テスターですけど、このネトゲ学園が難しすぎるとか言うのやめれる? 「これ絶対クリアできないんですけど、責任とれそ?」
二章 ②
前に立ちふさがる感じで、それはもう全力でストップがかかった。
「ええと、まだ何か用だった?」
「用とかそういう話じゃないでしょう!? またこうして運命的に出会ったんですよ! なんで爆速でフラグ折ろうとしてるんですか!」
「いやあ、あんまこっちから距離詰めるのもアレかなって」
「私ってそんなに近寄りにくい空気とか出してますか!? リアちゃんはオタクに優しい美少女でやらせてもらってるんですけど!?」
「むしろ親近感がありすぎて正しい距離がわかんないの!」
なんでこの子、こんなにぐいぐい迫ってくんの?
それがわからないから逆に怖いんだけど。
「そりゃ距離だって近くなりますよ! 初手からなんだか異様に強い同級生とフラグが立ったんですから、絶対に仲間に引き込まないと!」
あ、やっぱりこの子ヤバいやつだわ。
「俺ちょっと約束があるからここで失礼するな」
「入学式までまだまだ時間があるのに約束!? 絶対に噓ですよね!?」
「ヤバい人には関わらないって家族と約束してて」
「こんな美少女のどこがヤバいって言うんですか!」
「自分で自分を美少女って言い張るヤツはヤバいに決まってるだろ!」
アバターがどんだけ美少女でも、信用なんてできないの!
「ふっ、でも残念でしたね! これだけ楽しくお話しした以上、入学式までの暇つぶしぐらいなら付き合う気になってるはずです! もう逃げられませんよ!」
「それ言語化されたらなんか納得できないなあ!」
とは言うものの。
まだまともな友達も居ないこの学園で、こうして馬鹿みたいな話ができる唯一の相手だ。
アバターのグラも可愛いし、声だってやたらと愛らしいし、何よりも一緒にいて面白いから──まあ、仕方ないか。
「おーけーわかった、リアと一緒に行くのが一番楽しそうだ。付き合わせてもらうよ」
「話がわかりますねラグ君! さあ行きますよ、超高難度アスレチックに!」
……超高難度アスレチック?
このゲームのキャラコンギミックは全部やったけど、難しいのなんてあったっけ?
「見てください、まさに登れってアピールしてる感じですよね!」
リアの案内に従い、屋根を伝うようにしてたどり着いたその場所。
高い尖塔の根本には、あからさまに登れそうな段差が用意されていた。
「うーん、間違いなく登れるやつだね」
「こんなの行くしかないですよね! さあラグ君、行きますよ!」
「うっし、登るか!」
コントローラーを操作、足場のそばに近づいた、その時。
──トラッキングモード指定領域です フルトラッキング以上のモードへ変更してください
見知らぬメッセージと共に画面の移動がぴたりと止まった。
「あ、そっか。フルトラ指定領域か」
「そうなんですよ! 最悪でしょう!? 作った人の性格を疑いますよね!?」
「うぐっ!?」
い、いや、俺が考えたわけじゃないよ!? ないんだけど、ね!?
面白いなあ、って普通にテストしてた俺へもまあまあの精神的ダメージが!
