テスターですけど、このネトゲ学園が難しすぎるとか言うのやめれる? 「これ絶対クリアできないんですけど、責任とれそ?」
二章 ⑨
「だってそばに居る方が色々と楽じゃないですか。マイクオフにすれば内緒話も簡単ですし、ラグ君がどうやって操作してるのかも見たいですから」
「参考にするほどの動きじゃないから……って言っても聞かないよね?」
「もちろんです! 相方のレベルアップのために力を貸してもらわないと!」
こりゃ何を言っても聞かないやつだ。
そもそも学校なんて同じ空間で過ごすのが普通なんだから、追い出す明確な理由もあんまりない。
それに──正直に言えば、ちょっと助かる。
アバターのリアと現実の彼女が同じ外見をしてるってことを、まだちゃんと受け入れられてない。
こうして見慣れていけば、少しは落ち着くんじゃないかと思う。
ただ……世界一可愛い子と同じ部屋で冷静にプレイしろって、まあまあのデバフだよなあ。
「それで、基本的には実績コンプを目指す形になるの?」
「わかりやすいコンプリート要素ですからね。クエストやイベントも全てクリアを目指す予定ですが、その辺りもある程度は実績に入ってるんじゃないかと」
このオーバーカムで可能な全てを達成する。
実績を解除していくことで、コンプリートへの道筋になるわけだ。
「方針は理解したし、文句なしだ」
「同意を得られたところで──とりあえず、手近な実績を狙ってみましょうか」
リアはそう言って、片手でウインドウを操作した。
虚空を腕がなぞって、何かしらの変更が行われた、その直後。
リアの服が、消えた。
「──は?」
「さ、準備完了です!」
「完了してない! むしろ逆! なんで脱いでんだこんなところで!」
リアの服が綺麗さっぱりなくなってる!
身体のラインのはっきりとわかる、下着みたいな布だけしか残ってないぞ!
「ちゃんとインナーは着てますよ。初期装備の制服を脱いだらこれになるってだけですので」
「平然と言うなーっ!」
校外に出ていたおかげで近くに人影はないけど!
いつ誰に見られたっておかしくないんだぞ!
「なんでそんなに慌ててるんです? リアルでは普通に着てますよ?」
ほらほら、と俺の顔に服の袖が当たる。
わかってるよ、リアルで脱いでないことぐらい!
「リアをスキャンして作ったアバターなんだろ!? じゃあ現実とほぼ変わらない姿ってことじゃん!」
「いえ、アバターの方がちょっとデバフされてますよ。バランスが悪いからって、胸とかお尻とか小さくされたんで」
「聞きたくなかったその情報!」
隣にいるリアはさらに完成度の高い姿をお持ちってことですね! すごいとは思いますよ!
「っていうかなんで脱いだの!? 見せつけたかったわけ!?」
「そんなわけ無いでしょう! 人を変態みたいに言わないでください!」
美少女美少女と言うから、見せたくてしかたない人なのかと!
「勘違いしないでくださいよ! 私はただ、実績の解除を狙ってるだけです!」
リアは全ての装備を脱ぎ去ったまま、堂々と胸を張った。
「全裸で敵を倒すとか、全裸で死ぬとか、実績としては定番じゃないですか! とりあえず脱いだまましばらく戦いましょう!」
コンプリートのために脱いだのかよ!
実績解除のためにそこまでやるか!
「そんな実績ないから今すぐ着て! オーバーカムは健全な学園だから!」
「ええー? 本当でござりますかー?」
「本当! 噓じゃない! 俺を信じて、さあ着て!」
「あ、もしかしてラグ君、先に脱いで試したんですか!? 裸族の先駆者だったってことですね!」
「人を変態扱いすんなーっ!」
そんな実績を、俺達は用意してません!
