テスターですけど、このネトゲ学園が難しすぎるとか言うのやめれる? 「これ絶対クリアできないんですけど、責任とれそ?」

二章 ⑪

 ──と思った、その瞬間だった。

 突然に現実の部屋のドアが開き、一人の女性が飛び込んできた。


「王我、まだいるな? テスターの仕事を頼みたい。次のイベントで……」


 入ってくるなり言った叔母さんが、ぴたりと口をつぐむ。


「……」

「………………」


 無言で見つめ合う俺達。

 そして硬直した空気を破ってリアが納得したように言った。


「あー、テスターですか。なるほど、そういうことだったんですね。なんの違和感もありません、すっごく納得しましたよ、ええ!」

「これは俺のせいじゃないじゃん……」

「す、すまない……本当にすまない……」


「そういうわけで、私の甥である王我は、コンプ済みのテスターとしてオーバーカムに入学することになったのだ」

「どうもクリ済み初見詐欺です」


 ──うちのテスターをよろしくお願いします

 ──嬢ちゃんお目が高いな! いいのに目をつけたで!


「そりゃ上手いはずですよ! もうコンプし終わってるじゃないですか!」

「完璧に初心者の演技をしてたつもりなんだけどなあ」

「で! き! て! ま! せん!」


 ──草

 ──できるわけないやろがい!

 えー、やっぱりダメかあ。

 もはや話すしかなし、ということで全ての事情を聞いたリア。

 正直に言って、俺は噓をつかなくてよくなって、すごく安心した気持ちです。


「まだいくつかのイベントを触っただけなんですが。事情を聞いた限り、もしかして──」


 彼女は頭痛をこらえるように額に手を当てて呻いた。


「このゲームが妙に難しいのって、テスターのラグ君が上手すぎたせいでは……?」


 ──ご明察です

 ──(察し)


 ──だって甥っ子君の納得するクエストやボスを用意せんとって思うやん


「ということは、ラグ君ぐらいのプレイヤースキルがないとフルコンプするのは難しいってことですか?」


 ──い、いや、甥っ子君と同レベルはちょっと、人間には無理じゃないかと

 ──ラグとPTを組んでは?

 ──PTメンバーとかいうハンデをつけることでバランスがとれる説、あると思います


「……大体わかりました」


 はあああああ、とリアが大きく息を吐く。


「あのー……?」

「ラグ君」

「は、はいっ!」


 リアの硬い声に、思わず姿勢を正す。


「このオーバーカム学園は、ラグ君を基準に作ったせいで難易度が壊れてます」

「そう、なんですかね?」


 ちらりと叔母さんに視線を向ける。


「……うむ」


 静かに頷かれた。


「そう、なのかな?」


 コメントの皆さんへ目を向ける。

 ──いやあ、マズいとは思ってたんよ

 ──甥っ子君が簡単にクリアするから、つい

 ──すまん。実際のところ、大半のボスがもうワイらには勝てへん

 すごい勢いで同意された。


「いいですかラグ君。このままでは、オーバーカムは紛れもないクソゲーです!」

「うっそだろ!? こんな神ゲーが!?」


 めちゃくちゃ面白いだろ、オーバーカム!

 入学初日なのにすっごく楽しかったじゃん!


「神ゲーですけど! それは否定しませんけど! だからって難易度設定が壊れてたらクソゲーなのも事実なんですよ!」

「マジかよ……」

「というわけでラグ君」


 最後に目を合わせたリアは、少しも邪気のない、世界一綺麗な笑顔で言った。


「責任取って、私がちゃんとコンプできるように手伝ってくださいね?」

「……はい……」


 リアだけのために、というわけではなく。

 このゲームがクソゲーだなんて、そんな風には思われたくないからな!


「その代わり、ラグ君の勘違いは私が全力で指摘しますので! 相方として!」


 ──マジでよろしくお願いします!

 ──待ちに待ったまともなツッコミ役だ! 囲え!


