テスターですけど、このネトゲ学園が難しすぎるとか言うのやめれる? 「これ絶対クリアできないんですけど、責任とれそ?」

二章 ⑦

 きっと部活や同好会も、スタートの準備ができているはずだ。

 そうして自由な時間がくると──俺はちょっと困るんだよね!


「何をしたらいいんだ……? むしろ、何をしちゃいけないんだ!?」


 脳内を駆け巡るオーバーカムスタートダッシュルートの数々。

 このルートを辿って初週でレベル200とかやったら、いくらなんでも叔母さんにぶっ飛ばされるのはなんとなくわかる。


「ならば! ここは探索だな!」


 この校舎はどっかの魔法学園だと思ってたので、完全にマップを覚えてるとは言えない。

 ここはしっかりと探索して、マップを完成させるところから始めよう!

 足早に廊下を抜けて、購買部を横目に校舎の外へと進む。

 学校の外のフィールドをのんびり散歩して、外周から埋めていこう、と──


「いや待った」


 ぴたっと脚を止める。

 こ、購買部って書いてあった?

 テスト時ではなかった部屋だぞ! 俺にとっても未知の施設だ!

 さささっと道を戻り、広い購買部へと駆け込んだ。


「お、おぉぉ……なかなかの品揃えじゃないか!」


 購買部は色んなアイテム、装備や一部のスキル、さらにはアバターまで売ってる!

 これなら近くの街へ買い物に行く必要もなくなる!


「持ちカムでリターンクリスタルが買えるな。あとはHPのポーション……いや、解毒もありかな……」


 持ち金5000カム──ゲーム内通貨はカムという単位になってる──と少ない中で買い物を楽しんでいると、ふと背後から妙な声が聞こえた。


「──さあみなさま。ついにオーバーカムでのわたくしのお召し物をお披露目する時が来ましたわよ? いかがでございましょう?」


 なんぞ? と振り返ってみると、虚空のウインドウに向けて話しかける、金髪縦ロールのドレス少女の姿があった。


「この麗しき姿! まさにお嬢様ですわね!」


 お、お嬢様だ!

 いや、悪役令嬢かもしれないし、エセお嬢様の可能性もあるか!


「は? いつもと変わらない? お目ン玉がお腐りあそばされているんじゃありませんの? 普段は簡易表示しているドレスがパーフェクト描画されてるでしょうが!」


 画面に向けて口汚く語りかけるエセお嬢様(ほぼ確定)。

 あー、これ配信してる人か。

 良かった、変な人じゃなくて変なキャラで配信してる人だった。これならギリセーフだ。


「確かオーバーカムって、授業中じゃなければ生配信可能なんだよな」


 映るのが嫌な人は拒否設定ができて、互いの画面から消えるようになってる。

 まあ俺はそのままでいいかな、気にしないし。

 よし、リタクリとポーションだけ買い込んで──


「そこのあなた。やめておいた方がいいですわよ?」


 と、隣から穏やかな声が聞こえた。


「え……?」


 顔を向けると、さっきまで画面に熱弁していたお嬢様が俺の購入ウインドウを指していた。


「リターンクリスタル、買うつもりなんでしょう? 必要そうに見えますけれど、実はそうでもありませんのよ」


 コロン、というアバターネームの表示された彼女は、伸ばした指をくるりとまわして見せる。

 その動きに合わせてまっきまきに巻かれた縦ロールが揺れた。


「こちらシステムのHOWTOに記載があるのですけれど、レベル100まではデスペナルティがありませんの。つまり学校に戻りたいならば死ねばOKということですのよ。序盤の貴重なカムを不要なアイテムに使うのは非効率ですわ!」


 コロンはアニメ調アバターの可愛らしいドヤ顔で言った。


「なる、ほど……」


 真っ当なアドバイスだ。ある面では間違いなく正しいと思う。

 ただ、それがわかった上でも、実は帰還アイテムも必要なんだよ。


「……何が余計な口出しですの、文章のみなさま。こうやって助け合うのがプレイヤー。そして高貴な者として下々を導くのがわたくしの役目ですのよ」


 ああ、なんかいい笑顔でウインドウに語りかけてる!

