テスターですけど、このネトゲ学園が難しすぎるとか言うのやめれる? 「これ絶対クリアできないんですけど、責任とれそ?」

二章 ⑧

 と、そんな声が聞こえた。


「リア、もう戻ったのか。早くない?」

「近くのコンビニに行ってきただけですから。ラグ君、どれ食べます?」

「どれでもいいよ、あまったやつで」


 なんて、画面越しによくやる会話を交わす。

 お互いはるか遠くにいるっていうのに、俺の分のアイスも買ってきてーなんてありえない会話をするの、定番だよな。


「……? あれ、リア? どこにいるんだ?」


 と、返事はしたものの、リアの姿が見えないことに気づいた。

 俺は校舎の外を適当に歩いてたんだけど、どうやって追いついたんだろ?

 個別通話の機能かな? でも、応答ボタンを押さないと繫がらないはずで──。


「ここにいますよー? ほらほら、甘いパン買ってきたので頭に糖分を入れてください」

「いやだからどこ? 校舎の上? まさか地面の下?」

「隣にいますってば」


 くいくいと、服の袖が引かれる。

 オーバーカムではなく、現実の自分の服が。


「……え?」


 何か想定外の事態が起きている予感に、背筋がぞわっと粟立つ。

 まさか──いや、そんなことはありえない、よな?


「隣って、噓だよな……?」


 恐る恐る、バイザーを引き上げて接続室に視界を戻す。

 見慣れた灰色の世界。正面の壁には、俺が見ていた校舎外の芝生が映し出されてる。

 そしてすぐ隣、体温すら感じられそうな距離に。


「どうしたんですか、ラグ君?」


 きょとんとした顔でこちらを見上げる、世界一可愛いアバターがいた。


「……? ?? ????!?!?!??」

「ど、どんな声なんですかそれ!? すごい顔してますよラグ君!?」

「ヤバい、現実がバグった!」


 リアのアバターが現実に脱走してる!

 現実にバグが発生したのか、俺が幻覚を見てるか、どっちなんだ!?


「はいはいわかりますよ。なんと言っても世界一可愛いリアちゃんですから、バグかなってぐらいの美少女ですよね」


 現実に現れたリアのアバターは、リアみたいなことをリアみたいな声で言って、リアそのものの動きで頷いてみせた。

 それはまるで本物のリアみたいで──。


「……え、もしかして、リア?」

「なんですか、そんな初対面みたいなリアクションをして」

「初対面だけど!?」


 オーバーカムではともかく、リアルでは本当に初対面だから!


「──ということは、ラグ君?」


 リアルの世界に存在するオーバーカム学園本校。

 俺達はその一室、コミュニティルームと名付けられた場所に移動して来た。

 元々開発部の休憩室だったのでおしゃれなテーブルやソファもあり、学生が使うには十分すぎる設備が揃ってる。


「私が世界一可愛いと言ってたのを、アバターのことだって勘違いしてたんですか?」

「普通そうだって思うじゃん!」

「なんだか話が嚙み合わないと思ったら! もー!」

「だってあんなに可愛いアバターが、リアルそのままだと思わないって!?」


 思わずそう言ってしまった俺に、


「……ほほー?」


 あっ、やっべ。

 良いこと聞いちゃったなー? という顔でリアがニヤニヤした笑みを浮かべる。


「そうですよねえ? オーバーカムでは普通だ、なんて言ってましたけど? やっぱりリアちゃんってば世界一可愛いですから、こうして会ったらドキドキしちゃいますよねぇ?」

「どうしよう、さっきまで割と緊張してたのに急に落ち着いてきた」

「突然冷めた感じに!?」

「マジで印象が変わらないからめっちゃ落ち着いた。リアはリアだよなー」

「これ、失敗しましたか? もっとキャラ作れば良かったですかね? でも、最初にきっつって言われたトラウマでいつもの感じにしちゃったので……!」

「あれトラウマだったの!? それはごめん!」


 って、そんなこと話してる場合じゃなくて!


