テスターですけど、このネトゲ学園が難しすぎるとか言うのやめれる? 「これ絶対クリアできないんですけど、責任とれそ?」
二章 ⑩
「逃げろリア、突進をまともに食らうぞ!」
「は、はいっ! これは思ったより勝てない感じですね!」
やっと冷静になったのか、慌てて亀から離れようとするが──
「は、はやー!」
相手はレベル210。
戦うつもりで襲ってくれば、逃げ切れる速度差じゃない。
瞬く間に追いつかれたリアを踏み潰そうと、回転する甲羅が迫る。
とはいえやられたって別に損はないし、放っておけばいい。何なら一緒に死んだって構わないから──なんてことに気づいたのは、反射的に身体を動かした後だった。
「リアーッ!」
彼女の前に飛び込んで、大亀の攻撃に直剣を合わせる。
初期装備の片手剣には大した攻撃力がないし、特殊な効果もない。
ただ唯一の特性として、詰み防止のために無限の耐久度が与えられている。
つまり──本来は不可能な、こんな無茶だってできる。
「ここっ、ここっ、ここで合わせて──」
弾く、弾く、弾く。
大回転する大亀の甲羅、そのダメージ判定にピンポイントでパリィを合わせ、被弾を防ぐと同時に無理矢理回転速度を落としていく。
「んで──飛んでけっ!」
あとは速度を戻すために蒸気の噴出速度を上げるタイミングを狙い、斜めに攻撃を弾くだけ。加速しようと噴射した蒸気が地面にぶち当たり、亀が遠く空へ吹き飛んでいく。
「う、そ……。どうやってあんな大きな敵を……?」
簡素な初期武器にふっとばされる大亀って、割と面白い光景だよね。
近くで見ていた同級生も、おおー! と歓声を上げていた。
相手の行動を利用して時間を稼いだだけで、勝ったわけじゃないんだよ?
「ラグ君、簡単そうにわけわかんないことするの、そろそろ説明して欲しいんですけど! いくらなんでもまともなテクニックには見えませんでしたよ!?」
「いや、なんか適当に剣を振ったらいい感じになったみたい」
「さすがに噓ですよね!?」
「うん、噓」
「ですよね!? ちょっとほっとしました!」
さすがにこれ以上の噓は心苦しい。
ただ話すわけにもいかないので、本当に黙秘権ということで察してもらえませんでしょうか。
【実績:乾坤一擲】【難易度☆☆】
被弾するとダウンする攻撃のパリィに成功した証。
死中に活を求めよ。決して無理はせず。
「あっ……」
そんなつもりはなかったのに、実績も解除されちゃった。
失敗されたら死ぬ攻撃をパリィしろっていう、普通にやってればその内に取れそうな実績だった。
「あ、そのリアクション! 実績解除しましたね! 何がキーだったんですか!?」
「あー、えっと……」
「コンプを目指す仲間じゃないですか、相方に隠し事はなしですよ!」
ごめん、隠し事はめっちゃしてるんだけど!
ただこれは一緒にプレイして解除したものだし……話すのが自然、だよな。
「ええと、乾坤一擲、星2だって。被弾したら死ぬ攻撃のパリィに成功するってやつ」
「なるほど! このヒュージロータスの攻撃を弾けばいいんですね!」
「ちょっ、待って待って!」
俺が止めるのも聞かず、リアは意気揚々と巨大な亀に駆け寄っていく。
そしてカンカンと弾かれながら甲羅を叩き、そのヘイトを引き寄せて──。
──フォォォォン!
