テスターですけど、このネトゲ学園が難しすぎるとか言うのやめれる? 「これ絶対クリアできないんですけど、責任とれそ?」
二章 ⑤
おいそこ、有名女優のご尊顔とガチでやり合おうとすんな。
ブツブツと呟くリアを放ってサリスと向き合うと、
「何か用だった?」
便利なシステムのアシストで、とりあえずコミュニケーションは問題なくできる。最新技術ってありがたいね!
「ええ、ちょっと確認があるのよ。このコミュニティタブのG組、提出物っていうところを見たのだけれど……」
「お、おぉ……詳しいね?」
「時間があるから色々と見ていたのよ。それで、ここよ」
言いながら顔を寄せてウインドウを見せるサリスさん。
「は、はいっ?」
近い、顔近いっ! よくできたアバターの毛穴まで見えそう!
そんなことをしなくても向きだけ変えて見せられるんだけど、きっとまだ知らないんだろう。
「ほらここ、選択科目の提出という項目。ラグだけが終わっていないみたいなのよ」
「あ……ちょっと待って」
そんなのあったっけ、とインベントリを開く。
1年G組のタブからクラス提出物を選択すると、ぽつんと一枚のプリントが残っていた。
「うっわ、本当だ。完全に出し忘れてたよ」
もしくは本来なら連絡があるものを、叔母さんが止めて俺に伝え忘れていたか。
あーりーそーうー!
「やっぱりそうなのね。入学前に出すはずだから、大丈夫か心配になったのよ」
「いやー、助かったよ、ありがとう」
良かった、最初から先生に迷惑かけるところだった。
ほっとする俺に、サリスはとても綺麗な笑みを見せて言う。
「私も嬉しいわ。この私のクラスに、スタートでつまずくような人は出したくないもの」
この私のクラス、ですか……?
「……そ、そうだね、みんなで頑張っていきたいよ」
「ええ。今年度成績トップは私のG組になるよう、ラグも協力してちょうだい」
「……サリスって、先生とかじゃないよな?」
「ふふっ、変なことを言うのね。もちろん同級生よ」
「そっかぁ……」
「しっかり授業要項を確認して提出するといいわ。忘れていたら明日また伝えるから安心して」
「ど、どうも」
最後まで親切に言って、サリスは去っていった。
変な人だけど、やっぱいい人だ。
「なんか仲良くなれそうな人だったな、リア……リア?」
「…………」
リアはじとーっと複雑な表情でサリスを目で追っていた。
俺に近づいたからヤキモチを……とかいう気持ちじゃないのはさすがにわかる。
「……やっぱりアバターが美人過ぎません? なんですかあれ? ズルじゃないです?」
「だからリアは普通だって言ったじゃん」
「待ってください負けてませんよ!? こっちは可愛い系であっちは美人系、そういう違いがあるだけじゃないですか! 最高評価をつけたとしても同点です!」
「並び立つ相手が居る時点で世界一位じゃないんだよ」
「むうううっ! これがオーバーカムの洗礼……!」
何にプレッシャーを感じてるんだリアは。
「ハッハッハッハッ」
と、すぐ近くから小さな声が聞こえた。
変な話をして笑わせちゃったかな、と慌てて顔を向けて、
「ごめん、ちょっと騒いじゃって────えぇぇぇぇっ!?」
「ハッ、ハッ、ハッ、ハッ、ハッ……」
隣にいたのは人じゃない! 犬! でっかくて白い犬が器用に椅子に座ってる!
で、なんかめっちゃ笑顔でこっちを見つめてるー!
「い、犬、犬の同級生っ!?」
「わー、可愛いですねえ」
のんきに言ってる場合!? 人ですらないんだよ!?
「どうも、サモエドのダテでござるワン」
「サモエド!? ダテ!? ござるワンッ!?」
情報量が多い! ツッコミどころは一つにして!
もっふもふのでっかい犬がそこに居るってだけで、頭がパンクしそうなんだから!