「でいっ!」
ぴょんぴょん跳ねるうさぎ型エネミー、ホップラビットの頭上にリアの剣が叩きつけられる。
積み重なったダメージでHPを削りきられ、ラビットがぱたんとその場に倒れた。
【実績:初めての勝利】【難易度☆】
初めてエネミーに勝利した証。
たとえ小さな勝利でも、これがあなたの第一歩。
「あ、実績解除されました!」
「おめっとー」
リアとPTを組んだためか、俺の方でも実績が解除された。
初めてエネミーを倒した実績、か。
テストではもう何年前に解除したのか覚えてないぐらいだ。
「戦闘系の実績も結構ありそうですね。となると、ありそうなのは……」
「……なんだろうなあ」
知っているせいで言えない!
ただ、正直あんまり解除できる実績はないんだよね。
ぱっと思い出す範囲だと、自分より圧倒的にレベルの高い相手を撃破するジャイアントキリングや、短時間に大量の敵を倒す盛者必滅とか。今すぐは解除できないものばっかりだ。
「さっきラグ君も言ってましたけど、オーバーカムって学園なんですよね」
ふと、リアはすぐ近くの校舎へ目を向けた。
「だから脱ぐとか死ぬとかそういうマイナスな行動じゃなく、勇気ある戦いとか、仲間を守る行動とか、そういうことにフラグをつけてると思うんです」
「お、いい読みなんじゃない?」
実際そうなっていたと思う。
元々はマイナス行動にも実績があったんだけど、負の学習はさせない方がいい、とかいう意見でなくなったらしいんだ。
「というわけで、狙うはアイツじゃないかなって思うんです」
と、リアは草原の真ん中で眠る、日光に照らされた大きな甲羅を指した。
その名はヒュージロータス。
「学園の近くになぜか居る、大型のエネミー! これは間違いなく実績の対象ですよね!」
「……強そうだけど、戦えるのかな」
こっちのレベルは1で、あっちのレベルは210。
とてもじゃないけど勝てるような相手じゃない。
っていうか見た目からして戦わないでねって感じになってるじゃん!
なんでもかんでも殴りかかっちゃダメだよと教えるための、ノンアクティブの絶対に勝てないエネミーなんだよ!?
実績のためだからって無謀な挑戦はどうかと思います!
「さあ行きますよラグ君! 初日から大型チャレンジです!」
「ああもう、危なくなったら逃げるんだぞ!」
ちなみにアイツは中型です!
大型はもっと露骨にデカいので、見つけたら逃げるようにしましょう!
「よーいしょ! よーいしょ!」
カーン、カーン、と甲高い音が響く。
リアの剣が甲羅にぶつかり、虚しく弾かれている音だ。
「全然効きませんねー? これ、ダメージ入ってるんでしょうか?」
「入ってないから反応しないんじゃない?」
「むー、0ダメージってことですかね?」
リアは頑張っているみたいで、隣でぶんぶんと腕を振る風圧を感じる。
でもレベル1の攻撃力じゃそもそも戦闘にならないみたいだ。
近くでうさぎを倒していた同級生がそれなりに居るんだけど、みんな生暖かい目でこっちを見てる。
「さすがにレベルが足りないんですね。大物食いの実績とかあると思ったんですけど」
しょんぼりと言った。
い、いい勘してるね? ほぼそのままの実績あるよ?
「また来ますからね、亀さん! 次は絶対にお昼寝から起こしてあげますから!」
と、リアが最後に振り下ろした剣。
何の偶然か、その一撃はガシュッと鈍い音を立てた。
「……え?」
「あっ、マズ!」
クリティカルによる最低保証ダメージ!
おそらく一桁だろうけど、ノンアクティブのエネミーがアクティブに切り替わる。
──フォォォォン!
ヒュージロータスは甲高い鳴き声をあげると、頭と手足、尻尾を殻の中へと引っ込めた。
そして穴から蒸気のようなものを噴き出し、ぐるぐると回転し始める。
「あ、わわっ……!」
気を抜いた瞬間だったせいだろう、リアは呆気に取られたまま、大亀の動きを眺めていた。
ちょっと、その位置はヤバい!



