テスターですけど、このネトゲ学園が難しすぎるとか言うのやめれる? 「これ絶対クリアできないんですけど、責任とれそ?」
二章 ①
オーバーカム学園、入学式当日。
俺は3年間通っていたいつもの建物へと、変わらず訪れていた。
さらに追加で3年間、お世話になります!
「おっはようございまーす!」
「あら王我君、随分と早いのね、やる気十分じゃない」
見慣れた受付のお姉さんに挨拶すると、意外そうな顔をされてしまった。
そりゃやる気に満ちてるよ! こっちは夢と希望にあふれた新入生だからね!
「今日が入学式ですからね! 緊張もしてますけど、まあウッキウキですよ!」
「だからって、まだ式まで一時間はあるわよ?」
「その一時間でしっかりオーバーカムの様子を確認しようと思いまして! テストと違うところがあるのか、気になるじゃないですか!」
「……前向きねえ、王我君」
「ポジティブさには自信あるんで!」
一人で鬱々とする、みたいなタイプじゃないからね!
「それじゃあスタッフパスは更新になるから。今日からはこっちを使ってね」
今までの『第二開発室』と書かれたパスの代わりに『オーバーカム本校』と書かれたパスが戻ってきた。おお、ここは本当にオーバーカム学園の建物なんだ。
「キャプチャールームはいつも通り、Aのケージを使ってね。専用になってるから、いつでも使って平気よ」
「うい、助かります」
「それから、これ。学生証ね。普通は郵送だけど、この場で渡しちゃうわ」
「どもです!」
どこか未来的なデザインの小さな手帳。
オーバーカム、と印刷された表面をそっと撫でると、これから自分が入学するんだって実感がわいてくる。
「入学おめでとう。楽しい三年間をね」
「今後ともお世話になります!」
お姉さんに見送られて校内に足を踏み入れた。
「まあ、いつも通りだよね」
使い慣れたケージはまったくもっていつも通り。
衝撃吸収を兼ねた柔らかい素材で作られた灰色の壁と、足元を覆う極小ベアリング。そして移動式の椅子やテーブルが隅っこに重ねられた、見慣れた接続室だ。
俺が入室したことでバイザーが自動的にペアリングされ、天井のプロジェクターが稼働。
現在の時間や推奨アプリなど、デフォルトの待機画面が映し出された。
うん、何もかもが知っている光景だ。だけど、それでも。
「いやー、やっぱり楽しみだね!」
そりゃそうだ。テストプレイヤーとして何年も親しんで、俺なりに意見も出して、きっとここならみんなが楽しんでくれると思っていた世界なんだ。
そこが憧れのオーバーカムだと言われたら、ワクワクしちゃうに決まってるじゃないか。
「好きだからあんなに頑張ってテストに参加してたんだ。楽しいからこそ何度やられても挑んでたんだ」
俺はただボスと戦って、クエストを攻略して、意見や感想を伝えてきただけだ。
でもこの世界には俺の想いもしっかりと残っていて、すごく愛着だってある。
「俺はコンプリート済みのこの学校に、新入生として通うんだ!」
普通の新入生と同じように、この世界を楽しんでやる!
テスターだけど一年生でもあるんだからな!
††† ††† †††
──バイザーを覆った白い光が消えると、そこはもうファンタジーの世界だった。
デフォルトのスタート地点になっているのは大理石で造られた噴水広間。
美しい噴水の描く水流の軌跡は、このゲームのグラフィックの美しさを強調しているようで、気合いを入れて用意したのが伝わってくる。
そして広間の先にお城のような建物がそびえ立っている。
おそらくはあれがオーバーカムの校舎。これから通うことになる学び舎だ。
「……うーん、やっぱ知ってる」
魔法学校か何かだろうなーと思ってたけど、ここがオーバーカムの校舎だったのか。
ただのフィールドじゃなかったとは。完全に騙されてたぞ。
【実績:冒険の始まり】【難易度☆】
オーバーカム学園へ入学した証。
冒険の旅は今始まった。入学おめでとう!