いや、落ち着け落ち着け。
わかってたことじゃないか、アバターだよ。
「わ、悪い動揺した。サモエドの、アバター?」
「そうでござるワン。我が家の愛犬をモデルに作成を依頼したのでござるワン」
「持ち込みアバター!? すっご!」
「お年玉貯金が全て飛びましたワン。じゃなくてござるワン」
「語尾使いこなせてない!」
「このアバターならそんなところも許せそうでござるワンろう?」
「いやなんか入ってこない。その語尾のせいで話が頭で理解できない」
「マジ? なんかごめん」
「急に普通ー!」
そりゃ普通にも喋れるだろうけど! 素に戻るとそれはそれで驚くから!
「と、とりあえず、俺はラグ。よろしくな」
「リアです。よろしくおねがいしますねー」
のほほんと挨拶をする俺達に、サモエドは笑顔(?)のままで大きく頷いた。
「よろしくでござるワン。おもしろアバターの中に普通の学生がいて安心したでござるワンよ」
「おもしろ代表が言ってる……」
「普通のアバターの方が少ないんですねー」
なんなんだこのクラスは。
今のところ普通の生徒に出くわしてないぞ。
「変な人が多いのかな、このクラス……」
「ハッハッハ、こんなゲームの中の学校に通う生徒、みんな変に決まってるでござるワン」
「……それもそっか」
わざわざオーバーカムに通おうって決めた人たちだ。きっとどこか面白おかしいところがあるんだろう。
「オーバーカムって楽しそうですね!」
「うん、ちょっとぐらい変な方が人間って面白いよな」
「話が合いそうでござるワンなあ」
「人間というか、隣がそもそも犬だった」
「ハッハッハッ」
「あの、これって犬なのだ? クラスメイトでいいのだ?」
「かわいー、人間じゃないアバターもいいの?」
「犬、かわいい」
俺たちが賑やかに話していたからか、近くに座っていたクラスメイトも会話に入ってきた。
それも喋る声が地声じゃなく完全な合成音声だったり、でっかいモノリスだったりと、明らかに普通の学校とは違う。
これがオーバーカム学園なのか。
普段生きている世界とは全く違う──でも、なぜか居心地のいい場所。
うん、やっぱりこの場所に来て良かった。
少しだけでも、この世界を創り出す過程で協力できたなんて。こんなに嬉しいことはないよ。
††† ††† †††
「──以上をもちまして、挨拶にかえさせて頂きます」
静かに頭を下げ、ローブ姿の人影が壇上を降りていく。
現実に存在しないだろうとてつもなく巨大なホールを大音量の拍手が埋め尽くした。
きっとそれぞれは控えめに手を叩いているのだろう。しかし1000人を超える数の拍手は、ホールを満たすに十分な圧力があった。
──次は校長より挨拶の言葉をいただきます。校長の松下さん、お願いします
アナウンスが響いた直後。天空からさっと光が差し込んだ。
「ふふふ……待たせたな、諸君……」
白い翼を広げ、美しい天使がゆっくりと舞い降りてくる。
な、なんだあれ!? どうして校長があんな派手な演出で降りてくんの!?
「我が校長の松下……すなわち、諸君が崇める王だっ!」
とんでもないドヤ顔を浮かべてゆっくりと降りてくる松下校長。
その足に、壇上から飛来した鎖が勢いよく巻き付いた。
「うぉぉぉっ!?」
「はぁっ!」
地上から凶暴な姿をした悪魔が鎖を飛ばし、天使を縛り付けたのだ。
ぐいっと鎖が引かれ、上空で抵抗する校長が徐々に地面に引っ張られていく。
「ぬぅぅっ! 貴様、三木谷教頭か! この王を地に落とそうというのか!?」
「誰が王ですか、誰が!」
「我こそは全生徒の頂点に立つもの! それが王でなくなんだというのだ!?」
「あんたさっきの職員会議で、教師とは全校生徒の守り手であると言っていたでしょう!」
「あんなものは方便……ぐおおおおっ!」



