テスターですけど、このネトゲ学園が難しすぎるとか言うのやめれる? 「これ絶対クリアできないんですけど、責任とれそ?」
二章 ③
うーん、これはこれでネタバレなのかな?
でも大した難易度じゃない、ちょっとしたミニクエストだ。これぐらいならいい、かな。
「お、ここはちょっと山場かな。次の足場が狭いから連続ジャンプになる。中ジャンプ、止まらず大ジャンプ、ぐらいの気持ちで行こう。こんな感じ」
「あ、あのっ!? わけわかんないジャンプをノータイムでやらないでくれます!?」
「そんな難しくないって。いけるいける」
ほらおいでおいで、と手招きすると、リアはぐっと息を吸い込んだ。
どうも体力がないみたいで、リアの息は荒く、肩が小さく上下してる。
時間じゃなくスタミナの問題でこれがラストチャンスかもしれないなあ……プレイヤーの体力問題、もうちょっと意識した方が良かったかも。
「ふぅ……よし! 何もかも完璧なパーフェクト美少女として、こんなところで落ちてられません! やってみせますよ!」
「美少女とキャラコンに関係はないと思うけど、いいとこ見せてくれー」
「いきまーす!」
リアは短い助走をしてジャンプ。小さな足場に足を乗せて、そのままもう一度ジャンプを──あっ、これヤバい。
「ひうっ!? あ、足場、わわわっっ?」
無意識だろう、一歩踏み出してそこから飛ぼうとしたリアだけど、その一歩分のスペースすら、その足場には残されていなかった。
虚空に片足を踏み出したリアがゆっくりとバランスを崩して落ちていく。
うーん、失敗かあ。
また登ろうにも、リアの体力は限界だろうし……可哀想かな。
「しゃーない、上に飛ばすぞ!」
「へっ? ちょっとラグ君、なんで下に──っ!?」
足場を蹴って空中に飛び出し、リアの下に滑り込む。
センサーが認識している俺の姿勢と、アバターの姿勢が大きくズレる。一気に操作が効かなくなるけど、それを無理矢理に調整。
「そーれっ!」
「わっ、ええぇぇぇっ!?」
壁を蹴って一瞬だけ対空し、その瞬間にリアの身体を上へと弾き飛ばした。
高速で落下していく視界の中で、彼女が足場に着地するのが見える。
おー、上手く行った! いい空中キャラコンだったな、満足満足。
「ラグくーん! 私、ずっとずっと待ってますからねー!」
上空から悲痛な声が響く中、俺は背中から強く大地に叩きつけられたのだった。
【実績:これがファンタジーで良かったね】【難易度☆】
高所から落下して生存した証。
オーバーカム以外では絶対に許されない蛮勇。
††† ††† †††
「ラグ君……惜しい人を亡くしました……。っていうかあの空中で姿勢制御してたの、なんなんですか? ものすごく人外の動きでいっそ怖かったんですけど?」
一分もかからず戻ってくると、リアはその場に座り込んでぶつぶつと呟いていた。
「誰が怖いんだよ、身を呈して助けたっていうのに」
「は? えっ、噓っ!? も、もう戻ってきたんですか!?」
「なるべく急いだから。あんま待たせなかったなら良かったよ」
驚くぐらいに速く来られたなら頑張った甲斐があるね!
「むしろ校舎の階段を登ってるぐらいの時間では!? なんでもう着いてるんですかね!?」
「パルクールと壁キックで一気に屋根まで行って、後はショートカットしながらささっと登ってきた感じ」
これはキャラコンの訓練になるジャンプアクションのミニクエスト。
一人で何度も挑戦して、タイムアタックもやってみたからね。
「上手い人だとは思ってましたけど、ちょっと想像してないぐらいにすごいですね、ラグ君」
「そんなことないよ、誰でもできるって」
「ラグ君の世界って超人しかいない特殊な空間だったりします?」
練習すれば誰でもできるって! リアは初見だから難しく感じるだけ!
説明したいけど、さすがに言うわけにはいかないよなあ。
「でも、戻ってくれて良かったです。さあ、一番上まで行きましょう!」
「おっけー。でも……」
この先って何かあったっけ?
普通に屋上があるだけだったと思うんだけど。
そんな疑問を抱きながら、俺は残りのジャンプをこなしていった。
「到着ー! ありがとうございますラグ君! こんなの一人じゃ絶対に無理でしたよー!」
「これぐらいなら誰でもできるって」
「そんな簡単なアクションじゃなかったと思うんですけど……」
言いながら、リアは塔の屋上をふらふらと歩き回る。
「何を探してるんだ? というか、本当に何を目的にこんな場所へ……?」
そしてある一点で、彼女の動きが止まった。
「あ……ここです! 見てください、ラグ君!」
「ここ……?」
リアの隣に立って、視線を合わせるようにして、塔の外へと目を向ける。
そこには朝日に照らされて眩く輝く、美しいオーバーカムの世界があった。
「これは……綺麗、だ……」
広大な学園。遠く見える海や、白く彩られた高山。
流れる大河も、広大な砂漠も、人の住まぬ荒れ地も。
どこもかしこも見覚えがあるけれど──しかし、その全てに行けるんだって、俺は知ってる。
「こんなの見たら、ワクワクしちゃうな」
このゲームはもうコンプリートしてる。
でも、これだけ広い世界が俺を待ってる。
みんなと作り上げたこの世界、飽きている暇なんてあるわけないんだ。
「……ありがとう、リア。この光景が見られて良かった」
リアもきっと、この景色が見たくて上に登ろうとしたんだな。
そう笑った俺に、彼女はにっこりと笑みを返して──
「そっちじゃなくてこっちです! 見てくださいラグ君!」
「え、こっち?」
くいくいと腕を引っ張られ、視線を景色から足元へと向ける。
足元というか、むしろ画面内の下部。
【実績:これが学園の頂点】【難易度☆】
オーバーカム学園の最も高い場所に到達した証。
これもまた一つの頂点であることに違いはない。
「これが学園の頂点……?」
「やりましたねラグ君! 取れましたよ、実績!」
「……まさか実績? これが目的だったの?」
呆気にとられた俺に、リアは満面の笑みで言う。
「こういうところには絶対にあると思ってたんですよ! コンプ勢としては絶対に取り逃がせないですからね!」
「実績……コンプ勢……待った、まさかリア」
脳内でリアとの少ない思い出がぐるぐるとまわる。
俺のことを、強い人だと喜んでいた彼女。
何としてもこの塔の上に行かなきゃいけないと訴えた姿。
「もしかして、だけど」
満足気に微笑む彼女に、まさか、と問いかける。
「リアってゲームをする時、全ての要素をコンプリートするタイプ? その、実績とかイベントとか、全部ちゃんとクリアするような?」
「ふっふっふ、その通りです! 三年間もやるんですから、目指すは完全攻略! この学園、このゲームの全てをコンプリートしないと面白くないですよね!」
こ、こいつ──コンプリート型のやりこみ勢だ!
そりゃこの学園をコンプ済みの俺と気が合うはずだよ!
やってることが同じなんだから!
「なんかノリが合うなと思ったら、リアもまた極めし者だったか……!」
「私は一目見てわかりましたよ。ラグ君は何かを突き詰めた人だ、って」
互いに同じく、やり込まずにはいられないタイプのプレイヤー。
すでにコンプ済みの俺と、これからコンプを目指すリアという違いはあれど、俺達は間違いなく同類だった。
「こう見えて様々なゲームを完全攻略してきました。これは自慢なんですが、その総数はなんと999です!」
「そんなに!?」
とんでもない数だな!