「お、実績も解除された」
名前は同じだけど説明が変わってる。
内容はゲーム準拠ってより、学校に合わせているみたいだ。
そんなことを考えながら、噴水の横を通り過ぎたその時。
「……んん?」
ふと、なんだか嫌な感じがした。
微かに聞こえる風切り音と、それが近づいてくるような予感。
具体的に言うと、超デカイ山脈エネミー、アースウェイブドラゴンが上空から大岩を落とす攻撃をしてきた時みたいな感じ。
こんなところに大ボスがいるわけないし、どうしてそんな変な感じが──
「ごめんなさいいいいい! 避けてええええええっ!」
──声が聞こえた。
直上、高速接近、回避。
「ほい」
「んあぶっ!?」
さっと後ろに下がった瞬間、目の前にべちーんと、女の子のアバターが落ちてきた。
おお、本当に大岩みたいなのが落ちてきた。風切り音がした理由はそれか。
「うう、本当に避けるのってアリなんですか……?」
「いや避けるでしょ。落下ダメージはないけど、落下攻撃はあるんだぞ、このゲーム」
「攻撃なんてしてないですよー、はなはだ失礼ですねー」
不満げに言って、少女がよろよろと立ち上がる。
まだ見慣れないオーバーカムの制服に、さらりと流れる銀の糸。
作り物めいたほどに整ったその容姿は、一度しか会っていないのに脳裏へ刻み込まれている。
「……リア、なんで上から降ってきたの?」
「ううう、ラグ君、聞いてくださいよぉ」
「やべ、これ聞いちゃダメなやつだったかも」
涙目でこちらへすがりつくリアから微妙に距離を取り、俺は小さく息を吐いた。
もしかしたら会えるかも、なんて思っていたけど、まさかログイン直後に空から降ってくるなんて。
「でも、会えて嬉しいですよ、ラグ君」
その美少女フェイスをにっこにこの笑みで彩って、リアが言う。
まあ、うん、会えたのはもちろん嬉しいんだけど。
「もうちょい普通の再会が良かったなあ……」
「選べるんだったら私だってもう少し美少女な再会をしてましたよ!」
美少女な再会ってなんなんだよ!
「なにか面白い場所があるんじゃないかなーって探検してたら、いい感じに登れそうなところがありまして。さっきまで頑張って登ってたんですよ」
落下した精神的ショックが残っているのか、リアはぷるぷると脚を震わせて言った。
「登れそうなところ……?」
「あ、気になります? ならば教えてあげましょう!」
リアはドヤッと胸を張り、校舎の上階に指を差し向ける。
「校舎三階の北側の窓から出ると小さな屋根の上を進めて、そこから西側の壁を伝うとあそこの尖塔に行けるんです。そこに壁に登れそうな段差とか、足場がついてるんですよ!」
「ああ、塔の外周を登るやつね、はいはい」
あったあった、テストプレイしたよ。懐かしいなあ。
「むっ、やっぱり知ってましたか。さすがはラグ君ですね」
「さすがの意味もよくわからんけど」
まだ会ったのは二回目だっていうのに、謎の信頼を向けられてる。
「私も頑張って登ってたんですけど、上に行くとどんどん風が強くなって、動くのが難しくて。ジャンプに失敗したら風に流されてこんなところまで……」
「あー、ワンミスしたら下まで行くようになってるんだよな。完全に意図的だね」
「上には絶対に何かありますよ! ふっふっふ、楽しみですね!」
楽しそうに両手を握るリア。俺はただのテストプレイヤーだけど、こうしてギミックを楽しんでもらうと嬉しくなるね。
「うん、頑張ってね。じゃ、俺は行くから」
そう挨拶をして、俺も探索に戻ろうとして。
「一旦待ちましょう、なんで適当に別れようとしてるんですか」
なんか止められた。



