テスターですけど、このネトゲ学園が難しすぎるとか言うのやめれる? 「これ絶対クリアできないんですけど、責任とれそ?」

一章 ②

「あまりにも強すぎるから、王我がテストをする前に調整しろと言ったんだ!」

「え、弱体化の予定なんてあったの?」

「当然だ! あんなトラウマを与えるような弾幕、実装するはずがあるか!」

「そうなん? でも開発のみなさんは──」


 ──甥っ子君はそのままで勝ってるやん

 ──あんなに苦労して作ったピスクリちゃん、どうして一日でやられてしまうん?

 ──せめて理論値レベルの全力ビルドであってくれれば

 ──挑戦可能最低レベル、装備はオール店売り相当、エンチャントはノーマルまで!

 ──強スキルはなんかズルいから使わない

 ──い つ も の

 ──かなしい現実


「全然手を抜く気はなかったみたいだけど」

「こいつらは……!」


 がりがりと頭をかいて、叔母さんがコメントを睨みつける。


「今回ばかりは開発陣で【撃破証明】の出せる敵を実装しろと、散々言ったというのに! 失敗し続けた上に恨み言とは──恥を知れ!」


 ──それだけ愛がこもってるんすよ

 ──だって役員殿がどれだけ強くても絶対倒すって言ったからぁ


「あの人の言うことをまともに受け取るな」


 ──そんなー

 ──ワイら開発チームの統括責任者なんやがなあ

 コメント勢がしょんぼりとした絵文字を流してる。

 画面に流れている文字は俺が流している配信へのコメントだ。

 ただインターネット上に放送しているわけじゃない。

 俺のプレイ──テストプレイを確認していた開発チームの、リアルタイムコメントだった。


 俺はこの数年、『プロジェクト:R』というゲームのベータテスターをしてる。

 Rっていうのは最新のVR技術をフル活用した、鋭意開発中のオンラインアクションRPG。

 自分の体の動きをゲーム内のアバターがトレースし、まるで本当にゲームの中に入っているようにリアルな体験ができる、という挑戦的なゲームだ。

 もちろん五感を再現なんてしてないので安心して遊べるけど、バイザー越しのリアルなグラフィックと操作感、コントローラーとセンサーへの細かな振動で、本当にその場に居るのだと錯覚しそうになるぐらいのクオリティなんだ。

 長くテスターをしてるけど、いつ発売しても大人気になると確信してる。


「でも、今回もいいボスだったと思うよ」


 みんながしょんぼりしてるから、というわけじゃないけど、仮にもテスターとしてフィードバックをしておく。


「デザイン、曲、エフェクトどれも素晴らしいけど、プレイヤーとして言うならソロかレイドかで大きくプレイフィールが変わりそうなところが素敵だと思う」


 ──せやろ? せやろ?

 ──さすが甥っ子君はよーわかっとる

 ──レイドの楽しさとソロの難しさがテーマなんよ

 確認のためか、正面に設置された大型ウインドウに俺と大型ボスの戦闘が映し出された。

 うーん、こうしてみるとまだまだ粗が多い。


「もっと上手くなりたかったなあ、ちょっと恥ずかしい」


 ──などと供述しており

 ──何が物足らないって言うねんおかしいやろ

 ──こいつに普通の感覚を期待するな


「そこまで言うとさすがにパワハラでは!?」


 最後まで不甲斐ないテスターだったなっていう反省だよ!?

 普通のテストならもっと操作の上手いプレイヤーがたくさんいるんだろうけど、このテストは公開されたオープンなものではなく、関係者だけで行われる内々のもの。

 正しくは社内ベータって呼ばれているらしい。

 普通なら俺が参加できるようなものじゃないんだけど、想定ユーザーが高校生だってことで、開発スタッフの叔母さんが声をかけてくれたんだ。

 つまり俺の腕がプレイヤーの平均値ぐらいだから、これまでテスターができていたってわけ。


「実際のところ、今回はスケジュールがギリギリの状態だった。ソロクリアが可能なボスであるという【撃破証明】が必要だったのも事実。本当に助かったぞ」

「気にしなくていいって。むしろ暇なぐらいだし」


 実際、特にやることもなかったので声がかかって嬉しかったぐらいだ。

 それに──このボスに関われなかったのは、少し心残りだった。


「ピースクリイターは、やっと完成したリリース段階でのラスボスなんだろ。こいつを倒さずに終わるのは心残りだったし、ね」


 そう、俺がテスターとして参加できるのはこれが最後なのだ。


「最後、か……。本当にテストプレイは辞めるつもりなのか?」

「そりゃもう! 俺は次のゲームに全力を注ぐつもりだからな!」


 なんせ来週、これから通う高校の入学式がある。

 待ちに待った新しい生活が始まるんだ。


「あの高倍率を勝ち抜いて『オーバーカム学園』の初年度入学生になったんだ! 本気でやり込まないなんてありえないだろ!」

「……オーバーカム、世界初の『オンラインゲーム上に設立された学校』か」

「そう! 俺はあのゲームを、あの学園を限界までやり込むって決めてるんだ!」


 オーバーカム学園。

 教育環境の標準化、個人の特性にあわせた教育、海外居住者への日本語教育。

 あれやこれやの目的のもと、新しい通信制高校の形として、なんとオンラインゲーム上に新設された学園だ。

 最新のトラッキング技術で身体の動作や表情を反映させ、はるか遠くにいる同級生とも現実で顔を合わせているような感覚で学校生活を送れるという、新時代の通信制学校……なのだと、公式には説明されてる。

 しかしその紹介動画は、血湧き肉躍るバトルや、ドキドキのダンジョン探検、楽しい生産活動にちょっとしたロマンスまで、勉強はどこへいったんだというぐらいに楽しそうな要素ばかり。

 進路に悩んでいた俺にとって、これしかないって進学先だった。

 そして似たような人はたくさんいたのか、1000人も用意された入学枠に対して、応募はなんと数万人規模。

 俺みたいに進学先として選んだ人だけじゃなく、すでに高校を卒業した人や、配信者なんかもたくさん応募したけど──その大半が弾かれたとか。

 おそらく挑戦できるのは一生の内で三年間だけ。

 やるなら今しかない!


「プロジェクトRをやり込んだおかげで、VRアクションの基本はつかめた気がする。来週からはオーバーカム一本でいくよ!」

「そ、そう、か……」

「あ、もちろんRが完成したら絶対に買うから。みんなの作品を楽しみにしてる」

「……あー、うむ、えー、んん……」

「……どしたん?」


 なんでそんな微妙な顔で口ごもってるの?


「……王我、やはりもう少しテスターを続けないか? これからはバイト代も出すし、色々と融通もきかせてやれると思うんだ」

「……もしかしてテスター、足りてない?」

「それは──まあ、そう、だな、足りていない、ように思う、な……」


 ──千葉主任、めっちゃ言いにくそうで草

 ──理由はそれだけじゃないんすよねえ

 コメント欄もなんか様子がおかしいし、何か別の理由がありそうだなー。


「なんだよー、いまさら隠し事なんてする仲じゃないだろ。話してくれよ」

「……くっ、こんな純真な顔をした甥に、言えるものか……!」

「えぇ……そこまで嫌ならいいけどさ……」


 ちゃんと理解してるってわけじゃないけど、最近の開発チームは色々と慌ただしい。

 もしかしたらそろそろ完成させなきゃいけなくて、デスマーチってやつなのか。


「テスターの手が足りないなら、もう少し手伝っていくよ。俺にできることない?」

「そう、だな……ああ、一つ頼みたいことがある」

「なになに?」

「アバターチェック、だ」