テスターですけど、このネトゲ学園が難しすぎるとか言うのやめれる? 「これ絶対クリアできないんですけど、責任とれそ?」
二章 ⑥
ついに地面に叩き落とされ、校長がぐしゃっと派手なSEを立てる。
そしてよろよろと立ち上がり、荘厳な天使の顔をしょんぼりと歪めて、校長が呟いた。
「よ、ようこそ新入生のみなさま、オーバーカム学園へ。私が校長の松下です」
くたびれた様子で言う天使に、ホールに笑い声が満ちていく。
なんだこの学校! いいのか、これで!
その後も入学式は長く続いたが、オンラインゲームらしいユニークな式典で、飽きることなく時間を過ごすことができた。
††† ††† †††
「まずは自己紹介から」
教卓に立った白衣姿の女性が、そう口を開く。
「一年G組を担当する柏原美咲。美咲先生と呼んで」
さらっとした口調の割に名前呼びを推奨する、なんだか面白い先生だった。
「一クラスに一人担任がいるんですか?」
教室から飛んだ質問に、先生はこくりと頷く。
「通信制高校では生徒八〇人につき一人の教員が必要。この学校は3学年で3000人の生徒を想定しているけど、今年は開校初年度だから」
「あ、先生がちょっと多いんですね」
そういうのがあるんだ。
いつもしっかり見守られていそうで、少しプレッシャーかも。
「私たちがいるのは、それぞれ別の場所。それでも、みんなとしっかりと関わっていく予定」
よろしく、と短く言い、先生はクラスを見渡した。
その視線が、ふと俺に止まる。
「……」
なぜかその頰をたらっと汗が流れた気がしたけど……アバターに汗をかく機能なんてないし、きっと勘違いだと思う。
「ショウです! ゲームが好きで、ガンガンレベルを上げて攻略してくつもり! 攻略のための部活も作るつもりだから、一緒にやれる人はよろしく!」
明るい挨拶にぱちぱちと拍手をする。
まずは自己紹介から、と始まったホームルーム。
そのイベントは、丁度教室の半ばまで進んだぐらいだ。
「ここは大事ですよ、ラグ君。今後のコンプリートのため、頼れる仲間を捕まえないと!」
「そういう視点でクラスメイトを見るんじゃないの」
というか、俺が仲間なのはもう完全に確定なのね。
こそこそ話している間にも自己紹介が進んでいく。
「拙者、ダテでござるワン。かわいがってもらいたいでござるワン」
白い大きなサモエドが、謎の口調で挨拶をしている。
ただ喋るだけでウケてるの、なんかちょっとズルい。
「犬が椅子に座ってるの、違和感ありますよねえ……」
「すぐに人外アバターが増えそうだけどね」
「かもかもです。サリスちゃんみたいなライバルが増えないならいいですが……」
それはどうだろう? 有名な人が提供した公式アバターなら同じものを使ってる人がいそうなもんだけど、入学式でも誰一人いなかったんだよね。
サリス、どこからあんなアバターを引っ張り出して来たんだろ?
言っている間に自己紹介が進み、俺たちの番までやってきた。
立ち上がったリアは、輝くような笑みを浮かべ、クラス全員を魅了するように言う。
「こんにちは、リアです! 見ての通り、世界一の美少女をやらせてもらってます!」
どやっ、と言う彼女。
「オーバーカムの完全攻略を目指してるので、みんな力を貸してください! それと──」
リアはクラスを見回して、可愛さ全振りの決めに決めた笑顔で言った。
「どれだけ可愛くても、私のこと、好きになっちゃダメですよ?」
────。
一拍の間を置いて、クラスにぱちぱちと拍手が上がった。
「おー、可愛い可愛い」
「わかる、やっぱうちの子は世界一可愛い」
「それな」
「……あれ? なんかリアクションが思ってたのと違いますね……?」
席についたリアは、なんとも普通な反応を示すクラスメイトに、不思議そうに呟いていた。
「前にも言ったけど、オンラインゲームで自分のアバターが世界一可愛いって思ってる人なんていくらでもいるでしょうよ。みんな何も思わんよ」
「そ、そんな理由で!?」
いや、うちの子が一番可愛い勢なんて、むしろ最大手みたいなもんでしょうよ。
「これがオーバーカム……くっ、かつてないタイプの自己紹介でした……」
「今までどんな自己紹介してきたんだよ」
「名前言った直後に周りの全員が連絡先聞いてくるとか、そういう?」
「それはさすがに夢を見すぎでは!?」
そんな漫画みたいな学校ある!?
