俺の母さんは最強の魔法少女です

『魔法少女になるために』 ⑦

 三条は頷きながらスマホを取り出し、操作を始める。

 家族に夕飯は要らないという旨を伝えているのだろう。


「お前の頑張りに報いるにはこの程度じゃ足りないさ、もっと他の報酬を用意しないとな」

「報酬? そう言えば、アタシの望みはなんでも叶えてくれるんだっけ?」

「ああ。俺に叶えられる範囲に限るが」

「んー……だったら、どうしよっかな」


 三条は顎先に指を当て、小首を傾げながら唸り始める。

 そして、ハッとしたような顔になると。

 突然、両手の指を顔の前で絡ませ……もじもじと体を動かしながら、口を開く。


「ね、ねぇ。今度の休み……なんだけど。少し、買い物がしたいの」

「ああ、そのためのお金を用立てればいいのか?」

「ち、違うわよ! そうじゃなくて! アタシみたいな美人が一人で買い物してると、ナンパとか鬱陶しいし……それと買い物の荷物を持ってくれる人がいれば、助かるというか……」

「ああ、分かった。じゃあ、民間のボディガードを雇って……」

「分かってない! ああもう、気付きなさいよ、馬鹿!」


 三条はズンズンと俺の方へ迫ってくると、その勢いのまま俺を壁まで追い詰める。

 そしていつかみたいに、ドンッと両手を俺の左右の壁に突き出し……俺を完全に逃げられないように包囲。それから彼女は目がグルグル、顔は真っ赤の状態で……叫ぶ。


「アタシとデートしなさいっ!」

「お、おう……? 分かった」

「んっ……分かれば、よろしい」


 俺が頷くと、三条は納得したように両手を戻して俺を解放する。

 なんだ、三条の奴……俺と買い物に行きたかったのか。

 そのくらいならお安い御用……


「まぁまぁまぁ、青春ねぇ♡ 春菜ちゃんに、ライバル登場の予感かしら~♡」


 キッチンの方から顔を出し、ニマニマと微笑んでいる母さんと視線が合う。


「あ、いえっ! 違うんですっ! アタシは別に、その!」

「おほほほほほほほほほっ!」


 あたふたと狼狽える三条と、ただひたすらに笑い続ける母さん。

 その後、俺と三条の前に並べられたオムライスには……お揃いのバカでっかいハートマークが描かれていたことは、あえて言うまでもないのかもしれない。


 □


 普段、一ノ瀬家の夕飯は母と息子の二人だけで過ごすもの。

 しかしその日は、客人がいるせいか……普段よりも明るく、楽しくはしゃぐような声が微かに外まで漏れている。


「……良かった。凪ちゃん、元気そう」


 電気の点いていない部屋。

 月明かりだけに照らされるベランダから、隣家を見下ろしている一人の少女。


「今日は失敗しちゃったようだけど……あの姿、可愛かったなぁ」


 テレビで見た、魔法少女プラムサファイアの姿を思い出し、彼女は頬を緩める。

 しかし、金属の手すり棒を握る力は……ギリギリと強くなっていく。


「私だって、なれるもん。最強の魔法少女に……」


 少女は空を見上げ、漆黒の空に瞬く星々に祈りを込める。


「どうか、翔ちゃんの夢を叶えられる魔法少女になれますように」


 物心付いた頃から毎日ずっと、欠かさずに続けてきた祈り。

 しかし今日の彼女の声には、いつもの純真無垢な明るさは感じられないのであった。


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