テスターですけど、このネトゲ学園が難しすぎるとか言うのやめれる? 「これ絶対クリアできないんですけど、責任とれそ?」
二章 ④
実績コンプだけでも、何日もかかるゲームがたくさんあるのに! それだけフルコンプするのにどれだけのゲーム体験を積み重ねてきたんだ。
「このオーバーカムが記念すべき1000本目のフルコンプ作品になる──予定です!」
「そ、そりゃ絶対にコンプするしかないな」
「ええ、オーバーカム以外をコンプしたら大惨事なので、変なゲームをプレイしないように気をつけてます」
「起動した瞬間コンプするインディーゲーとか送ろうか?」
「この世界一の美少女を敵にまわすとは、いい度胸してるじゃないですか……!」
「冗談冗談、そんなことしないって」
むしろ大切な一作としてオーバーカムを選んでくれたこと、嬉しいと思うしね。
「ラグ君もやっぱり、このゲームのコンプリートを目指すんですか?」
「え? んー、それは……」
そう問われて、一瞬どうしようか考えてしまった。
コンプリートはもう終わった。全実績解除、全ボス、全クエストを撃破済みだ。
さらに言えば、新しいクエストが実装されるとしても、テストするのはきっと俺だろう。
いまさらコンプリートをやり直す理由なんてないが、それでも。
「──うん、絶対にコンプリートする。オーバーカムでできることは全部やるよ」
このゲームを愛する者として、卒業までに全てをやり尽くさないと納得できない。
そう答えた俺に、リアはキラキラと瞳を輝かせた。
「信じてましたよ、ラグ君! それでこそ、私の見込んだ相方です!」
「……相方?」
なんか聞き慣れない単語で呼ばれたんだけど。
「え、オンラインゲームで同じ目標のために一緒に遊ぶ相手って、相方と呼ぶんじゃ?」
「ああ、そういう文化もあるらしいね」
言いたいことはわかる気がする。
友達よりも重く、相棒と言うには力の差が関係なく、決して恋人なんかじゃない。
そして何よりも俺とリアがやっていたことって、大体はボケとツッコミだ。
「おっけー、わかった。その相方さんに、一つ大事なことを聞きたいんだけど」
「なんですかー? 今のところ彼氏はいない、推せる美少女でやらせてもらってますよ」
「今のところ、とか言ってる人を推したくないなあ」
彼氏がいないって情報は覚えておくけど、そういう話ではなくて。
「ステータスを見る限り、俺は一年G組になったみたいだけど──リアは?」
いつ間にか更新されていたキャラクターステータスで、俺の所属は一年G組になっていた。
一学年が1000人、26クラスもあるオーバーカム学園。
リアが同じクラスの可能性は5%以下の、本当に僅かな確率なんた。
しかもクラス替えは基本的にない、と発表されてる。いくら仲良くなったって、クラスが離れたら一緒にいるのは難しい。
「……もしかしたら、ですけど」
そう言葉を選ぶように言うリア。
ちょっと答えに含みを持たせて、こちらを焦らそうとしてるみたいだ。
ただ、申し訳ないんだけど。
優秀なフェイストラッキングが読み取った、笑みを押し殺せていない口元。
その表情を見るだけで、すぐにわかってしまった。
「私達、本当に運命で繫がってるのかもしれませんね!」
リアはどこまでも広がるオーバーカムの空の下、太陽のように微笑んで言った。
「三年間よろしくおねがいします、ラグ君!」
「こちらこそ、よろしくな」
オーバーカムで最初にできた仲間は、可愛くてやる気もあって面白い、なかなか素敵な相方さんだった。
「うーん、コンプリートまでに難しい敵もたくさんいるでしょうし、初手でこんなに強い仲間が加入したのは本当にラッキーでした。もう絶対に手放さないですからね!」
「やっぱクラスメイトぐらいの関係でいこうか?」