「え、えええ!? 俺とリアなら、絶対に俺がツッコミ側だと思うんだけど!?」


 ──ふざけんな

 ──その発言がもうボケでしかない


「マジか……えええ、そうなの……?」

「大丈夫ですよ、ラグ君」


 リアは優しく微笑んで、そっと手を伸ばし、俺の背を撫でた。


「ラグ君の無自覚におかしなプレイはちゃんと教えてあげますから。だから私がフルコンプできるように、しっかり手伝ってくださいね?」

「……悪い取引だってわかるのに、断る権利がない……」

「ふふふ、契約成立ですね!」


 ──頼んだで嬢ちゃん

 ──頼むから甥っ子君を一般人に戻してくれ

 俺は一般的な実力だからテスターだったんじゃないの!?

 いつからそういう話になってたの!?

 マジで、全然わかんないんだけど!


†††   †††   †††


 午後は授業の進行や、今後の学校生活についてのガイダンスが行われた。

 そして下校時刻の少し前、リアを見送った後。

 俺は学園から遠く離れた草原を駆け抜けていた。


「いやー、入学しといて良かった。本当に良かった」


 ──せやねえ

 ──だから入学してくれって頼んだのもあるんよね


「どこのバランスがおかしいのか調べて、修正が必要ならちゃんとフィードバックを上げるようにしなきゃな」


 ──おい待て、こいつ本当にわかっとるんか?

 ──どこ、というか。戦闘面に関しては多分全部かもしれないというか

 ──甥っ子君が基準な以上はどれもおかしい可能性を秘めてるんだけども


「あのね、今は冗談言ってる場合じゃないの! 俺が何年もやって慣れきっちゃったから、初心者コンテンツの難易度がズレちゃってるっていう大問題の話だろ!」


 ──やっぱりダメでした

 ──あっかーん! 結局わかってへん!

 ──誰かー、リアの嬢ちゃん呼んできてー

 また怒られそうなので、リアを呼ぶのはやめて欲しい。

 話をしながら草原を抜け、湖畔地帯を駆け抜ける。距離もあるので、さすがにフルトラのコントローラー操作だ。


「それにしても叔母さん、リアに話すことをあっさりオーケーしてたけど、大丈夫なのかな」


 ──そこは問題ない。テストも手伝ってもらうし

 ──うちの社内事情もありますんで、甥っ子君が喜んでればそれでええ

 ──元々言ってもいいよって話だったっしょ


「建前かなーと思ってたよ。そっか、テストプレイヤーは多い方がいいもんな」


 ただリアがテストに参加したら、俺って要らないんじゃない?


「なんとなくだけど、リアって一般人の俺よりすぐ上手くなるんじゃって気がしてるんだよね。最初から動けてたし、ストリーマーの知り合いもいるみたいだし……」


 ──自分が逸般人であることに気づいていない自称一般人

 ──ハハハご冗談を

 ──リアちゃんがプレッシャーで潰れちゃう


「そんな言うほどなのかなあ……本当に、まだ全然信じられない」


 ──ワイらが悪いんやけど、どうしたら自覚してくれるんや

 ──頼んだぞリア嬢、甥っ子君に常識を叩き込め


「リアより常識がないって言われるのはさすがに困惑する」


 自分は世界一可愛いと真顔で言い切って、実績解除のためならアバターの服だってあっさり脱がせるようなやつだぞ。

 ただ──そうなっちゃったのもわからなくはない。


「……あれだけ美人だと色々あるんだろうね。わざわざゲームのコンプリートにのめり込むぐらいだし」


 ──外見の関係ないオーバーカムに来たのもわかるぐらいのキャラグラ

 ──あの顔をそのまま出して普通に過ごせる学校はオーバーカムだけ


「同情ってわけじゃないけど、本当に手伝いたいとは思うよ」


 楽しい学校生活を送って欲しいよね。


「一緒に遊ぶ時間はあんまり長くはないだろうけどさ」


 ──なんや急に死亡フラグみたいな

 ──この学校クラス分けないし、三年一緒だよ



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