「授業中はフェイトラか、いいとこハーフじゃないですか! なのにここ、フルトラッキング以上が条件なんですよ!」
リアの言うフェイトラは、多分フェイストラッキング。表情だけがトレースされる、授業中なんかに便利なモードだ。
ハーフトラッキングは上半身のみ。移動はコントローラーで制御しつつ、上半身だけは動かして戦闘する、みたいなことが可能になる。
そしてフルトラッキング以上、というのは──
「自分の身体をちゃんと動かしてジャンプして、この塔の上まで行くギミックなんだよなあ」
「そういうことです! そりゃリアちゃんだって落ちてきますよ!」
「だからと言って空から人が落ちてきたのは相当怖かったけど……」
でも、色々と謎がとけたよ。
プロジェクトRとしてテストプレイをしている時は、常にフルトラッキングか、フリームーブのオーバートラッキングモードを使っていた。
でもここがオーバーカム、つまり学園だっていうなら、普段はフェイストラッキングで十分だよなー、とは思ってたんだ。
「こうしてフルトラを強制する空間を用意して、生徒が使い慣れるようにしてるんだなー」
「フルトラVRで高所にチャレンジとか、スパルタですけどねえ」
それはそう。
あともう一つ、疑問が解決した。
「リアがどうしてこの場所を知ってるのかもわかったよ」
「……えっ?」
ビクッと震えるリア。
「初めて会った時、アバターチェック中のリアがなぜか外にいて、敵と戦ってただろ? なんでだろーって思ってたんだよ」
そう、あの日リアはなぜか校舎の外に居た。
しかも飛んでいくビットにタゲられてもいた。
さらにトラッキングモードもフルトラッキングか、それ以上に思えた。
それが意味するところは。
「リア、アバターチェックの間こっそり校舎をうろついて、ここに気づいたんだろ」
「す、鋭いですね、ラグ君」
罪を暴かれたリアだが、まったく怯む様子もなく胸を張る。
「だって誰よりも早くオーバーカムを探検できる機会、使わないと損じゃないですか! 私に罪はありませんし、あったとしても可愛いので無罪です!」
「可愛いってそこまで無敵の属性だったかなあ」
スカートが風にゆらめくその姿は、スクショしたいぐらいには綺麗だけども。
「……まあ私からすると、助けに来たラグ君がもっと謎の存在なんですけどね?」
「アッ……そ、そっすね……」
あああそうだった! 余計なこと言った!
「い、いやその、あれは別に大した理由はなくて……」
「すっごく重い理由があるって顔してますけど?」
し、知らないなあ。
テストプレイヤーをしていてすでにコンプ済みだなんて、あるはずないもんなあ!
「ふんふん……わかりました。いいでしょう」
俺の適当な誤魔化しに、リアはなぜかむしろ満足げに言う。
なんだか俺に厄介な事情がある方が嬉しいような、そんな雰囲気。
「まあ今だけは気にしないであげましょう。とりあえず、今は!」
「それ後で問い詰めるって意味じゃない?」
「というわけで後からついていきますので、ラグ君お先にどうそ!」
「ったくもう。ま、やってみようか」
キャラコンの復習はしたかったところだしね。
こういうコンテンツをやっとくのは悪くない。
「モードチェンジ、オーバートラッキング」
ボイスコマンドでモード変更。フリームーブのオーバートラッキングモードに。
ベアリングが微かに震え、固定が外れたのがわかる。
「…………」
「それじゃあ行こう──って、どしたん、そんな微妙な顔して」
「いえ、なんでもありません。さあさあお手本を!」
「手本が必要かはわからないけど。行くよー」
別に気合いを入れるほどのことでもない。
少しの荷重移動を助走代わりに、軽く飛んで眼の前の足場へ。
「ほいほいほいっ、と」
次、次、次。連続で飛んで足場を渡っていく。
ええと、この次はどれだっけ? ああ、ちょい下か。
「ちょっ、待っ、早──」
リアはまだVR環境のジャンプに不慣れなのか、よろよろとジャンプして追いかけてくる。
「落ち着いて。自分が跳んでるわけじゃなく、アバターがジャンプしてるだけだ。どのぐらいの動作でどのぐらい動くのか、ここで把握するつもりでゆっくりやろう」
「ラグ君、どうしてそんなにベテラン感あるんですかね!?」
「それっぽいこと言ってるだけで根拠とかないから」
「絶対に噓ですって、説得力がすごいですよ!?」
あれやこれやと話しながら、リアの前でルートを示すように跳んで見せる。リアは何度も足を止めながらも、器用についてきた。