「待ってください、一旦落ち着きましょう。まだ感覚的な話なんですけど、このゲーム難易度がおかしいような気がしていてっ! 強いユニットが必要なんですよ!」
「いま人のことユニットって呼んだ?」
面白いやつなのはいいんだけど、ちょっと行き過ぎてるような気がするんだよなあ。
††† ††† †††
「ここが1年G組か」
「緊張しますねえ……」
「へー、リアも緊張とかするんだ?」
「初対面の人は30%ぐらいの確率で私のこと好きになっちゃうので。やっぱりその辺は緊張しちゃいますよ」
そっちの意味かよ。相変わらず自信過剰だなあ。
「前にも言ったけど、この学園ならリアは普通だから大丈夫」
「私が……普通……」
なぜか美少女扱いされないと固まってしまうリアを連れ、G組の教室に足を踏み入れた。
古めかしい木材の壁に、深い色をした長机。高校というより、大学──いっそ魔法学校のようにすら見える教室。
その空間は、思ったよりも静かな空気に包まれていた。
「──ちょっと酔ってきて、もう無理かもって……」
「IPD合ってないんじゃない? 保健室行く?」
「……え、そっち海外なの? いま何時? うっわ、夜中なんだ──」
多くは初対面なんだろう。教室内にはぽつぽつと会話をしている生徒がいるだけで、ほとんど大人しく座っている人ばかりだった。
立ち歩いている人もどこか落ち着かない様子で、まだ環境に馴染んでいないように見えた。
ただ、だからといって地味な光景ってわけでもなくて。
「……明らかにまともじゃないのが、何人もいるなあ……無機物とか、ケモ耳とか……」
「ほえー、アバターの人って多いんですねー」
自分のことを棚に上げて、リアが感心したように呟いた。
ケモノ耳とかケモノ尻尾みたいなまだ人間っぽいやつから、なんかドドンと建ってる石板みたいなモノリスまで、アバターってマジで自由なんだなと思わせる空間になってる。
あれ、もしかして自分の顔で来た俺の方が浮いてる?
なんだか落ち着かない気持ちで周囲を確認。ええと、俺の席は……。
「……あれ、自由なんだ?」
大きな黒板に擬似的に表示された画面。
そこには着席するよう書かれているだけで、特に座席は指定されていなかった。
あー、それもそうか。いくらでも画面を拡大できるんだから、どこに座ってても問題ないんだろうね。
「じゃあ隣にします? 前後にします?」
「近くに来てくれるのは確定なのね」
俺もリアがそばに居る方が安心だし、ありがたいよ。
俺達は少し後ろの席を選び、二人横並びになって腰を下ろした。
少なくともボッチになる心配はない。この調子でクラスに馴染んで青春を過ごしてやるんだ!
そう心中で意気込んでいると──
「ねえあなた、ラグ、であっているかしら?」
「はぁいっ!?」
い、いきなり声かけられた!?
誰!? なにごとだ!?
あわてて顔を上げるときっちりと制服を着込んだ可愛らしい女性アバターのクラスメイトがこちらを見下ろしていた。
アバターそのものは初めて見たけど、その顔には見覚えがある。やたらと整っているその姿は確か有名な女優さんだったはずだ。データを提供してくれたんだろうか。
そのままでは大人すぎるせいか、少し若めに調整されていて、近くで見ると緊張するぐらいの美人さんだった。
「あら? ラグではなかった?」
「いや合ってるよ、ラグです、はい。えっと、そっちは……」
視線を彼女の頭上に向ける。
俺の目線が顔に来たことを認識したシステムが、ぽんと彼女の名前を表示した。
「サリス、ね。よろしく」
「ええ、こちらこそ。そちらはリア、でいいのかしら?」
「はい、よろしくお願い、します……?」
途中まで言って、リアがピタリと動きを止める。
「こ、この顔グラは、まさか私と同点……!? い、いえ、ギリギリで私の方が上のはず!」