「アバターを使ってないのはわかったけど。なんでリアまでここに? どうして俺があの部屋に居るって知ってたんだ?」

「んー、まあ理由は色々なんですけど」


 リアは菓子パンの封を切って、どうぞどうぞとこちらに差し出してくる。

 あ、どうも。お金は後で払いますので。


「実はアバターのチェックでここに来たことがあって。ラグ君に助けてもらった日です、覚えてますよね?」

「ああ、あの時か。なるほど、元々ここの存在は知ってたんだな」

「はい。なので入学式ぐらいは制服を着て学校に行くのもいいなーって、ここの使用許可をもらったんですけど」


 とそこまで言って、リアはどこか面白そうな表情で俺を見上げる。


「隣にいるのかもって気づいたのは、ラグ君がオーバートラッキングのボイスコマンドを使った時です。あれ、この学校の設備でしか使えませんよね?」

「え、俺そんなこと言ったっけ? いや、言ったか。言ったわ!」


 塔を登る前、フルトラ限定空間に入る時に言った!


「むしろラグ君、私の動きで同じシステムを使ってると気づかなかったんですか?」

「鈍くてすいません……」


 確かにリアの動きは、フルトラですら難しいぐらいに現実味のある動作だった。

 あんなことができるのは余程の大富豪か、学校の設備ぐらいだよね。


「一緒にお昼に行こうとか、そういうお誘いがあるのかなって期待してたんですけど。何も言ってくれないので、こちらから差し入れをする羽目になったんですよねえ」

「気がきかなくて申し訳ない……」


 リアにもらったアップルパイをむしゃむしゃとかじる。

 その甘さになぜか目頭が熱くなる。

 俺ってダメなやつすぎないかなあ。


「まあまあ、ラグ君に期待してるのは、コンプ仲間としての働きと戦闘ユニットとしての仕事ですから。ちょっとポンコツなぐらいは愛嬌ですかね」

「くそう、リアにポンコツって言われるのなんかすごい屈辱だ……」

「まさか私のことポンコツだって思ってました!? そんな要素どこかにあります!?」


 だって話してて抜けてる感じしかないんだもん。

 まさかこんな真っ当な思考でこちらに迫ってくるとは思わないじゃん。


「ちなみにですけど、聞いてもいいですか?」

「なんじゃい?」

「この部屋を使う申請を出す時。受付の人が、Aはいつも通り使ってるからBね、って入館証をくれたんですけど……Aの部屋にはラグ君がいたんですよねー?」

「お姉さん!? 守秘義務はっ!?」


 身内が俺を裏切ってるー!


「ラグ君っていつもここ使ってるんですかー? どうして初日なのにいつもなんですかー? その辺はどうなんですかねー?」

「黙秘権を発動します!」

「ポンコツ扱いを訂正するなら認めましょう」

「リアちゃんは賢くて有能な世界一の美少女です!」

「グッドです、良しとしておきます!」

「危ねえ……なんとか逃げ切った……」


 全く逃げ切れてない気はするけれど。

 のほほんとした顔でチョコパンを口に運ぶリアは、どう見ても俺を困らせる気はなさそうで。

 どうしても危機感がわいてこないんだよね。


「早速ですが、コンプリートに向けて、まずは実績解除を狙っていきましょう!」


 オーバーカムに戻ってきたリアは、意気揚々と言った。

 休み時間に遊ぶってことに異論はないんだけど、その前に確認したいことがある。


「それはいいんだけど、リアさん?」

「なんでしょう?」

「……どうして俺の部屋にいるんだ?」


 バイザーをズラすと、オーバーカムの画面とほぼ同じ位置に現実のリアが立っていた。

 そう、俺が使っていた接続室から二人でログインしてるんだ。

 優秀なトラッキングシステムはデュアルでの接続にも対応していて、プレイする上ではなんの問題もない。問題はないんだけどね!?



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