衣装に身を包んだ、プラムサファイアと名乗る魔法少女。彼女は街で暴れる怪人インセクハッカーの元に現れ、戦いを挑みます。プラムサファイアは不思議な光を両手から放ち、怪人を徐々に追い詰めていきました』
鮮烈なデビューを飾り、メディアに自分の存在をアピールし、これからの活躍の場を広げていくことは魔法少女の基本的な流れになる。
当然、歴代最高の才能を持つプラムサファイアも、その例に漏れるはずはない。
そう、思っていたのに。
『……ですが、その勢いはそこまで。インセクハッカーが全身から大量の虫を放つと形勢は一気に逆転。放たれた虫に恐怖し、動転したのでしょうか。パニック状態に陥ったプラムサファイアは泣き叫びながら光線を周囲に撒き散らし……周囲の建物家屋、約十棟を損壊』
テレビに映るのは、涙と鼻水グチャグチャの状態で両手をブンブンと振り回しているプラムサファイアの映像。そして、その両手から放たれた光で崩れ行くビルや家屋。
『すでに付近住民の避難は完了していたため、被害はありませんでした。しかし、プラムサファイアは気が動転していたのか……怪人を放置し、崩れた建物を魔法の力で修復開始』
映像ではビームを撃ち終えた三条が、ペコペコと頭を下げながら修復魔法を発動。恐らく罪悪感で頭が真っ白になり、とにかく壊した物を直さないといけないと行動したのだろう。
『怪人インセクハッカーはその隙を見逃さず、プラムサファイアに攻撃。怪人の攻撃をまともに受けたプラムサファイアは、近くの植え込みに頭から突っ込んでノックアウト』
インセクハッカーの一撃でふっ飛ばされ、ズボッと植え込みにダイブ。
テレビなのでモザイクはかかっているが、植え込みから飛び出した下半身はスカートが捲れてパンツ丸出し状態。思わず目を背けたくなる大敗北である。
『もはや絶体絶命かと思われたその時、やはり現れたのはあの救世主! 我らの魔法少女チェリーダイヤが、お騒がせ新人魔法少女の救援に駆けつけました!』
空から飛来してきたチェリーダイヤは、一瞬で状況を察したようで。
素早い動きで怪人の背後に回り込むと、その首に両手を回し……ゴキッと瞬殺。テレビ局も流石に不味いと思ったのか、映像には先ほどよりも濃いモザイク処理がなされていた。
『チェリーダイヤは怪人を倒した後、プラムサファイアを救出。気を失った彼女を脇に抱え、テレビカメラに笑顔で手を振ってから空の彼方へ……』
俺はそこで、リモコンを操作し……テレビの電源を切る。
改めてテレビの映像で確認すると、胸の奥が締め付けられるように痛む。
思うことは山のようにある。
だが、今は俺の感情よりも遥かに優先すべきことがあった。
「……三条、すまなかった」
光の消えたテレビ画面から視線を戻し、俺はソファの隣に座る三条へと声をかける。
「…………」
ニュースを見ている間、ずっと口を開くことなく、ただ虚ろな瞳でぼんやりと口を半開きにしていた彼女は……母さんが救出後、そのまま自宅まで運んできた。
やがて意識を取り戻した彼女は、ショックのせいか今日の戦いの記憶を失っていた。
俺は必死に止めたが、どうしても何があったのかを知りたがった彼女に……俺はテレビのニュースを見せるという選択を取った。
どうせ上手く誤魔化したところで、やがてどこかで真実を知ってしまう。
ならばここで現実を突きつけ、彼女のフォローをする方がいい。
「そう……アタシ、負けちゃったんだ」
微かに震える唇で、そう小さく漏らす三条。
「あんなにみっともなく……はっ、あはは……ばっかみたい」
徐々に敗北を実感し始めたのか、その目はみるみる内に潤みだしていく。
「……敗北はお前の責任じゃない。俺が事前に、お前が虫を苦手にしていることを知っておけば、何か対策が立てられたかもしれない。戦闘中に誤って何かを破壊した時の対処法を事前に話し合っておけば、あんな風にパニックは起こさなかったはずだ」
これは明らかな準備不足。そして俺の驕りとタイマンが招いた必然の結果だと言えよう。
三条の類まれな才能の開花に喜び、浮かれ……俺は冷静さを失っていた。
その結果、彼女にこんな思いをさせてしまった。
「アタシね……もっと、格好良くやれるって、思ってたのに」
「……ああ」