 ど、どうしよう、どう説明したらいいかな?


「ええっと……実は俺、ちょっと慎重なプレイスタイルでさ」

「スタイル、ですの?」

「なんて言うんだろ。わざと死ぬのが良くない状況があるかも、とか……そういうのを対策しといた方が心が落ち着くんだよね」

「あ……っ」


 実際にそういう状況があるんだ。受注した後で死んだら失敗扱い、っていうクエストとかね。

 ゲームだけなら問題なかったけど、ここは学校。

 もしも放課後に終わらなかった場合、登下校をするために死に戻ったら失敗になる。


「そう、ですわよね……」


 ネタバレを回避するため言葉を選んで言った俺に、彼女は口元へ手を当ててうめいた。


「も、申し訳ありません。プレイスタイルなんて色々ですのに、わたくしったら余計なことを」

「いやいや、アドバイスありがとう。これでいざ死んだ時に驚かずに済む!」

「フォローのお言葉を感謝いたしますわ。優しい方ですのね。……文章のみなさまは黙っていらして! わたくしは今、一つ成長いたしましたのよ!」


 またコメントと喧嘩してるコロン。

 マジで変な人ばっかりだねこの学校!


「ところで、せっかくの御縁ですし少々お聞きしたいことがあるのですけれど、かまいませんかしら?」

「え、俺に?」

「ええ、人を探していまして」

「人かあ……そりゃ大変だろうなー」


 一学年1000人のオーバーカム。こまめに連絡を取っている相手ならともかく、会えたら会おうね、ぐらいだとなかなか見つからないと思う。


「どんな人を探してるんだ? 名前は?」

「ここでの名前は聞いていないんですけれど、人柄は……そうですわね……」


 コロンはよほど渋い顔をしてるんだろう、フェイストラッキングでもわかるぐらいに苦々しい表情で言う。


「自分が人並外れて可愛らしいと声高に主張する自信満々な子で、その割にはいじると面白い感じに反応するポンコツな、どうにも存在が憎めない人なのですけれど……」

「そいつ多分知ってる」

「知っていますの!?」


 なんか相方みたいなポジションになっていますので。


「別人の可能性はあるけど、あんな面白い生き物が二人も三人もいるとは思えないし思いたくもない」

「その口ぶり、どうやらあなたも苦労なさっているようですわね、ラグ様」

「君もな、コロン」


 静かに頷き合う俺たち。

 突如結成されたリア被害者の会。

 あいつ、他の人にもあの調子で接してるんだな……いや、本当に憎めない子なんだけども。


「名前だけでも聞いとく? それで連絡はとれるだろうけど」

「いいえ、居るとわかればそれで構いません。わたくしは大いなる壁として彼女の前に立ちふさがるつもりですので。しかるべき場を用意いたしますわ」

「そうか。なら俺もその時を楽しみにしてる」


 それでは、と微笑むと、コロンはコメントウインドウをぺちぺちと叩きながら去っていく。

 うーん、あの子もあの子でマイペースだし、厄介度としてはリアと大差ない気がする。

 こんなやつばっかりなのか、オーバーカム。楽しい空間すぎない?


†††   †††   †††


「買い物OK。同級生とのコミュニケーションも完了。うーん、これは理想的新入生」


 よしよし、ネタバレせずに初心者できてるじゃん!

 いい感じいい感じ、と足取り軽く校舎の外へと向かう。


「さあ一時間で外周は全部いけるかな? さすがに半分ぐらいが限界かも……ん?」


 気のせいかな、リアルの身体のそばを、少し冷えた空気が流れたような。

 接続室はかなり密閉された空間のはずだけど。ドアに隙間でも空いちゃったのかな?

 確かめようかとバイザーに手を当てたタイミングで。


「ラグ君、お昼ご飯買って来ましたよー」



刊行シリーズ

テスターですけど、このネトゲ学園が難しすぎるとか言うのやめれる? 「これ絶対クリアできないんですけど、責任とれそ?」の書影