テスターですけど、このネトゲ学園が難しすぎるとか言うのやめれる? 「これ絶対クリアできないんですけど、責任とれそ?」
一章 ①
バイザー越しの視界を埋め尽くすように、巨大な腕が迫ってくる。
右から聞こえる風切り音に反射的に身を屈めると、優秀なトラッキングセンサーはタイムラグなく反応。金属製の剛腕が猛烈な勢いで頭上を通過していった。
だがくぐり抜けた先もまた危険地帯。上空から降り注ぐのは当たれば終わりの大範囲クラスター爆弾の弾幕。
斜め上に視線を向け、落ちてくる爆弾の順序を確認。爆発エフェクトの隙間を駆け抜ける。
「よっし入ったぁっ! さあさあ、足元がお留守ですよぉぉぉっ!」
まるでSF映画から飛び出してきたような大型殺戮兵器、ピースクリエイターの直下に滑り込んだ。もう上を見る必要はない。攻撃だって当て放題だ!
いざ反撃の時! このやり過ぎボスめ! たっぷりわからせてやんよ!
──すんご、爆撃食らってないぞ
──は? 爆撃の足元安置、潰してなかったん?
──だって! だってぇ! 絵がおかしくなるんだもぉん!
「はっはっは、気持ちはわかるよっ!」
自動で読み上げられるコメントに返事をしながら、関節部へと雷属性の剣を叩きつける。
迸る雷のエフェクトと共に派手な発光現象。弱点攻撃のボーナスダメージが敵の耐久度を加速度的に減らしていく。
──爆撃がボスの身体を突き抜けて足元に着弾してたら、明らかにおかしいでしょぉ!?
──だからってボスの上で爆発させるのもいかんでしょ
「いやいや素晴らしいと思うよ! そのプロ根性、使わせてもらうけどねっ!」
はっはっは、安置は大型ボス戦の華! あっていい、あっていい!
──ああ……私が設定変えなかったせいだぁ……ごめんね、みんなぁ……
──待て待て待て、確かに爆撃は当たらないが、安置なんかじゃないからな!?
──足元は常に蹴りと踏みつけに誘導レーザーが飛んでくる超危険地帯
──普通に考えて避けられるわけがないんですよねぇ
──避けとるやろがい!
「ここまで来たのにこんな攻撃食らってられますかい! こちとらテスターやぞ!」
俺を狙って降り注ぐ爆撃が弱点の頭部に当たるよう誘導しながら、敵の予備動作から攻撃を予測する。
蹴りは横に、踏みつけは前後に、レーザーは発射タイミングで軸をズラして回避。これぐらいなら初心者にも避けられるってもんだ。
──ああ! 減ってる、うちの子の体力がドンドン減ってるゥ!
──このフェーズまだ最後までやってないの! せめてクラスター一斉投射まで待って!
「誰が待つかっ! これでトドメッ!」
敵のHPゲージがパリンと割れ、オレンジ色のゲージが赤色へと変わる。
「天より降る絶望の未来フェーズクリアッ!」
──ぉぉん! 苦労して作った攻撃モーションが発動もせずにぃ!
──みんなに戦争の悲惨さを学んでもらう地獄のフェーズだったのに
「洒落になってないんだよ! 学びどころかトラウマを与えようとすんなっ!?」
画面全てを埋め尽くす回避不能の爆撃には、戦争の理不尽さが詰まってたと思うけどね!?
そして砕かれた希望、と視界に文字が映し出され、赤くなったゲージが強く輝く。
さあさあ、ここからが本番だ。
これが最後のフェーズ! 抜ければ俺の勝ち!
「さあラストォッ! ここまでノーミス、もらったぞピースクリエイター!」
──やめてぇえええええ!
──最初の三年はこれでやってく予定のラスボスなのぉぉぉぉぉ
──まだや! ワイらの最終フェーズが簡単にやられるはずがないやろ!
──それフラグゥゥゥ!
