俺の母さんは最強の魔法少女です
『魔法少女とそれを支える者』 ⑤
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地球と次元の壁を隔て、その裏側に存在する影の異世界――オルデランド。
空は光を失い、海は枯れ、大地はひび割れつつある……そんな崩壊の一途を辿る世界。
そこに住まう多くの者が未来に絶望し、刹那の幸福を得るがために他者を蹂躙し、略奪と殺戮を繰り返す。そんな救いのない世界において、種族の存続をかけて……新天地への移住を目的として行動する者たちがいた。
オルデランドの中心、虚海都市に居城を築く一大勢力。
その名も救済教団シャドウネクサス。
地球においては悪の組織シャドウネクサスと呼ばれる、怪人たちの集団である。
「オイオイオイ、今日もまた失敗かよ?」
シャドウネクサスの居城、最上階に用意された幹部専用の会議室。
円卓に足を乗せる傲慢な態度で、悪態を吐くのは獅子の顔を持つ屈強な怪人。
そしてそんな彼の視線の先には、同じく円卓に座する七人の怪人たちの姿がある。
「控えろ、ベリアス。神聖な会談の場を汚すつもりか」
魚を思わせる外見をした幹部の一人が、ベリアスと呼んだ怪人を諌めるように呟く。
しかし当のベリアスはそれを鼻で笑い、小馬鹿にしたように両肩を竦めてみせる。
「ハッ、何が神聖な会談だよ、ヴィレトール。他所の世界を侵略して、奪い取ろうってのがオレ様たちの目的なんだろうがよ」
「貴様……! 大義を掲げる我らの思想を愚弄するか!」
ヴィレトールは席を立ち上がり、腰に差した剣を引き抜こうと構える。
「あ? やんのか、テメェ」
それに応じるかのように、ベリアスも殺気を迸らせながら立ち上がろうとするが……
「はいはぁい♡ お二人とも、喧嘩なんてしちゃダメよぉ?」
パンッと大きく手を鳴らし、殺伐とした空気を霧散させたのは女性型の怪人。
頭部から伸びる二本の巻き角に加え、背中には悪魔を思わせる両翼。
うねうねと蠢く黒い尻尾の先端を指でなぞり、妖艶に笑う彼女の格好はほぼ全裸に近く、胸と股間を僅かに隠す程度のセクシーな装いであった。
「リリムラ、口を出すんじゃねぇよ。元はと言えば、テメェの失態が原因だろうが」
「あら、失態だなんて心外ね。今日のアレはちょっとした実験だったのよ」
「……地球への転送ゲートは一日に一回しか使用できません。それを強引に複数回起動させたせいで、ゲートに異常が発生しています。それが失態ではないとでも?」
幹部たちの責めるような鋭い視線が一斉にリリムラを射抜く。
「どうせ一日一回、ゲートを運用しても魔法少女に怪人を倒されるだけでしょ? それなら故障覚悟で、こっちの戦力を複数投入するのも悪くないわ」
しかし彼女は涼しい顔で、自分の正当性を淡々と語りだしていく。
「あの忌まわしいチェリーダイヤがいる限り、怪人一体じゃ何もできないもの」
「ですが、結局のところ今回も失敗に終わったのでしょう?」
「ええ、まーた新しい魔法少女が誕生したみたいね。それも、マギナルの反応的にはあのチェリーダイヤにも匹敵するとか」
リリムラの報告を受け、会議の場が僅かに騒然となる。
それも当然。シャドウネクサスを二十年にも渡って苦しませてきた魔法少女チェリーダイヤに匹敵する魔法少女が新たに登場したなど、彼らにとっては悪夢でしかない。
「くっ、チェリーダイヤさえ老いて引退すれば我々に勝機があると思っていたのですが」
「何を弱気なことを言ってやがる。オレ様が直接、あっちの世界に行くことができりゃあ、若作りババアなんざぶっ殺してやるよ」
「それができないから問題なんでしょう? 強大な力を持つ我々幹部クラスを転移させるゲートを生み出すには、かなりの時間とエネルギーが必要なんですから」
シャドウネクサスが最大戦力を用いて地球を侵略しない理由。
それは単純に、地球への転送手段の制限によるもの。仮に怪人の転送が自由に行えるようになった場合、地球への侵略はこれまでの数百倍ほどの規模になってしまう。
「しかも、今のマギナルが濃い地球じゃ妾たちの力は半分も発揮できないわよ? そんなんで、あのチェリーダイヤを倒せるとでも?」
「……チィッ、だったらどうするってんだよ!」
「それなんだけどぉ。妾にちょーっといい考えがあるのよねぇ」
「ほう? いい考え、ですか? 以前、貴方の部隊が開発した結界装置も、チェリーダイヤに破られたと報告を受けていますが?」
「そうねぇ。あの作戦も悪くなかったんだけど、結界の維持に使うエネルギーと魔法少女のパワーの相性が悪くて、強度を担保できないのが厄介なのよぉ」
「んなこたぁ、どうだっていい。いい考えってのを話しやがれ!」
「はいはい。今回現れたプラムサファイアとかいう魔法少女を見て思ったんだけどぉ。結局、魔法少女が活躍すればするほど地球人は希望を感じて、マギナルが活性化しちゃうでしょ?」
胸の谷間に自らの指を這わせ、艶めいた吐息と共に語るリリムラ。
「だったらぁ、逆転の発想よぉ。魔法少女を利用して地球人に絶望を与えればぁ、マギナルは一気に反転しちゃうと思わない?」
「魔法少女を利用? んなもん、どうやるってんだよ」
「ンフッ♡ そこは、ちゃーんと考えてあるわよぉ」
黒い笑みを浮かべ、彼女が胸の谷間の中から取り出したのは小さな結晶。
それは一見すると、魔法少女の覚醒に必要なマギプラに酷似しているのだが……その色は黒く濁り、見ているだけで目を逸らしたくなるほどの邪気を纏っているようであった。
「本当は妾が直接出向きたいけどぉ、ゲートを通れないんじゃしょうがないしぃ……ここは可愛い妹に託しちゃおうかしら」
リリムラが黒き結晶をピンッと指で弾くと、それは彼女の背後に控える女性の手に収まる。
「メルルークちゃーん。バッチリ、計画通りにヤっちゃってくれる?」
「はい、お姉様♡ このメルにお任せくださいまし♡」
結晶を強く握り、舌なめずりをしながら答えたのはリリムラと同タイプの怪人メルルーク。
彼女はウェーブがかった白い髪と豊満な胸を揺らし、幹部会議室を後にする。
「まぁ、後は結果を楽しみに待ちましょ♡ 上手くいけば、地球は妾たちのモノ♡」
静まり返る会議室。これまで黙って成り行きを見守っていた幹部たちも異論はないようで、誰もリリムラの作戦に口を挟もうとはしない。
影の異世界オルデランドを代表する強大な力を持った幹部たち。
そんな彼らの侵略の牙は、少しずつではあるが確実に……地球に届きつつあるのであった。