「来ましたね、回転攻撃! これをパリィすればいいんですよね!」
「ほとんどパリィなんてやったことないのに、いきなりそれは無茶だって!」
「眼の前で見せてもらったんですから、絶対にできるはずであああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
「リアーッ!!!」
彼女の声が大回転する亀の甲羅に飲み込まれていく。
そして亀が通り過ぎた後。
「……やっぱり死亡時の実績解除はありませんでしたね。思っていた通りですよ……」
「無茶しやがって……いや、マジで……」
††† ††† †††
「いくつかの実績は解除できましたね。今日の成果はそこそこです!」
「大騒ぎだったけどなー」
あれこれと事件はあったものの、初勝利、初レアドロップ、初レベルアップといった簡単な実績を解除することはできた。
しかしリアはあまり納得はしていないらしく、渋い顔で仮想ウインドウを見つめている。
「ですが、ちょっと大きな問題を感じていまして」
こちらに視線を向けないまま、彼女はそんなことを言った。
「今日私が解除した実績は、どれも難易度星1でした。初勝利や初レベルアップはいいんですが、あの塔を登るミニクエストも星1だったんです。ラグ君が解除した乾坤一擲でやっと星2なんでしょう?」
「まあ、そんなもんなんじゃない?」
簡単な実績だし。
そう答えた俺に、リアはふるふると首を振る。
「普通のゲームなら、星一つの実績なんて遊んでるだけで勝手に取れるレベルです。あんな高難易度のアスレチックをしなきゃ取れないなんて、何かおかしいんですよ」
「……そう、なの?」
あれ、おかしかった? ボスもいないし、あんなもんじゃないの?
「最高難易度が星5だとして、あのジャンプは星3ぐらいあって当然の難易度でした。不具合ですって学園側にレポート出した方がいいかもしれないぐらいです」
「いやあ、そこまでじゃないでしょ。初日に取れたわけだし」
「初日に取れたのはラグ君と私だけですって!」
「そうなのかなあ……」
実際のところ、何年もかけて散々テストをしていたせいで、自分がどれぐらい上達したのかはよくわかってない。
そこそこ上手いベテランぐらいの実力になってるなら、俺が簡単だと思っても初見さんが難しいと感じることもありそう。
「一番の問題は、この実績の難易度が不具合じゃなかった場合なんですよ」
「え、不具合じゃない方がいいんじゃ?」
「もしも正しく難易度が判定されてるんだとしたら、星5とかってどうなるんですか? あのぐらいの操作はできて当然ってことになりません?」
「……なるかもしれない」
い、いやあ、VR空間で思った通りにアバターを動かすのって、クリアの前提条件、じゃないのかなあ?
「これ、多分開発の人が頑張りすぎたんですよ。何度もテストしてるうちに上手くなりすぎて、どんどん難易度を上げちゃうってやつです!」
「い、いや、そんなことはないと思うよ? 一般人が程よくクリアできるようになってる、はず……だと思うんだ……」
「絶対に開発の悪ノリです! プレイヤースキル高いラグ君にはわからないんですよ!」
俺にわからなかったら誰にわかるの!?
いや、そもそも俺達が勘違いしてるって可能性はある。
俺やコメント欄の皆さん、とんでもないやらかしをしてない?
嫌な予感に、背筋がぞわぞわとする。
もしも難易度調整をミスってるのなら、全校生徒を巻き込んだ大問題になるんじゃ。
「え、ええと、詳しいことは言えないんだけど。ちょっと俺も確認してみるよ」
「……やっぱりラグ君、学園側と何かあるんですか?」
疑った様子ではなく、ただ確認するような雰囲気で、リアが言った。
実際のところ、俺に事情があるのはとっくに察しているんだと思う。
それは俺がやりたい放題しちゃったせいでもあるし、受付のお姉さんのせいでもあるし、そもそも初対面の時点で明らかに怪しかったせいでもある。
詳しく聞こうとしなかったのは彼女の思いやりで、それこそ友情の証のはずだ。
「ごめん、全部は話せない。ただ、リアの意見は必ず参考にする」
「もー、わかりましたよー。ラグ君のことは信じてますから、ちゃんとバランスをまともにしてくださいね!」
詳しい話はしないまま、それでもお互いを信頼し合うように。
俺とリアの間に、緩やかな共犯関係のような、不思議な関係が結ばれつつあった。