「見てろ、俺の完全打開を!」
大型ボスの周囲に膨大な数のビットが出現し、ほとんど隙間のないビームの弾幕を打ち放つ。
俺は臆することなく七色の光の中へと踏み込んだ。
身体を捻ってビームを回避し、最後の一撃を強く振り切る。
赤色のゲージが割れ、ついにボスのHP表示そのものが爆発しながら破壊された。
「撃破ァァァァァッ! やってやったぞぉぉぉぉっ!」
よぉぉぉぉぉっし! 細かいミスはあったけど被弾ゼロ!
ノーミス! ノーダメ! ノーアイテム!
──ノォォォォンッ!
──ノーダメまでやられるともう笑うしかない
「これでラスボス撃破! ノーダメノーアイテム、初期武器縛りまでついでに達成だ!」
──半年かけて作った最強ボスちゃんがぁ!
──もうおかしくなっちゃうのおおお
──せめて強ビルド使って戦えよぉ! なんで直剣縛りなんだよぉ!
「ラスボスを初期武器で倒すのは、やり込みとしては初歩の初歩だからね!」
──なんでこいつ未攻略のラスボスで縛りプレイするの? なんなの?
──まあ理想装備使って初見撃破されたらもっと泣いてたけど
そしてボスを倒したことを証明するかのように、荘厳なBGMと共に、画面の下部へメッセージが表示された。
【実績:未観測の未来へ】【難易度☆☆☆☆】
ピースクリエイターを完全撃破した証。
偽りの平和ではなく、あなた達の望む未来へ。
【実績:この世界の全てを】【難易度☆☆☆☆☆】
全ての実績を達成した証。
世界の全てにあなたの足跡が刻まれた。それでもまだ、きっとたくさんの未知がある。
「よーっし! 全実績解除を確認! これでフルコンプだな!」
──ついにやられたか……
──マスターアップ前にスッキリ終わった感じはあるけどさあ
「いやー、発売前にちゃんと倒せて本当に嬉しいよ!」
と、喜んではみたものの。
クリアの達成感、脳内麻薬で上がったテンションも、段々と落ち着いてくる。
まあわかってるんだ、こんなの本当は大したことじゃないって。
「いやー、みんな1勝200敗の雑魚テスターを盛り上げてくれてありがとう!」
実はこれ、コツが摑めるまで死んではリトライ死んではリトライを繰り返した末に、ようやくもぎ取った一勝なんだよね。
最後の戦いだけ見ればいい感じに倒せてるけど、そこまでの無様な死にっぷりを考えると別にドヤれるもんじゃない。
──ざ、こ……? 知らない単語ですね……?
──はぁぁぁ、なんで最終フェーズあんなあっさりクリアしてしまうん?
──最終フェーズはランダム性が高く絶対に被弾する、安定させないためのギミックなのに
「え、最終が一番楽だったけど?」
──は? ふざけないで?
──ここまで進んで疲れた挑戦者に押し付ける完全フィジカルフェーズが一番楽だったと?
──待てや、こいつ相手にフィジカルチャレンジをお出してどうすんねん!
──それはそうだけど、ものには限度があると思うやん
「俺じゃなくても慣れれば避けられるでしょ。いけるいける」
──はあ? こっちは社内テスターから怨嗟のファンメが来とるんやぞ?
──さすがにやり過ぎ弱体化はよという温かいお言葉を頂いてる
「それ本当に仕様確定していいの?」
視界の端を流れるコメントの中、煙を吹いていたピースクリエイターがついに爆発し、その場に崩れ落ちた。
「ピースクリエイターの【撃破証明】を確認。そうか──勝ってしまったか」
と、すぐ近くから聞こえた声。
顔を向けると、白衣姿の女性アバターがこちらへ歩み寄っていた。
「あれ、珍しいな、叔母さん。わざわざインして来るなんて」
「おばさんと呼ぶな。……今回ばかりはさすがに出向きもする」
俺の母さんの妹、要するに叔母さんなんだけど、そう呼ぶといつも微妙な顔をされる。
彼女は大きく息を吐くような動作をすると、視界の端にあるのだろうコメント欄を睨んだ。
「私は開発主任として指示をしたはずだぞ? どうして王我があのラスボスに挑んでいる?」
──記憶にございません
──俺たちぃ、言語というのがよくわからなくてですねぇ
──なんだったっけなあ? 強いから頑張ってもらおう、だっけ?