「やっぱり何か間違ってる気がします。可愛い可愛いリアちゃんをもっとチヤホヤするべきじゃないでしょうか。その辺どうですかラグ君」
「もっと苦労しろよ、リア」
「なんでですかっ!?」
安心して欲しい、きっとこの学校なら君はまともになれるよ。
「では、次」
美咲先生の冷静な声が耳に届く。おっと、俺の番だった。
「ああ、はい。ええと……」
なんて自己紹介しようかと考えていたのが、リアの派手な挨拶ですっかり飛んじゃった。
ええと、言うべきことは……。
「ラグです。趣味はゾンビアタック上等の耐久プレイと、時間をかけたやり込みプレイ。みんなと比べたらゲームは下手かもしれないけど、よろしく!」
ぱちぱち、と小さな拍手が上がる。
うんうん、こんな感じの普通の生徒としてやっていく。それが一番だ。
「へ、下手……?」
と、教卓に立った美咲先生が愕然とした表情でこちらを見ていることに気づいた。
「あの……?」
「あくまで自己評価。噓とかでは、ない……はず……」
もごもごと言って、先生は俺から視線をそらした。
俺、何かマズイこと言いました?
††† ††† †††
自己紹介が終わると、そのまま休憩時間に入った。
各自バイザーを外してログアウトすることが前提の、長い昼休憩だ。
これはVRにまだ慣れていない生徒に向けて、脳と目を休める時間を取るためだったりする。
入学してからしばらくはこうしてゆっくりとしたスケジュールで進むことになる。
で、隣のリアなんだけど。
「ちょっと、どうなってるんですか! 誰も来ないんですけど!?」
リアルで机を叩いているんだろう、激しい台パンの音を響かせていた。
「何にキレてるのか全くわかんないんだけども?」
「みんなして、さーっとお昼に行っちゃったじゃないですか! ここは、一緒にコンプリートしましょう! ってリアちゃんのところに人が集まってくる場面でしょう!」
「どんな都合のいい想像なんだい」
教育番組ですらそんな平和な世界じゃないぞ。
「俺達が思ってるほどコンプ勢は多くないし、リアを信じて声をかけてくるとも限らないし」
「えぇぇぇ……ど、どうするんですか!? いくらリアちゃんでも、たった二人でコンプまで駆け抜けるなんて無理ですよ!? もっと仲間ユニットが必要ですって!」
仲間のことをユニットとかいうボスにはついていきたくないですねえ!
「まあ、仲良くなってからでいいんじゃない? みんなは今日が初対面だしさ」
「うーん、面倒……。今までは初対面から好感度100、みたいな人がたくさんいたんですけど、この学校ってなんか変なんですよねえ」
マジでどんな人生を送ってたの、リア?
この世界って始める時にイージーモードとか選べたっけ?
「んで、リアはこれからどうする?」
「ちょっと昼ご飯だけ買ってきます。その後は解除できそうな実績を探すので……手伝ってくれますよね、ラグ君?」
「おっけー、んじゃそれまでマップでも埋めてるよ」
「了解です! すぐ戻りますね!」
そう言って消えていくリア。
彼女が戻ってくるまでは自由時間だな。
レベルを上げてもいい、クエストをしてもいい。



